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出産れぽ。

この2年間
ずっと書きたかった出産の話

何度も書こうとしては痛みを思い出して手が止まった
やっと書けた
2年経ってもまるで昨日のことのように思い出せる痛みの記憶
文字にすることで心の整理をつけれられるかもしれない

実際に出産前にはいろんな人の出産体験記を読んだ
読んでは大丈夫だと励まされたり
落ち込んだり不安になったりもした

今妊娠中の人は不安になったら読むのを一旦中断して欲しい
妊娠中は幸せな気分で落ち着いて過ごしてもらいたい
無駄に不安を煽りたくない

ここから書くのは私の個人の体験談
痛みに向き合った嘘のない記録

2019年2月某日

陣痛のはじまり

深夜番組を見ている時にそれは始まった
きゅうぅ…っと下腹部が痛む
前駆陣痛かもしれない
気のせいかもしれないと
安静になって過ごしてみる

ぎゅうううぅ…
あ、気のせいじゃない
スマホのアプリで陣痛の感覚を計ってみると
10分間隔になっていた

慌てる夫を落ち着かせて荷物をもって車に移動する
日付が変わってから産院に連絡して診察してもらった

陣痛から1時間(0:00)

NSTをつけて等間隔に陣痛が来ていることを確認される
そのまま入院となった

夫が「俺、日勤だったから家で寝てきたい」という
助産師が「お布団産院で貸せますから奥さんの側にいてください」
と提案してくれる

「家でしか眠れないんで」と一蹴される
助産師の視線が冷たい
私まで身が縮まる思いをする

「陣痛が急に進んだら連絡する。電話は近くに置いておいて。
立ち合いに備えて家でゆっくり休んできて欲しい」と送り出した

初産ということもあり
予想通り朝までゆっくりとしたペースでしか
陣痛は強くならない
しかし出産は確実に進んでいた

陣痛から8時間(7:00)

重い生理痛のような痛みがあった
朝食を半分くらい食べる
そのうちに夫が合流した
自宅でたっぷり睡眠をとりスッキリとしていた

陣痛から10時間(9:00)

外来が始まる前に主治医が診察にくる
前日の夜から10分間隔なのに
あんまり進んでいないことを気にしていた
微弱陣痛だ

バルーンカテーテルと陣痛促進剤を使って
陣痛を強くすることを提案された

同意書を書き処置室に移動する

バルーンが抜ける時の方が人によっては出産より痛い
主治医はそんな不穏な事を言いながら
内診台に乗る私の子宮口にバルーンを挿入し
生理食塩水を注入していく

あとは重りをつけて抜けるのを待つことになった
どんな重りをつけるかは是非画像検索してもらいたい
思ったよりも原始的で驚くと思う
処置室のベッドに移動しその時を待った

陣痛から12時間(11:00)

引っ張られている重りがグンと急に引っ張られているような気がした
腹の中で何かがブチブチと切れる音がした
その途端耐えられないほどの痛みに襲われる

「あーーーーー!」と叫んでいた
痛いという言葉さえ出なかった
夫はその姿を見て完全に怯えていた
声を聞きつけて助産師が「どしたどしたー?」と訪室してくれた

「あ、もう少しで抜けるね」
慣れた手つきで産褥ショーツを開き予想以上にドバドバっと出る
勢いのある血をパットで受けて
おつかれさーんと言う
頼もしすぎた

出てきたバルーンのサイズは一番太い所が大体ニンジンくらいの太さだった
これの何倍も大きな胎児がこれから出てくる
私はこれからとんでもないことをしようとしているような気がした

主治医が来て一旦休憩しましょう
昼食後に陣痛促進剤を開始しますと去っていった

痛みが強かったせいで吐き気があり
出された昼食は全く手を付けられなかった
夫が完食してくれた
フルーツだけでもと言われてリンゴを齧った

陣痛から14時間(13:00)

予定通り陣痛促進剤を入れていく
その名のとおり陣痛を進める薬だ
点滴で薬液の量を少しずつ増やしていく

30分に1度のペースで助産師が薬液を増やしにくる
着実に陣痛は強くなっていく
点滴の薬液を調整する箱をパカっと開けてはピッピッ!っと
事務的に増やしていく

その度に子宮が縮まる痛みに脂汗を流した
波形に合わせて押し寄せる痛みに
胃液を吐きながら耐えた

耐える以外にコマンドがない
この時間が一番辛かった
もう途方もなく意識も朦朧としていた

陣痛から16時間(15:00)

