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熱狂

 人は弱い。自分が正しいことをしてきた。正しい道を歩んでいるんだ。そういう認識で、自分の世界観で生きていても、必ず「矛盾」が生じる。そして、僕たちはそのほころびを隠すようにきれいごとを記憶する。だから、昔、誰かをいじめたことがあるのも、いじめの傍観者であったことも、場の空気に覆われて何もできなかった自分も忘れてしまう。本当に「記憶にない」のだ。でも、もしそういう「矛盾」の記憶の地続きに今の自分が存在しなければならないとしたら、その記憶は「善い人生」を歩む足枷になるだろう。だって、そんな低俗な自分を許せるわけがない。正常な人であるほど、俺はそんなもんだとそっぽを向いてしまうだろう。だから、忘れてしまう弱さは人が強くなるために必要なんだと思う。
 でも、この忘却の弱さを理解していないと、僕たちは「傲慢」になる。名声を手に入れた大物やエリートは時に裏側で人道から外れた汚職をする。スキャンダルは権力と忖度で覆い隠す。それでも、この人たちにとって、これらは生きていくために忘れるべきサブストーリー。それではなく、結果的に「名声」をはこんだ努力や感動、友情の記憶が、自分が歩んできた道であると本気で信じている。
 これはこの文章を書いている僕にもいえること。矛盾した記憶に囚われていたら前には進めない。でも、周囲におだてられて本気で「それ」を忘れてしまうと、人の道を外れるかもしれない。地に足がつけず綺麗ごとをペラペラと口から発する大人になってしまうかもしれない。

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