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『プロメア』映画評・理屈を超えた感動

◯前書き

こんにちは。ササクマと申します。趣味で映画評を書く、自称映画ライターです。誰かに頼まれたわけでもなく、勝手に細々と書き続けますが、ここ最近はnoteで3万円稼ぐことを目標にしております。金の亡者と成り果てたわたしの映画評、とくとご覧ください。

今回はアニメ映画の『プロメア』評。実はこの作品、わたしが映画評を書くキッカケとなった、思い出深いタイトルです。手抜きではありません。初めての映画評で気合が空回りし、拙い文章となっていたので書き直しています。

この映画評を書く目的はタイトルにある通りです。「理屈を超えた感動」は発生するのか? また発生するメカニズムは何か? それらを解き明かしたいと思います。

では、作品紹介からどうぞ。


○作品紹介


【あらすじ】

突然変異で誕生した炎を操る人種〈バーニッシュ〉により、世界の半分が焼失するという未曾有の事態が引き起こされる。そこから30年後を舞台に、〈バーニッシュ〉の一部攻撃的な面々は〈マッドバーニッシュ〉を名乗り、何かを燃やしたい衝動に駆られて幾度となく火災を引き起こす。

それを鎮火すべく、対バーニッシュ用の高機動救命消防隊〈バーニングレスキュー〉が結成され、主人公のガロは新人隊員ながらも活躍。燃える火消し魂を持つ彼は任務中、〈マッドバーニッシュ〉のリーダーであるリオと出会い、激しい戦闘に突入する。


……ややこしい設定が盛り沢山です。これだけを読むとガロとリオの対決が話のメインかと思いがちですが、あらすじの内容は体感10分くらいで終了します。いきなりクライマックスです。何を言っているのか分からない方は、公式にて本編冒頭アクションシーンが公開されているので、ぜひご覧ください。

ここからさらに、物語は人種差別や世界の命運へと複雑化して行くことに。人類の存亡を懸け、決断を迫られたガロは一つの答えを導き出します。



【スタッフ】

■監督:今石洋介
『新世紀エヴァンゲリオン』で有名なガイナックスを経て、アニメ制作会社トリガーを設立しました。常にアニメならではの、斬新な演出方法を模索し続けています。今回はシンプルさを追求し、線画の色を塗りの色に馴染ませる、色トレスという技法をほぼ全編に施したとのこと。

中島さんとは2004年公開のアニメOVA「Re:キューティーハニー」で仕事が一緒になり、その3年後に『天元突破グレンラガン』で再タッグを組みます。

ちなみに、猪突猛進で能動的な男をイメージすると、どうしてもカミナのような髪が逆立つキャラになるとか。ただ、それは監督が描く破天荒な男主人公像だからこそ、自分たちの必殺技として真っ向勝負します。


■脚本:中島かずき
劇団⭐︎新感線の座付き作家。代表作は『髑髏城の七人』であり、「いのうえ歌舞伎」の世界観には欠かせません。また大の特撮好きで『仮面ライダーフォーゼ』にて初のメイン脚本を担当しました。爽快かつ熱い物語を手がけるのが特長です。

2014年に『キルラキル』が放送終了してから、炎生命体プロメアの構想はあったらしいです。2015年連載の漫画『炎炎ノ消防隊』のパクリ疑惑が浮上しましたが、その可能性は時期的に低いかと思われます。

というのも、中島さんは信じられないくらいのアイディアマンです。アニメ映画『忍者バットマン』では誰も考えつかないような案を出しまくり、『ポプテピピック』を監督した水崎さんに「もう二度と会議中トイレには行かない」と言わしめたほど。

……まぁ、なんのこっちゃ分からないと思うので、参考記事を以下に張り付けておきます。


■キャラクターデザイン:コヤマシゲト
2004年『トップをねらえ2!』のガイナックス作品にて、メカニックデザイン、キャラクターデザインとして参加したことを皮切りに、その後も様々なアニメ作品に関わります。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』『交響詩篇エウレカセブン』『HEROMAN』『ガンダム Gのレコンギスタ』などの作品でデザインをこなし、さらにはディズニーの『ベイマックス』まで担当しました。

本作の企画初期段階では、今石監督と片っ端からビジュアル全体を描いて行き、コンセプトアートを決めてから現場用のデザインに落とし込んだとのこと。例えばガロはインパクト重視でモヒカンにしたものの、そこにはマイノリティの反骨精神が象徴として含まれます。また消防士の設定なので、襟足は刈り上げる細かい配慮が見える一方、写実的なリアルさは排除してモヒカンを大きくしました。

