針間有年
夢の中で出会う、とても短い物語。 エブリスタでも公開しています。
ブラックホールのもりびとさん、レストランのシェフさん、くつやさん、くすりやさん……。 うちゅうにすむ、みんなのおはなし。 ひと月・二話を目標に連載します。
五行の中で自由に遊ぶ。
Twitter上で公開している連載140字小説『終の集いし月の終』をまとめたものとなっています。2020.1-2021.12連載予定。随時追加していきます。
写真の情景を映しながら描く小説。
ハムスターが回し車に乗っている。 乗っているだけだ。 先ほどから、ひと回しもしていない。 眠っているわけではない。 ただ、辺りを見渡し、 戸惑って…
柵の向こうには猛獣がいるらしい。 姿を見たことがない。 声も聴いたことがない。 ただ『猛獣注意』の看板があるだけ。 それでも何かがいる気がした。 …
型落ちの人間である僕は、街の隅っこでスクラップを待つ。 ひと月前まで最新版。 今では旧版型落ち品。 彼と僕の何が違うのだろう。 見た目が違う。 優…
本立てに並べた本がいつの間にか消えている。 それも一回だけではない。 ここひと月で三回もだ。 さすがにおかしいと思う。 だが、僕の部屋に僕以外の出入…
開けた窓からプリントが入ってきた。 ざらばんしのそれは、近所の小学校のものだ。 ひらがなの多いそれを微笑ましく眺める。 だが、僕はみるみるその内容に青…
楽しい楽しい羽根つきは、 誰としたのか覚えていない。 だけど、負けた僕が墨汁で書かれたその文字は、 今でも消えることはない。 それどころか広がっている…
食べても食べても何も感じない。 失ったのは、味覚。 僕は早くそれを取り戻したくて、 異常に甘いもの、 異常に辛いもの、 異常に苦いものを食べた。 …
そこは僕にとって王国だった。 みんな僕の言うことを聞く。 みんな僕に気を遣う。 みんな僕に笑顔を見せる。 住みやすい王国だった。 それがたとえ作り…
馬屋の中で何が育った? 馬が怯えて逃げていったこの馬屋。 何もいないはずなのに、何かが蠢いている。 餌箱と、仕切りしかないこの小屋で、いったい何が。 …
僕の趣味は培養だ。 シャーレの中で小さな小さな生き物を育てる。 丁寧に栄養をやり、日を当て、必要な物をそろえる。 それらはすくすくと育っていく。 あ…
あそこはどこだったのだろう。 僕の中に残り続ける鮮明な記憶、その景色。 路地裏の込み入った場所だった。 錆びた鉄筋が印象的だった。 そこで僕はあまり…
神隠しにあったのは、僕か世界か。 裸足で白い空間をひたすら歩く。 はじめは世界を探していた。 だが、今となっては惰性だ。 変化のないそこを、 腹も…
皿の上には何もない。 正しくは、見えない。 手に取ると、指に痛みが走る。 血が出た。 血はそれの輪郭を明瞭にする。 ――ああ、これは僕が割って…
巾着の中には何がある? 流れ星の金平糖に、 月の欠片の琥珀糖。 天の川のゼリーと、 地球飴玉もある。 巾着の中にはおいしい宇宙。 夜の暗い部屋で…
この建物には中二階がある。 一度訪れたことがある。 光の溢れた美しい部屋だった。 だが、あれから一度も行けた試しがない。 エレベーターに乗っても、 …
あそこに行けば、願望を叶えてもらえるらしい。 みんながこぞって出かけた先は、街外れの白い建物。 何かの研究所だと言われている。 そこに行った人々は…
2024年5月20日 23:13
ハムスターが回し車に乗っている。 乗っているだけだ。 先ほどから、ひと回しもしていない。 眠っているわけではない。 ただ、辺りを見渡し、 戸惑っているように見える。 もしかして、回し方を知らないのだろうか。 僕は親切心で、回し車を指で押した。 くるりと回ったそれに引っ張られ、 ハムスターは宙を舞った。 そして、そのままどこかへ消えてしまった。
2024年5月19日 22:25
柵の向こうには猛獣がいるらしい。 姿を見たことがない。 声も聴いたことがない。 ただ『猛獣注意』の看板があるだけ。 それでも何かがいる気がした。 ある日投げ入れてみた生肉は、地面に落ちる前に消えた。 きっと何かがいるのだろう。 僕の知らない猛獣が。
2024年5月18日 22:18
型落ちの人間である僕は、街の隅っこでスクラップを待つ。 ひと月前まで最新版。 今では旧版型落ち品。 彼と僕の何が違うのだろう。 見た目が違う。 優しさが違う。 賢さが違う。 何もかも違う。 誰かが僕に石を投げた。 あんまりじゃないか。 まだ使える身体。 まだ動く頭。 だけど、歪んだ心。 僕は街の隅っこで破壊を夢想する。 まず手始めに、最新型の振
2024年5月17日 22:09
本立てに並べた本がいつの間にか消えている。 それも一回だけではない。 ここひと月で三回もだ。 さすがにおかしいと思う。 だが、僕の部屋に僕以外の出入りはないし、泥棒が入った形跡もない。 だったら、考えられるのは一つ。 僕は本立てをつついてみる。 すると、ぽんっと音を立てて、薄い本立てから本が数冊出てきた。 「また、隠れて読んでたな?」 僕が言うと、
2024年5月16日 21:36
