見出し画像

カニクリームコロッケと向き合ったら春巻になった話。

「向き合う」とか「寄り添う」という言葉が巧みに使われている時代だな、とふと思う時がある。みんないつも何かしら他者と距離を感じていて、まずはその疎外感を埋めるところから物語が始まったりするんだろう。便利な言葉なんだろうけど、向き合うとか寄り添うとかいう初手のアクションだけで満足してしまって、その実何も相手の懐には届いていなかったりすることも案外多いと思う。そのへんはちょっと注意が必要な気がする。

とかなんとか利いたふうなことを書いてみたりして。

さて、今回は今まで意外と距離が縮まったことがなかった料理に向き合ってみましたよ、という話。それなりに真面目に向き合った結果、当初の目論見とはぜーんぜん違うものができてしまった。でもまあそれも面白かったからいいか。

高価なカニ缶の使いみち。

カニクリーム春巻02

90年代のバンドが「高価な墓石を立てるより 安くても生きてる方が素晴らしい」といみじくも歌っていたけど、まさにそんな生活を地で行くのが我々夫婦であって、高価なものにはトンと縁がない。カニなんて年に一、二回口にできればいいほうだ(カニカマは冷蔵庫に常備するレベルだけど)。

しかし必要があって、数千円するカニ缶を買うことになった。おおよそ生のカニがふつうに買えるぐらいのお値段である。セコガニが丸ごと一杯缶詰になった、それはそれはゴージャスなプレミアム缶詰である。どう食べたものか迷っていると、妻がトテッと提案した。

「カニクリームコロッケにする?」

それは正直、素晴らしい提案のように感じた。カニクリームコロッケ、それは、その存在はいつもぼんやりと視界の片隅に映りながら、今まで一度も近づくことのなかった料理。肯定や否定、好きやキライ以前に、なーんとなく今まで作って食べようともしなかった料理。思うにカニが手に入るとすぐ違う食べ方でガツガツ食べ尽くしちゃうからかもしれない。この機会に作り方をマスターしとくのもいいかも。

作り方を想像すると、道のりはそれほど険しくないようにも思えた。さっそく我々はとりかかった。

ベシャメル後混ぜ方式を採用。

料理サイトなんかで調べると、どうもカニクリームコロッケの作り方には大きく分けて二通りあるようだ。すなわち、玉ねぎ、カニを炒めたところに小麦粉や牛乳を混ぜてひと鍋でクリーム状まで持っていく「ベシャメル一体方式」と、具の玉ねぎ、カニは別で炒めてベシャメルと合わせ、クリームにする「ベシャメル後混ぜ方式」

実際どっちが作りやすいかわからなかったので後混ぜ方式で行くことにした。初心者は不精をしないで別々に作った方が、きっと失敗が少ない気がしたからだ。

カニクリーム春巻03

細かめに刻んだ玉ねぎ(一個ぶんぐらい)を炒め、しんなりしたところにカニ缶を汁ごとドーン。炒めはじめて気づく。あ、これ妻の苦手な内子、たっぷり入ってるやつだ。そりゃそうか、セコガニだもの。

ヤバイ。どうしよ、キライ、食べれないって言われたら(妻は魚卵のプチプチ感が大キライ)内心焦りつつ、そっと大したことないふりをしてダイニングの妻に打ち明ける。

「これさあー、内子わりと(ウソ、たっぷり)入ってる。プチプチのやつ。君あかんかも」

すると意外にも妻は表情ひとつ変えず、こう言ってのけた。

「そうなん。いけるんちゃう。しゃあない」

拍子抜けした。きっと妻の中でもったいない(高価な缶詰を食べたい)気持ちが勝ったのだろう。現金なヤツである。ホッと胸を撫で下ろす。

カニクリーム春巻04

いったん玉ねぎとカニを取り出し、ベシャメルをせっせと作る。分量としてはバター30g、強力粉大さじ2、薄力粉大さじ2、牛乳たぶん300〜400mlぐらい(追々足しながら目分量でやってるからわかりません、ごめんなさい)。