そのガロとは対照的に、リオは中性的な透明感が意識されています。それでいてクールさ、ダークさを出すと落ち着いたデザインになるのですが、ゴスっぽくアレンジされたライダースーツに、フリルのスカーフはインパクト大です。

ただカッコ良いデザインをするだけではなく、ワンポイントでキャラの個性を引き立たせる工夫が見られます。今石監督は子ども向けアニメに見られるカートゥーンのような、わかりやすさを好む作風のため、限られた特徴の中に意味を持たせる必要があります。やりすぎても不自然になってしまうのですが、そのバランス調整を見事にこなしました。


■音楽:澤野弘之
『進撃の巨人』などアニメのみならず、ドラマ作品でも『医龍』など数多くの楽曲を担当した作曲家。『プロメア』挿入歌の「Inferno」と、「NEXUS」は必聴の価値あり。

本人は特撮が好きで、劇中に主題歌が流れるとテンションが上がると述べています。またハリウッド映画のオーケストレーションに影響を受けているため、管弦楽の壮大なサウンド感が好きとのこと。

アニメの音楽制作は通常、音響監督からメニュー表を渡されて必要な曲を吟味するところ、今回は作品の設定資料だけで大まかに作曲しました。ただ上記で書いた通り、中島脚本で盛り上がる展開は理解しているため、歌モノの曲を作ったら今石監督が一発で気に入ったらしいです。


またスタッフだけではなく、キャストにも注目していただきたい。中島かずきさんが劇団⭐︎新感線の座付き作家のため、その繋がりで準劇団員達の配役が実現しました。


【キャスト】

「燃えていいのは魂だけだ!」
■熱血漢な主人公のガロ役:松山ケンイチ
『聖⭐︎お兄さん』からは想像もできないような、歌舞伎を意識した凄まじい声の張りと伸び。目立ちたがり屋の無鉄砲さと、頼れる男前さを見事に演じ切ります。

本人も『天元突破グレンラガン』の大ファンであり、舞台出番前の楽屋でアニメを観て、元気をもらっていたとのこと。作品が大好きだからこそ、今度は自分が元気をあげる側に回ると意気込みます。


「燃やさなければ生きていけない」
■〈マッドバーニッシュ〉リーダーのリオ役:早乙女太一
女形の経験があるためか、声が色っぺぇ。低音でありながら透き通ってます。クールな性格の中に熱い魂が宿っており、そんなリオの精神の危うさと、外見の可愛さが最大限に引き出されていました。

松山さんとは劇団⭐︎新感線「蒼の乱」にて共演。リオの心情について深く理解しており、彼が背負っているものの重さと、守りたい想いがブレないよう気をつけて芝居をしたとのこと。


「滅殺開墾ビィィーーーーム!!!!」
■プロメポリス司政官のクレイ役:堺雅人
クレイはガロが尊敬している人物です。当たり前な話ではあるんですけど、もう声が堺雅人さんそのまんま。堺雅人さん本人がアニメの中で喋っていると、錯覚してしまうくらいキャラに憑依しています。

松山さんとは初共演。早乙女さんとは劇団⭐︎新感線「蛮幽鬼」にて共演あり。パンフのインタビューにて、キャラを演じる上での洞察力が凄まじいことが分かります。筋肉の哀しき鎧、形を変えた自殺願望、そう言った深層心理があるからこそ、キャラクターが人物として魅力的になりました。


こちら三人のメインキャスト、叫び声が非常に気持ち良いです。平常時は穏やかな声音ながら、激情すると破ぜる声量とのギャップが印象的でした。聞いていて全く不快ではありません。むしろ爽快。物語終盤の「討論」では怒号が行き交うため、この叫び声は観客のボルテージを一気に底上げしてくれます。


○リアルな設定とシンプルな作画

「優れた物語は99%の現実と、1%の不思議で構成されている」

みなさん大好き、映画の分析手法です。これを使いたい方はわたしに弟子入りし、授業料30万円をお支払いください。

つまらん冗談は半分置いといて、本作の不思議要素は炎生命体プロメアです。前に書いた『リズと青い鳥』のような絵本ではなく、純然たるファンタジーな存在が現実世界にいます。