疲れがピークだった
痛みを紛らわすために無意識にベット柵に頭をぶつけていた
気付いたらメガネのフレームが曲がっていた
額には痣が出来ていた

長すぎる陣痛に夫も疲労していた
「限界やからアイコス吸ってきていい?」
勝手に行ってくれ
朦朧としていた意識が戻ってきた
怒りが私を正気に戻した

ついでに下の自販機で炭酸飲料買ってきて!と送り出した
そして急に一人で頑張っているかのような孤独感に襲われた

私は限界が来ても休憩出来ないのに
なんでなんでなんで
理不尽だな…そう思うと勝手に涙が出てきた


そのタイミングで薬液を増やしにきた助産師に
「もう出産やめたい」と言葉に出していた
助産師に「逃げるな!向き合え!」と頭を掴まれて言葉をかけられた

今欲しいのはそんな言葉じゃない
そんなこと言えずに涙と汗と胃液だけが出てくる

最終ラウンドに向かうボクサーとトレーナー
誰もタオルを投げ込んでくれない

ウエルター級分娩タイトルマッチ
この試合はいつ終わるか分からない

腰の骨が開いていくのが分かる
胎児が通過するために身体が適応していく
骨の位置が変わるなんて本当に人間はすごい

夫が喫煙から戻り優しく微笑んでいる
励まそうとして笑っているが感情を逆撫でされる
ニコチンを摂取して心の安定を取り戻した様子だった

心の中でピーンと張っていた糸が弾けるように切れた
「おい!随分ヘラヘラしてんな!」
これは八つ当たりだ
「これからは私に言い訳しないで」
普段の怒りの蓄積だ
「全部YESって言うこと聞かないと許さない」
夫婦の力関係にマウントを取る瞬間だった

え…でも…夫が言いかけては
「でもとかだってとか…口答えするなぁ!!」と半狂乱になっていた
「水と炭酸飲料を交互に飲ませろ!」
わがままにも程がある
言い方もキツすぎる

あと部屋が暑すぎて不快だった
暖房を切るように指示する

助産師が赤ちゃん出てくると寒いから暖房はきれないという
そして何か言いたげな夫に対しては
「ご主人、ここは体力に余裕があるほうが譲りましょう」と諭してくれた


陣痛から20時間(19:00)

終わりの時間が近づいてきた
内側からなんか押されてる
プッチンっとお腹の中で音が鳴った
あ、破水するかも
本能的に分かった

ナースコール押して!!
夫に言うも私の声がデカすぎてナースステーションから助産師が走ってくる

「内診しますねー!おっしゃ!よし!10cm」
「笹井さん全開です!先生呼んできてー!!」

破水するかもしれないです!
そう言った瞬間に羊水が床にビチャビチャッー!と叩きつける音が聞こえた

よし!分娩進んでるよ!あと少しだよ!
さっきのスポ根トレーナー助産師が励ましてくれる
血液も羊水も気になんかしてられない

そこからはあっという間だった
ベッドがガチャガチャと分娩台に変形する
足と手を固定してモニターの波形に合わせて
下腹部に力を入れる

さっきまでの絶望感が嘘のように
ゴールが見えた途端よっしゃ!もういっちまえ!と
スパートがかかる
脳内セコンドがそこだ!行け!とリングの床を叩いている

1回イキんだだけでもう頭が出て来ていた
「上手だよ!頭が…髪が見えている」と助産師が言う

会陰切開に先生がやってくる
私の角度からしか見えないが先生の頭頂部が薄かった
髪と頭頂部が変に繋がってしまって笑えてくる
出産ズハイとしかいえない

そこから陣痛にあわせて何度かイキむが
何度か引っ込んだ
ああ、もう…じれったい
引きこもってんじゃない
もう出て来てくれ
もうその部屋は今日で退去取り壊しなんだ
早くその顔を見せて欲しい
エコーで見ていた可愛いその姿を見たい