思えばこの目分量が後々災いするのかも。

カニクリーム春巻05

両者をドッキングして混ぜまぜ。塩を入れ忘れたのでここで一振り。

カニクリーム春巻07

うん、ほどよい「とろみ感」な気がする。しかし思っていた以上に内子のつぶつぶ感。本当に大丈夫かなあ、妻よ。

一晩寝かせて固めてみたら……。

カニクリーム春巻08

カニに限らずクリームコロッケ最大の手間は、このクリームを冷やして固める作業にある。そうしないとやわらかすぎて衣がつけられないのである。愚直に一晩待つことにした。

チャラチャラチャッチャッチャーン(ドラクエの「宿」のSEです)♪

いざ次の日の夜。せっせと揚げる準備をする。実は、この日のためにとっておきの食材をもうひとつ用意していた。

カニクリーム春巻09

我々が敬愛してやまぬ神戸の老舗パン屋さん「イスズベーカリー」のパン粉である。先日本店に立ち寄った際、見つけるや否や購入したものだ。

カニクリーム春巻10

広げたスーパーのチラシに撒き、妻が一口ゾゾゾっと味見する。

「うわー、ちゃんとパンとしてうまい」

これは期待が持てる。

……が、しかし、物事はそううまくは運ばなかった。今まで一度もクリームコロッケを揚げたことのない夫婦には、料理の神様はやすやすと微笑んではくれなかった。

一晩待ったのにまだタネがゆるくて、うまく衣がつかないのである。

狼狽した。あまりの取り乱しように写真撮るのを忘れたほどだ。

もしかしてベシャメル後混ぜ方式にしたことが災いしたのかなあ。初心者は逆に、全部ひと鍋で最終的な仕上がりのもっさり感、固さを把握できたほうがよかったのかも。

えー、この場合どうすりゃいいってインターネットは言ってるの? とスマホに指を滑らせると、なんでも、いっそ凍らせるぐらいが素人にはやりやすいらしい。

くおー。また一晩待つのかよー。拳を握りしめながら、この日はありあわせのものを食べてしのいだ。

食べながら、妻がまた絶妙なソリューションを思いついた。

「凍らすのも試すとして、春巻にもしてみたらええんちゃうん?」

コロッケ&春巻の「挟撃作戦」。

翌日。カニクリームコロッケに着手して3日目の夜である。仕事が忙しい私に変わって、妻がコロッケの衣をつけ、春巻きの皮を巻いてくれた。

カニクリーム春巻11

一個分ずつラップに包んで凍らせたものに衣をつけたら、無事ついた。

カニクリーム春巻12

春巻の具も、バットに平たく伸ばして凍らせたものを棒状に切って包んだ。

カニクリーム春巻13

もうあとは揚げるだけ。勝利は見えた。

カニクリーム春巻14

……かに、思ったが。 カニだけに、勝利は見えた、カニ思ったが。

うおー、春巻はどこからともなくカニクリームがぶりょぶりょ漏れてるやつあるー。コロッケも破裂しかかってるやつあるー。それぞれ別々に揚げたが、一瞬の油断もならなかった。こんなに難しいとは、カニクリームコロッケを侮っていた。

でもでも、どうにかリカバー、できあがり!

カニクリーム春巻15

なんとか悪戦苦闘の結果、ひとつもダメにせずにお皿に盛ることに成功。

カニクリーム春巻17

見た感じ、よく揚がってる。熱々に歯を立てて、ハフハフかぶりつくと?

「うまーい!」妻の顔がほころんだ。

カニクリーム春巻18

カリッとした揚げ春巻の中からカニクリームが出てくることの違和感は、意外とそんなになくて、普通に楽しい食感に仕上がっている。カニ缶も高級なやつだから、カニの風味がすごい勢いで口中に広がる。

これは、おいしいぞー。

カニクリーム春巻19

塩気が足りない分はマヨ&スイートチリソースで。これも合う。

撮影しなかったけど、コロッケの方もまごうことなきカニクリームコロッケに仕上がっていて、こちらはおたふくソースが絶妙にマッチ。

紆余曲折はあったけど、最終的には成功だったと言えるんじゃなかろうか。妻の春巻転用案が窮地を救ってくれた。ありがたやー。こういうときひとりじゃないって素敵よね。失敗はフォローし合えるし(主にフォローしてもらってるけど)、成功の喜びも分かち合える。

3日がかりのカニクリームコロッケ&春巻、おいしくいただきました。いやっほーう。

最後に妻の総評を記して終えたいと思います。

「春巻もコロッケも全部カニクリームだと、さすがに後半、飽きます」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?