なので創作では、まずプロメアが現実世界にいる設定を固めなければいけません。

プロメアの正体は並行宇宙にいる知性を持った恒星です。核融合反応によって生命活動を、生成される磁場によって自意識を実現した生命体。次元断裂により地球のコアがプロメア宇宙と繋がり、プロメアと共振しやすい人間が炎の力を使用できます。


わけが分かりません。

あまりにも荒唐無稽な不思議を成立させると、どうしても設定が大ボリュームになります。2時間のアニメ映画では情報過多なのですが、本作では早口説明でさっさと流すという、乱暴なやり方で対処しました。

まぁ、不思議を理解できないのは当然です。しかしながら、複雑な設定を意外にも自分がすんなり受け入れたことに、みなさん違和感を覚えませんでしたか? そういうもんだと、野暮なこと言うなと指摘されれば終わりですが、この現象は今石監督と中島脚本だからこそ起きました。


まず、中島さんは物語の整合性を図るのが抜群に上手いです。例えば「グレンラガン」で今石監督がドリルをモチーフにロボットものが描きたいと企画したら、ドリルは螺旋で螺旋は「遺伝子」と「銀河」、つまり「進化」と「宇宙」だと連想し、地球人の螺旋エネルギーでロボットを動かしました。

そして「キルラキル」では企画会議にて、服をモチーフに戦う女子高生もので話が進みます。服を着るとは何か、コスチュームチェンジとは何かを考えて「生命繊維」を思いつき、人間が服を着ていたのではなく、服に着られた話として物語の構想がまとまりました。


中島さんの仕事は、基本的に注文住宅だそうです。監督が「これをやりたい」と企画を持ってきたら、自分のアレンジを加えて脚本を書き上げます。そのアレンジとは、過剰に盛って盛り上げられたものを、最後は綺麗に収束させることです。

上記の2作品、螺旋エネルギーやら生命繊維やら、未知なる物体が話の中心に据えられます。その不思議要素は屁理屈のようでありながら、実はロジックとして破綻していません。本当はありえないんですけど、その突飛なアイディアが広がってはまとまるので、ありえるかもしれないとまで思わせます。

そこまで行って土台が完成したら、後は何をしても話の整合性が保たれます。いきなり巨大ロボットが登場しても、世界の破滅を阻止するために開発されたんだねと、自分で勝手に理解してしまうわけです。いや結局はありえないのですが、映像を見てしまったら脳は否応無しに受け入れざるをえません。


99%の現実で物語を支えているからこそ、残り1%の不思議がどれだけ暴れようとも矛盾しない。

とはいえ、これはあくまでも物語構成での話です。脚本では不思議を成立させるため、複雑で膨大な設定量が詰め込まれますが、あえて『プロメア』ではリアルから遠ざけて作画しています。例えば直線的なフォルムを意識し、服のシワや髪などの細かい点を省略したり、色も質感を盛らず2~3色だけ使用するなど、徹底的にシンプルさを求めています。

なぜ絵をリアルに近づけず、デフォルメさせていくのでしょうか? その理由を今石監督は、インタビューで次のように語っています。

「中島さんの脚本は本当にドラマチックで、感情移入できて、その感情が爆発するダイナミクスがある。でも、映像があまりにアート寄りだと見ていて感情移入できないんですよね。」

物語がリアリティ構築のため複雑化する一方で、作画はリアルにせずシンプルさを突き詰める。映像の情報量を削ぎ落として分かりやすくできるからこそ、ありえないことをありえるように見せる、凝った設定の作品をアニメでやる意義があります。


○3DCGと手描きのバランス

『プロメア』の製作元(出資者)は、株式会社ミクシィのゲーム・映像事業「XFLAG」です。この部門はアプリゲームの開発・運営が主な業務ですが、コンテンツの魅力を伝えるためにアニメ映像を製作しています。特に「モンスターストライク」は会社の業績を支える大人気ゲームであり、アニメ化作品は2019年10月時点で世界累計再生回数4億回を突破しました。

潤沢な資金を持つ企業と共同製作できたので、『プロメア』では今石監督がこれまでやりたくても、できなかった3DCGでのビジュアルに挑戦しています。

3DCGとは三次元コンピューターグラフィックのことです。奥行きがある仮想空間の中に、複数のポリゴンを組み合わせてモデリングします。で、この作成したモデルを動かせばアニメーションです。めっちゃ簡略化しましたが説明しても専門用語のオンパレードなので、キャラクターを動かせる分だけ手描きよりも作業が効率化できる、くらいの認識でお願いします。

