ホテルウイングステート東京 第15話

如月 ゆかり(きさらぎ ゆかり) 40歳 その4

「……隣、座りますか?」
「え、いいんですか!?」
「どうぞ」

 私の隣に空さんが座ると、いつもはテーブルの上にひとりぼっちだったワンラストキスが2つになる。
 改めて顔を見てみると、あっさりとした感じの顔立ちで、きりっとした眉が印象的な顔立ち。好青年って感じね。

「空さんは、どうしてワンラストキスを?」

 トワイライトには5種類のオリジナルカクテルがあるわ。度数の低い物から順に
 真っ白で甘くて飲みやすい、店と同じ名前の『トワイライト』
 色とりどりのフルーツにが強炭酸に沈んだ『ライフイズサイダー』
 東京タワーよろしくあたたかいオレンジ色が綺麗で、一番人気の『東京タワー』
 淡いブルーにミントの葉が浮かぶ『スカイツリー』
 そして、一番度数が高く強い『ワンラストキス』

 皆大体飲んでいるのは東京タワーかトワイライト。トワイライトなんて私からすればジュースみたいに思えるぐらい、度数が低いカクテル。
 東京タワーは名前も色もすごくロマンチックで綺麗だし、村井君がおすすめしてたのもあるから、私も最初は東京タワーから飲んだけど、人気なのは納得できるわ。
 まぁ、今はもうワンラストキスだけしか飲まないけどね。このお酒を好んで飲んでいる人って少ないのよ。今日だってここに座るまでの間、ピンク色のカクテルが入ったグラスは見なかったと思うし……

「俺お酒好きだから一応全部飲んだけど、トワイライトは笑えるぐらい軽いし、東京タワーは俺オレンジの味あんまり好きじゃないし」

 腕組みをしながらこっちを向いて空さんは語り始めた。明るくて朗らかな声。裏表がなさそうな人ね。

「スカイツリーは後味爽やかだけど、シンプル過ぎて物足りない。ライフイズサイダーは度数は低いけど強炭酸でパンチあっていいなとは思う。でも、なーんかごちゃごちゃし過ぎなんだよなぁ」

 首を傾げたり頷いたりしながら空さんはお店のカクテルの批評をしていく。熱のある感じからは若いわりに、なかなかのお酒好きね。

「で、これってこと」

 空さんはテーブルからワンラストキスを煽ったあと、ゆっくりとグラスを回した。ピンク色のカクテルが揺れる。

「それに、度数高いほうがお酒飲んでるって感じするじゃないですか」

 暗がりには似合わない、にかっと眩しい笑顔をこちらに見せたあと、空さんは再びグラスを煽った。こう続けてこのカクテルを飲むことは私にはできないわ。彼は相当お酒に強いみたい。

「このガツンとくる感じがすっげえ好きなんです、俺」

 手にもったグラスを愛しそうに見つめてた空さんの視線が、窓の向こうを見つめた。その横顔がすごく綺麗で、遠くを見つめるまなざしは男らしさみたいなものを感じる。ただの若い男の子だと思っていたけれど、そうではなさそうね。

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