開けた窓からプリントが入ってきた。 ざらばんしのそれは、近所の小学校のものだ。 ひらがなの多いそれを微笑ましく眺める。 だが、僕はみるみるその内容に青ざめた。 それは家庭訪問ならぬ、家庭襲撃のお知らせ。 教師だけではなく、生徒も地域の家々を回り、襲撃するのだという。 場所を見る。 慌てて、日付を見る。 続けて、時間を見る。 あと三分。 あと三分で
2024年5月15日 21:22
楽しい楽しい羽根つきは、 誰としたのか覚えていない。 だけど、負けた僕が墨汁で書かれたその文字は、 今でも消えることはない。 それどころか広がっている。 はじめは何と書いてあっただろう。 もう忘れてしまったそれは、僕の身体を蝕んでいく。 それは痛い。 それは辛い。 だから、僕は見知らぬ子を羽根つきに誘った。 勝った僕は、黒く染まった自分に筆を滑らせる。
2024年5月14日 22:06
食べても食べても何も感じない。 失ったのは、味覚。 僕は早くそれを取り戻したくて、 異常に甘いもの、 異常に辛いもの、 異常に苦いものを食べた。 何も感じなかった。 ならば今まで食べる事すら怖かったものを。 土、錆、生臭い肉。 まだまだ足りない。 ネズミ、モグラ、死んだネコ。 何も感じない。 ならば、もっともっと怖いものを。 死んだ人間。
2024年5月13日 23:08
そこは僕にとって王国だった。 みんな僕の言うことを聞く。 みんな僕に気を遣う。 みんな僕に笑顔を見せる。 住みやすい王国だった。 それがたとえ作り物でも。 動かなくなったアンドロイドたち。 地面は油でキラキラと光っている。 僕の王国を壊したのは誰だろう。 僕はアンドロイドたちの部品を回収し、 すべてを混ぜて繋ぎ直した。 完成した大きくてぐちゃぐち
2024年5月12日 22:18
馬屋の中で何が育った? 馬が怯えて逃げていったこの馬屋。 何もいないはずなのに、何かが蠢いている。 餌箱と、仕切りしかないこの小屋で、いったい何が。 空のはずの餌箱を一つずつ覗いていく。 何もない、次の箱も何もない、次も、次も。 最後の餌箱。 暗いその中に何かが蠢いている。 そういえば、馬屋で生まれる聖人の話があったような。 まさかと苦笑し、覗いてみた。
2024年5月11日 21:05
僕の趣味は培養だ。 シャーレの中で小さな小さな生き物を育てる。 丁寧に栄養をやり、日を当て、必要な物をそろえる。 それらはすくすくと育っていく。 ある程度の大きさになると、液に漬けて更に大きくする。 その間にも、シャーレの中で培養を続ける。 そうしてできた、たくさんの僕。 僕が僕を培養し、培養された僕が僕を培養する。 部屋は僕で溢れている。 廊下も僕で溢
2024年5月10日 17:47
あそこはどこだったのだろう。 僕の中に残り続ける鮮明な記憶、その景色。 路地裏の込み入った場所だった。 錆びた鉄筋が印象的だった。 そこで僕はあまりに色鮮やかな飴細工をもらった。 それは金魚だった。 暗い路地裏。 錆色の建物。 真っ赤な金魚。 僕の中に鮮明にこびりつくそれは、地図にない。 どこにも存在しないのだ。
2024年5月9日 21:57
神隠しにあったのは、僕か世界か。 裸足で白い空間をひたすら歩く。 はじめは世界を探していた。 だが、今となっては惰性だ。 変化のないそこを、 腹も減らず、眠りも訪れず、温度も感じず、 ただただ、歩く。 疲れもしないものだから、延々と歩けてしまう。 僕の周りから、突然世界が消えてしまった。 世界から僕が消えてしまったのかもしれない。 どちらにせよ、僕はも
2024年5月8日 22:48
皿の上には何もない。 正しくは、見えない。 手に取ると、指に痛みが走る。 血が出た。 血はそれの輪郭を明瞭にする。 ――ああ、これは僕が割ってきた皿たちだ。 暗い衝動で砕いた皿たち。 今更になって復讐に来たのかい? なんだかおかしくなって、僕はそれを口に入れる。 硬いそれを噛み砕く。 口から血が流れる。 喉が焼けるように痛い。
2024年5月7日 22:32
巾着の中には何がある? 流れ星の金平糖に、 月の欠片の琥珀糖。 天の川のゼリーと、 地球飴玉もある。 巾着の中にはおいしい宇宙。 夜の暗い部屋でもへっちゃらになる。 それは魔法の優しい巾着。
2024年5月6日 20:47
この建物には中二階がある。 一度訪れたことがある。 光の溢れた美しい部屋だった。 だが、あれから一度も行けた試しがない。 エレベーターに乗っても、 階段を上り下りしても、 中二階への道がないのだ。 そんな話を誰ともわからない誰かに話すと、 その誰かは笑った。 そして、僕を階段の踊り場に案内する。 その誰かが壁を強く押すと、 カチッ、と音がした後、壁が
2024年5月5日 18:43
あそこに行けば、願望を叶えてもらえるらしい。 みんながこぞって出かけた先は、街外れの白い建物。 何かの研究所だと言われている。 そこに行った人々は晴れやかな笑顔で、 願望が叶ったことを報告する。 噂が噂を呼ぶ。 街の人々は幸せいっぱいといった風に笑う。 涙や苦しみ、侮蔑や憎しみさえも消えてしまった。 それはみんなの願望通りかもしれない。 だけど、些か