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思い出の街

2023年、7月。

あの子のことが忘れられなくて、あの子と過ごした思い出の街にひとりで行った。

夜にさしかかる時間帯だった。
夜行バスまでの待ち時間だ。

行ったらさみしくなることはわかりきっていたけど、掴みたくても掴めない、抱きしめたくても形のないこの気持ちと帰りたくなかった。

ぼくが最後に来たあの日から2年という月日が経っていた。

あの日からずっと、この街は1日も休まず時を刻んできた。

なのに、街はあの日で一時停止して、ぼくがきて再び再生されたかのようだった。

あの日、ふたりで手を繋いで街を歩いたあの日が、昨日のことのように思えた。

あの子が住んでいたマンションを見上げた。
あの子が窓からぼくに手を振る姿が蘇った。

もしぼくが今あの部屋のピンポンを押して、うれしそうな顔をしたあの子が出てきてくれたら、ぼくはどんなに幸せだろう。

ぼくは涙をこらえた。
そしてマンションの向かいの小さな神社に手を合わせた。
特に何も願わなかった。

それから横断歩道の前に立って、押しボタン式の信号機が変わるのを待った。
なぜかここで涙があふれた。

信号が変わって歩き出した。
涙は止まらなかった。
できるだけ周りの人に気づかれないように歩いた。

ふたりでよく行ったスーパーの前を通って、いつもの商店街に行った。
思い出のお店が並んでいた。

しばらくして泣くのもおさまって、少しほっとした。
だけど少し孤独だった。

なんか食べようと思って、回らない寿司屋に入った。
ぼくが見つけて、あの子がバイトをしたお店。

高いから、カンパチを一皿だけ頼んだ。
もちろんおいしかった。

帰る前にスーパーで缶ビールを買って、歩きながら飲んだ。
初めてのサッポロ黒ラベル。

飲みやすくはなかった。
気持ちは少し楽になった。

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