便利そうな3DCGのデメリットとしては、立体感があるので平面の作画と合わせると浮いてしまうことです。そのため実写映像の無機物や、デフォルメされたアニメキャラを描くには向いています。3DCGアニメで背景は実物のようにリアルなのに、登場人物が三頭身くらいのマスコットだと違和感バリバリです。アニメで実写映画を作るのは無意味ですが、フル3DCGでアニメを作れば絵は浮きません。

これをやってのけたのが『スパイダーマン:スパイダーバース』です。詳しくは以下の映画評でどうぞ。

記事の内容を参考にすると「スパイダーバース」は3DCGのデフォルメを活かし、狙って「動くコミック」のような雰囲気を出しています。確かにコミックとして見るなら、背景も人物も同じようにデフォルメされているので自然です。

ただコミックっぽく見せるために、CGをレンダリング(モデルが動く流れを設定)した後で手描き修正しているとのこと。3DCGと手描きで作業量は倍。とはいえ金と時間をかけた分、作品としては最高の仕上がりになりました。

フル3DCGで作ればアニメの完成度は高くなります。しかし、いちいちモブキャラ一体のためにモデル作成できるほど、高スペックなPCも人員も時間もありません。それでもバイクやロボットなどは、3DCGで作らないとアクションシーンが大変です。制作費は通常より多くあれど、3DCGと手描きを合わせることは必至。


そこで今石監督は先述したように、リアルさを排してシンプルさを追求します。このアイディアは自身の過去作品『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』からの着想です。

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ガイナックス製作で2010年放送。天使が悪魔を倒すシンプルなストーリーですが、その実態は放送コードギリギリのエロティックかつ、お下劣ネタ満載のギャグアニメです。おもしろいよ。

絵柄はアメリカのカートゥーンアニメ(子ども向けのギャグアニメのことだと思ってください)のようであり、塗りも一色で平べったい印象。またデフォルメ(誇張)表現によりキャラの頭身は低いまま、手足は大きいので動きが豪快です。

それでいてキャラの動作がカクカクしており、よりコミカルさが際立ちます。これは参考にした「スパイダーバース」とも共通してまして、フレーム数を減らして動きを簡略化することにより、「動くコミック」のような演出に仕上がりました。

この簡略化自体は『鉄腕アトム』などの白黒アニメ時代からあり、元々は作業を効率化するためのテクニックです。セル画の枚数を減らす表現手法のことを、リミテッド・アニメーションと呼びます。80年代後半くらいから『AKIRA』『機動警察パトレイバー』『風の谷のナウシカ』など、写実的な作品が人気を博した流れで減少した手法なのですが、インタビューの通り今石監督は意図して多用しています。

で、このリミテッドと、カートゥーンの表現手法を合わせたアニメが『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』です。そしてそして、大人である観客の年齢層に合わせ、頭身を高くしたアニメが本作『プロメア』なのでした。

カートゥーン調で色はベタ塗りに、グラデーションで空気感を出したためか、3DCGでもキャラが背景から浮き出るのを目立ちにくくします。さらには色トレスという、線画の色を塗りの色に馴染ませる技法を使うことで、キャラと背景との違和感を最小限に抑えました。

顔のアップは手描きで、バイクなどの無機物は3DCG。それ以外は、どこからどこまでが手描きと3DCGなのか見分けがつきません。監督のオーディオコメンタリーを見ても、「あれは手描き!」「あそこ3DCG!」みたいな調子でわけが分からないです。


また、今石監督は2012年放送のアニメ『ブラック★ロックシューター』にて、CG特技監督を務めた経験があります。特技監督とは、アクションシーンにおける振付師のこと。

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『プロメア』のアクションシーンは画面が暗いです。序盤のバトルなんかは昼間なのに暗い。暗い方が緊迫感あってカッコいいのですが、それだと3Dキャラに影を入れる必要があります。手描きとは違いモデルに光を当てることで影を作るため、このライティングの調節が非常に難しいです。

なかなかカッコよくならないところ、今石監督は最初からモデルに影を描き込む力技で対処します。おかげで激しいアクションシーンでも影がブレないので見やすい。また暗い中でもキャラの髪の毛を黄緑色にして、金髪に見せているので色彩の鮮やかさも損なわれません。

ちなみに、『プロメア』も「パンスト」も「B★RS」も、3D制作会社「サンジゲン」が協力しています。以下のサイトにて、制作者ならではの課題を考察しているため、気になった方は読んでみてはいかがでしょうか?


