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監視   ~その3~


※前回までのあらすじ
 美しい隣人・アヤに一方的に想いを寄せる青年・僕は、アヤの日常を監視する事に生きがいを見出していた。僕はアヤの交際相手のマーくんに対して激しい嫉妬と憎悪を募らせていた。アヤとマーくんが梅田の居酒屋で密会するとの情報を知り得た僕は、先回りして居酒屋に潜入し二人の動向を監視するのだが・・・

僕はアヤさんから気持ち悪がられていたのだ。ショックだった。こんなにアヤさんを想っているのに、なぜなんだ?
「ああ、隣のキモオタか・・あれはヤバいな。気ぃつけや。何かされる前に引っ越した方がええで。」
黙れ!貴様に何がわかるというのだ。僕が隣に住んで常に監視してるおかげで、アヤさんは平穏無事に日常を過ごせているのが理解できないのか?ああ?
僕は貴様とアヤさんの交際を1ミリも認めちゃいないぞ。貴様のような見栄えだけは良いが中身が薄っぺらな男はアヤさんのパートナーには相応しくないのだ。

僕は激しい憤りを感じて居ても立っても居られなくなっていた。しかし僕に対する彼らの蔑みは更に増していった。
「ほんま、どないかして。あーキモい、無理無理。何か普段もストーカーされてそうでマジ怖いわぁ・・・」
僕は高ぶる気持ちを抑えて密かに彼らの会話に耳を傾けていた。この場で彼らの前に飛び出していっても、罵倒されて悲惨な目に遭うのが関の山なので、息を潜めて彼らの動向を窺がいつつ尾行と監視を継続した。

およそ2時間ほど飲んで食べて楽しく談笑していたアヤさんとマーくんは、会計を終えて店を後にしたので僕も続けて店を出た。
ほろ酔いで上機嫌のアヤさんは終始マーくんの腕に絡みついて今にもその場で破廉恥な行為に及びそうな雰囲気を漂わせていた。僕はそんな二人を複雑な心持ちで眺めながらもひたすら後をつけていた。
やがて彼らは互いにしなだれかかりながら吸い込まれるように、とあるラブホテルへとフェードインした。
さすがに男一人では入れないので、僕は監視を諦めておとなしく撤収した。

モヤモヤと苛立ちで今夜は眠れそうにない。
どうしたらあの男をアヤさんから引き離せるのだろうか?
僕は思案した。そして閃いた。そうだ!奴がアヤさん以外の女と関係を持っている事をアヤさんが知る事にならば、アヤさんは奴の元から離れていくだろう。もしもそのような不貞の事実が無かったら、ハニートラップを仕掛けて奴を罠に嵌めちまって偽りのスキャンダルをでっち上げれば良い。そうだ、そうだ。ああ、今日の僕は一際冴えてるぞ。

こうなれば善は急げである。早速僕は腹正しい恋敵である奴の日常を監視する事とした。奴のどこかチャラい雰囲気は必ず不特定多数の女と不貞行為に及んでいるだろうと推測されるので、根気よく奴を監視して決定的な場面をスクープしてやろうと決めた。さしずめ僕はパパラッチになったような気分でいた。

ー後日ー

奴がアヤさんの部屋を訪れる日時は実に不定期だ。週末だったり平日だったりと定まっていない。
よくよく監視していると奴は夜間に唐突にやって来て、部屋に入って即効で情事に及ぶ事が多い。もしかしたら奴はアヤさんを都合の良いセフレにしているのでは?との疑惑が頭をよぎった。
こうなると増々奴の身元を正確に調査する必要を感じた。奴が既婚者である可能性が浮上してきたからだ。

そして僕は本格的に奴の身元調査を行う事となった。
いつもの如く激しい情事を終えてアヤさんの部屋から出て来た奴を僕は慎重に尾行した。
奴が自分の車を近所のコインパーキングに停めてアヤさん宅へ赴く事は既に調査済みである。奴は黒いコンパクトカーに乗り込みコインパーキングを後にした。僕はジモティで最安値で購入した中古の125ccのスクーターで奴を追跡した。僕は衣服もスクーターもフルフェイスのヘルメットも目立たぬように暗いネイビーブルーで統一している。下手に明るい色だと目立って奴に気付かれるかもしれないからだ。

豊中方面に向かって10分ほど走ると、奴はとある3階建てのハイツの敷地内にある駐車場に車を停めた。
僕はハイツの向かいにあるコンビニの駐輪場に適当にスクーターを停めて引き続き奴を尾行した。
どうみてもファミリー向けのハイツである事は一目瞭然である。奴が単身で住んでいるとは考えにくい。
奴は2階の最も北側の部屋へと入っていった。奴の本名が判明した。奴は森本マサヤ、なるほどそれでマーくんか・・・嫁はレイラ、子供はシオン、やはり既婚者だった。

通路でそっと聞き耳を立てていると中から嫁らしき声と幼い男児らしき声が聞こえてきた。
「パパー!おかえりー!」
「ただいまー!シオン、もう遅いから寝なあかんでー!」
「パパの帰りが遅いからシオンは起きて待ってたんやで。もうちょい早よ帰れんの?」
「ああ、ゴメンな。今めっちゃ忙しいねん。ほんまゴメンなあ・・・」
お前らのパパは夜な夜な不倫相手の家で寄り道しとるわ。嫁と子供が哀れである。全くもってけしからん男だ。

僕は翌朝、奴の出勤時に奴が嫁と子供に見送られながら自宅から出てくる場面を撮影した。奴が既婚者である動かぬ証拠となるだろう。
その日は奴にぴったり張り付いて徹底的に調べ上げた。
奴の勤務先、職務、役職、その他もろもろの個人情報を可能な限り入手した。調べた結果、奴の素性のドス黒さと異常な性癖に僕はドン引きした。
奴の交際相手は、いや都合の良いセフレはアヤさんの他に3人も存在していた。正真正銘のクズだ。
アヤさんはなぜこんなクズに引っ掛かってしまったのだろうか?
一刻も早くアヤさんを救わなければならない。


つづく







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