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【占い師のエッセイ】第1話 パンツ一丁の私は本当に「私」なのか?

目が覚めるとパンツ一丁だった。
部屋の電気はつけっぱなし。煌々と明かりがついている。
毛布がふわりと掛けられているだけ。

「今何時なん…」

スマホをみると6時32分。朝なのか夜なのか分からない外の暗さ。

数秒考える。

そういえば、昨日は一人で近所へ飲みに出かけていた。
飲み屋ではじめましての人たちといろんな話をして盛り上がって、
最後に近所のお店で飲んで帰ったことは覚えている。
2時前に家に帰ったことまでも覚えている。

でもそこから先は覚えていない。

「お風呂入ったんだっけ?」

パンツ一丁のこのパンツは、

昨日から履いていたのものなのか、
新しく履いたのかすら分からない。

昨日どんなパンツを履いていたかも思い出せない。
我ながらパンツに対して薄情な人間だと思う。

気を取り直して、一旦お風呂場に行く。
お風呂に入らずにパンツ一丁で寝てしまったのかもしれないと思い、
シャワーを浴びてみる。

そして、顔を洗ってみて気づく。

多分つい遠くない時間にシャワーしてる気がする。

顔を洗うとぬめっとしている。
今の季節は冬。住んでいる地域は乾燥しやすい地域。
それなのに、顔がぬめっとしているのであれば、
きっと顔に保湿用クリームを塗ったからに違いない。

髪は洗わず、なんとなく体全体をシャワーで濡らし、出る。

多分パンツは新しいものだったかもしれないけど、
一回脱いだパンツをまた履くことはなんとなく抵抗がある。
パンツには罪がない。
記憶がない自分が一番罪で申し訳ないんだけど、
なんだか1日をいい感じで過ごせないような気がするというか…。
ごめんね、パンツ。
また洗濯機から出た時に感動の再会をしようね。

お風呂に上がって、もう一度、ボディクリームやら保湿クリームやらを塗って、ベッドにごろんとなる。

今から寝てもいいけど、今日は早起きしなきゃなんだよなぁ。
現実的なことを考える脳みそが活性化されても、
いまだに家に帰ってきてからの記憶がない。

昨日来ていた服は全部、かごに入っている。
コンタクトもつけていない。歯も磨いているような感じがする。

だれがやったんだろう。

「記憶」というのは、ある意味、その人の人格を形成しているのかもしれない。
記憶がなければ、自分はどこのだれで、どんなことをしてきて、
どんな考えを持っている人間なのか分からないのと同じなのかも。
すご~いじゃん、「記憶」。
ありがとう、記憶。

昨日食べたものも思い出せないくらい、
怠惰で時の流れに身を任せすぎている生活をしていたら、
いつか、自分のことも忘れてしまうかもしれない。

そもそも自分なんて最初からいるのか。

昨日、家に帰ってからパンツ一丁で寝るまでの間の私は私のようで私でないかも。ふふっ

ま、ファンタジーならまだしも、現実的に考えて
酔ったけど、しっかりしている自分がやっただけに過ぎない。

そんなことは分かりきっているけどさ。

でも「そうじゃないかも・・・!?」と考えると面白いよね。
愉快な気持ちになってくるなぁ。

そんなことを考えながらベッドの中でまどろむ。

▽次のお話


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