3DCGでのビジュアルについて、数々の創意工夫を紹介しました。スタッフたちが表現の試行錯誤を繰り返し、独自に経験を積み上げたからこそ、『プロメア』は観客の感情移入を阻害しない映画になったのでした。


○まとめ

ぶっちゃけ、『プロメア』のテーマは有って無いようなものです。メッセージ性は熱いけど薄い。監督はアクション映画が作りたかっただけ。中島さんの仕事は注文住宅。

でも、わたしは感動しました。脳みそが熱く煮え滾って、顔面から火を吹くほどの観賞体験です。なぜ感動できたのか、そのメカニズムをわたしなりに解明します。

まず、本作の企画は中島さんから提案したものです。ドリームワークス・アニメーションの『ヒックとドラゴン』に影響され、自分もジュブナイル(少年少女の成長物語)ものがやりたくなったとのこと。それで最初は少年と炎生命体の出会いから書いたのですが、なかなかしっくりこない。

なぜなら、今石監督はアクション映画が作りたかったからです。冒頭から丁寧にちまちま話が進めば、アクションシーンは最後の30分くらいしか撮れません。その後に二転三転していった結果、炎生命体との出会いエピソードは消え、ガロとリオの年齢は引き上げられ、主人公が渦中にいる物語へと落ち着きました。

結局いつもの今石監督作品になったので、中島さんもこれでもかと得意技を炸裂させています。差別される者との共存とは何か、というテーマも劇団⭐︎新感線で書いている話です。ちなみに本作のBL的な要素も、同じく劇団の脚本で多く見られます。


やりたいことってのは、基本的に憧れです。誰だってドラゴンボールみたいな、ワンピースみたいな話が描きたくても描けない。やりたいことではなく、自分にできることをやるしか、その面白さは相手に伝わりません。

しかし、自分にできることばかりやっていたら、いつまでたっても新しいことに挑戦できないのではないか? そう考えるのは普通でしょうが、本作『プロメア』はいつもの今石監督作品でありながら、新しいビジュアル面での挑戦に満ち溢れています。

監督と脚本は違う? いえ、そうではありません。今石監督はやりたかったことをやるのではなく、やれなかったことをやっています。

やりたいことと、やれなかったことの違いは何か? それは願いの質です。

先述したように、やりたいことの本質は憧れです。やりたいことをやっても、他人の猿真似にしかなりません。

対して、やれなかったことの本質は諦めです。かめはめ波がうちたい、腕をゴムのように伸ばしたい。小学生男子の時に何回も失敗し、ついには不可能だと悟った特殊能力でしたが、漫画やアニメの中なら願いが叶います。


『プロメア』での3DCG演出は、今までなら予算の都合上やりたくてもできなかったことです。そこへ「XFLAG」からの出資金があり、中島さんからの企画協力もあり、やれなかったことをやるための題材として炎を選びました。

炎は不定形であり、メラメラと揺らめきます。その触れないはずの炎を、今作では3DCGで立体的な物理に寄せて描く。〈バーニッシュ〉が使う炎は〈バーニッシュフレア〉と呼ばれており、出した炎を剣にも鎧にもバイクにもできます。それでいてリアルではない、グラフィカルな固さ。これは現実ではありえない、アニメならではの表現です。

その炎が暴れて物語を矛盾させないよう、膨大な設定のリアリティで壁を作りました。でも肝心な炎が見えないのでは意味が無いため、見やすくなるようにビジュアル面で壁を削ります。耐久力が下がった壁は最後の最後で崩壊し、抑圧された炎が暴れ回って猛威を振るった結果、わけ分からんけど地球をパンチしちゃうわけです。

平凡な毎日。退屈な日常を壊す物語は、いつだって一つの嘘から始まります。嘘を不思議へと昇華させるために、後から大量のリアリティで物語を支えなければいけません。だけど、待ってください。その不思議は現実を超えるために作った、ちっぽけな嘘だったはずです。

99%の現実を、1%の不思議が超えてこそ、我々は理屈では説明できない感動に直面するのではないでしょうか。

地球にパンチしてやりましょう。



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