やっと母親らしい気持ちが芽生えた
お願いだから頑張って出てきて
おかあさん、頑張るから
そんな風に心の中で我が子に話しかける


変形したベットの柵に手をかけながら
バケツの水を引っ張りあげるように持ち上げて!と言われる

陣痛の合間に
「頭見えてますか?毛生えてますか?!」
痛みと疲れで混乱していた

先生もいるんだった、若干気まずい
「フサフサしてる!」助産師が悪気なく言う

陣痛から21時間(20:00)誕生

「次で出るよ!頑張って!」
その言葉の通り
ドゥルンと出て来てくれた

細い管で口の中の羊水を吸い出す処置を受けて
「ホキャァーーーー!ンニャァァーーー!」
と高めの産声を上げた

分娩室にいるスタッフ全員に拍手された

おめでとうございます
おめでとう
おめでとー!

アニメ版エヴァのラストシーンみたいだった
全ての人にありがとう

普段感情を表に出さない夫も泣いていた
泣きながら臍の緒を切ってくれた
「ゴムホースくらいの硬さですね」
と半泣きで先生に話している

いいなぁ、私も切ってみたい
ケーキ入刀みたいに臍帯剪刀を2人で持ちたい

ここは腕が千切れるほどに
背中や腰をさすってくれた夫に譲った
なんやかんやで朝からほぼ付きっきりで
支えてくれたのだ

途中パニックになりありとあらゆる
罵声を浴びせたことも少し後ろめたかった


こんなにも嬉しい瞬間は人生にそう多くない
身体はガタガタだけど謎の爽快感があった

やりきった
今まで何一つ成し遂げたことのない私も
何者かになれた錯覚があった
これからも生きていていい
全肯定された気がした

そんな風に思った

長い陣痛とバルーンと陣痛促進剤の末に
我が子はこの世に誕生した

出産後の処置でぐいぐいと腹を押される
普通に痛すぎるんですが本当に必要なのこれ
押し黙って目で主張していると

これやらないと血が止まらないから我慢してと
言われたので納得

胎盤を出して見せてもらう
ふとホルモンが食べたくなった
お祝いは焼肉がいい
もう長いこと食べてないや

会陰縫合

会陰切開で切ったところを吸収される糸で縫ってくれた
その間我が子は身体測定されていた

縫っている途中で先生と雑談する
「これから何したい?」

私は妊娠中に仕事を辞めていた
仕事をしたいと答えていた
「これからは何だって出来るよ」と先生が言う
本当にそんな気がした

分娩台で股を縫われながら仕事に対しての
コンプレックスを払拭する
こんな体勢タイミングでする話題じゃないな
だけどこれが素直な気持ちだった

会話の最後で
「妊娠初期から心配なことばかりだったけど無事にお産できてよかったね」心から言ってくれていた

そして「毛フサフサでよかったね…?」
と先生が意味深に笑う
照明に跳ね返る反射が眩しい

ごめんなさい、失言でした
あなたは命の恩人です

助産師に身体を拭いてもらう
程よく温かくて心地いい

身体中の穴という穴から
色んなものが出ていた
汗も涙も恥も過去の過ちも全て拭ってくれた

補助してもらわないと立ち上がれない
全てを使い切ってそこに新しい命が産まれた

カンガルーケアを終えて初乳を与えた
その後透明なコットに寝かされてうごうごと動く
愛おしい存在が確かにそこにいた

そして産後の入院生活が始まった
部屋に戻ると夕食が置いてあった
温め直してくれていた
その一手間の優しさがありがたい

手が震えて箸が持ちづらかったけど
全部美味しく頂いた
全ての命にありがとう
ごちそうさまです


それはまた別の話で



余談だがLDR室でオルゴールのBGMでかかっていた
オルゴールのJ-POPを今聴いても当時の感覚を思い出す
トラウマBGMになった
これは結構あるあるだそう

以上、出産れぽでした
最後まで読んで下さった方ありがとうございます
フォローやスキが励みになりますので是非お願いします

もし妊婦の人が読んでいたら伝えたい
無茶苦茶痛いけど大丈夫だったよ
周りの人に支えられて頑張れる
人生が変わる体験だったよと抱きしめてあげたい

ただ、それだけ。

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無印良品のポチ菓子で書く気力を養っています。 お気に入りはブールドネージュです。