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諸行無常の教えを螺旋的発展へ

松下幸之助 一日一話
10月16日 諸行無常の教え

その昔、お釈迦さまは、“諸行無常”ということを説かれました。この教えは、一般には“世ははかないものだ”という意味に解釈されているようですが、私はむしろ“諸行”とは“万物”、“無常”とは“流転”と考え、諸行無常とは、すなわち万物流転であり、生成発展ということであると解釈したらどうかと思うのです。言いかえますとお釈迦さまは、日に新たでなければならないぞ、ということを教えられたのだということです。

これはたんに仏教だけの問題でなく、お互いの日々の仕事をはじめ、お互いの人生、社会のあらゆる面に当てはまるのではないでしょうか。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より

「万物流転」とは、ギリシャの哲学者であるヘラクレイスト(B.C.540-B.C.480頃)によって提唱されたパンタレイと呼ばれる概念になります。このパンタレイは、簡単には世の中が小さな事象の集合体によって構成されているとした場合に、全ての一事象には時間軸が加わってくることで、時間的な変化があるとするものです。

このパンタレイの概念を近代において発展させたのがドイツの概念論哲学者であるヘーゲル(1770-1831)と言えるのではないでしょうか。ヘーゲルの概念は物理学の「相転移」という現象を進展させたものであり、量が質を変える弁証法として多くの人に知られています。この弁証法の法則の中には、事物の「螺旋的発展の法則」があり、これは物事の発展はニ次元の横から見ると直線的に上へ上がっていくように見えるが、これを俯瞰してニ次元の上から見ると同一円を回帰するように回って見える。更に、角度をつけた三次元の斜め上から見るとあたかも螺旋階段を登っていくように、歴史は進化、発展していくとするものです。

このヘーゲルの弁証法における「螺旋的発展の法則」というものは、二次元の中では一見すると同じような回帰を繰り返しているように見える一つの事象においても、そこに時間軸を加え三次元にすることによりそれまで見えなかった経験値という量の増加を見える化することとなり、増加した経験値により一つの事象がそれまでに持っていた性質を変化させることに繋がっているのだということを現す法則であるとも言えます。

正に、お釈迦様の仰る諸行無常、或いは、松下翁の仰る万物流転を具体的な現象として表現した法則であると言えます。

この螺旋的発展を加速させる経験値という量を増加させるためには、四書五経の一つである大学にある次の言葉が適していると言えます。

「苟日新、日日新、又日新」(大学)
(まことに日に新たに、日々に新たに、また日に新たなり)

中国最古の王朝である殷(いん)において名君として名高い湯王(とうおう)が洗面の器に刻み日々の自戒の為に用いた言葉と言われ、「昨日よりも今日、今日よりも明日と、日々よりよくなるように行いを正していかなければならない」という意味です。

湯王の臣下には、仲虺(ちゅうき)や名補佐役として伊尹(いいん)がいました。 伊尹は湯王のことを以下のように評しています。

一、部下の諌言によく耳を傾け、先人の教えからも熱心に学ぼうとした。
一、部下として上の者に仕えるときにはまじめに職責を果たし、責任のある地位についたとき には組織の隅々まで掌握していた。
一、人に対しては寛容な態度で接したが、自分については厳しく律し、しかも妥協しなかった。

湯王は、仲虺や伊尹を含めた臣下からの箴言を大切にしていたと言われています。仲虺は湯王に対して以下のような箴言をしたとされます。 

「徳日に新たなれば、万邦これ懐(なつ)き、志自ら満つれば、九族すなわち離る」(仲虺)

 王が日々、徳を身につけるよう心がけるなら、もろもろの国が慕い寄ってまいりましょう。逆 に、自分の欲望だけを充足させようとするなら、身内の人々も離れていきます。という意味です。

後の世において、名君と称される湯王は、「苟日新、日日新、又日新」からどのような経験値という量を増加させ、螺旋的発展につなげていたのかが伺えると私は考えます。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp

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