見出し画像

電信サンセット 【ショートショート】

高架の側に建つオレンジ色のマンションに、男は暮らしている。
絵筆を執り、半切の画紙の上をしゅるしゅると走らせる。
描線はたちまち起き上がり、飛び立つ。
立体的な厚みと熱を持った鳥として。

山脈の向こうの川沿いの一軒家で、少年は生活している。
新時代のヘッドホンを備え、羽音の電波を傍受する。
寝室兼書斎の出窓に、降り立つ。
温かさを残して概念化する鳥。

山の端と空の間に、男は雲を見る。
龍のような形をしたそれが、巻き物を咥えている。
男は大気に手を伸ばし、掌握する。
食すれば内容を飲み込める。
再び、絵筆を執る。

空腹の龍を、いつもの出窓で少年が迎える。
備蓄した意味と象徴を文字に起こし、筆記する。
少年は用紙をくるくるとして、龍に託す。
Go!と後押し、見送る背鰭。
やはり、鳥を待つ。

魔術的な空の色を背景に、飛翔し滑空し遊泳する生物もどき。
鳥は高速で東へ向かい、龍は時空を超えて西に戻る。
けたたましい静寂の奥で、控えめな欲望の麗しい色味を撒き散らす。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?