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僕とお母さん

SMAPが好きだった


僕とお母さん。

僕のお母さんはSMAPが好きだ。いや、「好きだった」が正しい。
今はSMAPが解散したので、もう推し活はやっていない。だけど、子育て中の若い頃からSMAPのファンだったのだ。

僕のお母さんの推しメンはキムタクだ。
キムタクとはご存知の通り、タレントの木村拓哉さんだ。

平成時代のポップな曲を数多く歌ったアーティストであり、俳優も務めている。

明石屋さんまさんとの共演番組「さんタク」など数々のバラエティ番組に引っ張りだこだ。

料理の腕も一級品だ。アイデアの一工夫でたちまち美味しい料理を振る舞うことができる。

キムタクは僕のお母さんにとって、芸能界のカリスマ的存在なのだ。

自宅の一室にキムタクのポスターが貼ってある。それくらいカリスマ的存在だ。

僕のお母さんにとって、キムタクはカッコいいのだ。

昔も今もキムタクは変わらない姿でエンタメ街道を突き進んでいる。

僕のお母さんはもう推していないけど、心の中ではカッコいい存在なのだ。

そんな姿を見ていた僕は咄嗟に「そんなに好きなら、なんでアタックしないの?」と聞いてみた。

僕のお母さんは「なに言ってんのよ!(笑)キムタクは大谷翔平のような人なの。雲の上にいるの。」と答えた。

僕は咄嗟に英語で答えた。

Wow! Amazing! Big star!!

その後、僕はこう思った。

ああ、凡骨(bonehead)だな。

僕のお母さんはSMAPが好きだ。

僕のお母さんはキムタク以外に興味を持つ人がいた。

中居くんだ。

中居くんとは同じくタレントの中居正広さんだ。

歌は少し音程が外れているけれど、ダンスはキレっキレだ。リーダーとしてメンバーとの歩調を合わせるのも得意なのだ。

音楽活動の傍ら、「SMAP✖️SMAP」の定番企画であるビストロSMAPなどのSMAPオンリーの番組を筆頭にバラエティで活躍しているのだ。

特に中居くんはシンゴちゃん(香取慎吾さん)との絶妙なやりとりがすごい!

ビストロSMAPで、中居くんは試食をするゲストに「お味はいかがですか?」と聞いて、ゲストは「おいしいです。」と答えた時だ。

「えええ!? おいし〜い〜!!」

シンゴちゃんは変な顔や変な行動をとって、会場を笑いの渦に巻き込んだのだ。

僕のお母さんはそれを観て、ガハハッと笑っていた。
他のメンバーの料理がおいしいと聞くと、シンゴちゃんは勝てなくなるからだ。

そのやりとりがたまらない。笑える。

僕は「シンゴちゃんがいくら悔やんでゲストの気を引こうとしても、勝負は勝負だよ。」と思って見ていた。

でも、シンゴちゃんは番組のスタッフさんたちに、おいしくしてもらったんだな。

また、シンゴちゃんはトンデモプロジェクトを思いついたのだ。

それは「テロテアリーナ」だ。

きっかけは中居くんがマツケンサンバの歌詞を間違えたことだ。

「ああ〜 よせよ(アミーゴ) テロテアリーナ 君さえ忘れて…」

中居くんは歌詞を忘れて適当な言葉を入れてごまかそうとしたのだ。

「テロテアリーナ」という言葉でピーンときたシンゴちゃんは自作のヤモリの絵を描いて、「中居くん、これやろうぜ!」と持ちかけたのだ。

中居くんの抵抗むなしく、プロジェクトが始まった。全身黒ずくめのヤモリの着ぐるみをきて、「テロテアリーナ」を演じたのだ。

「テロテ… テロテ、テロテ…」

テロテアリーナを呼ぶシンゴ監督。いやいやながら演じる中居くん。

僕のお母さんはこれを観てゲラゲラ笑っていた。

「あはははは!おかしい〜!」

僕には気色悪さ全開だった。

ヤモリの怪獣を見事に演じ切った中居くんに、あったかいジュー(怪獣)シーなホットドッグをご馳走するべきなのだ。

ああ、僕のダジャレはお粗末だったな。


美術が好きだ


僕とお母さん。

僕のお母さんは美術が好きだ。

僕のお母さんは子供の頃から絵が好きだ。マンガが好きで、自分の趣味で創作していたことがある。

今はマンガから美術の世界に変わった。専業主婦の傍ら、好きなように絵を描いていたのだ。

印象派とかバロック絵画とかの本格派の美術ではない。風景画が主として描いていたのだ。

子育てが一段落した後、趣味の絵が高じて、自宅にアトリエをつくってしまったくらいだ。
僕のお母さんはそこで描くことが多い。

さらに、美術の専門学校に通って学ぶほどだから、よっぽど凝っているんだな。

僕が見たことがある絵はフランスのパリをモチーフにした風景画だ。

僕のお母さんはあの場所に行って、自由に街をてくてくと歩きたいと思っていたにちがいない。

ああ、ええ(絵絵)じゃないか。

他にも花瓶や富士山の絵など様々な絵画が自宅に飾っているのだ。

ああ、なんて華やかなんだ。ええ(絵絵)なあ。

僕のお母さんは美術が好きだ。

僕のお母さんは結構、美術館に足を運ぶことがあるのだ。絵画創作のインスピレーションを得るためだ。

絵を描く人は創作に行き詰まることが誰でもあるだろう。
僕のお母さんもその一人だ。

ゴッホ展、クリムト展、ピカソ展などの硬派な絵画から進撃の巨人やワンピースなどの漫画まで。

僕のお母さんはなんでも観て、イメージを膨らませているのだ。

六本木の森アート美術館で「進撃の巨人」展が開いていた時だ。
僕たち家族はその漫画展に訪れた。

混沌の世界に引きずり込まれるような強烈な描写に、僕たちは「うぉ!」と驚きを隠せなかった。

一枚一枚の原画をしげしげと見ながら、どうやったらあんなシリアスな雰囲気を描けるのだろうと感心するばかりだ。

僕のお母さんは全体の絵ではなく、微細な描写に目を凝らしていた。
白黒のコントラストのきめ細かな描き方、キャラクターの顔の輪郭、地獄の世界へ誘い出すようなシャドーペイント。
どれもすごい。すごいったらすごいのだ。

僕はそこまで絵が詳しくないけど、僕のお母さんは絵画展に行き、ただ楽しむだけでなく、無意識のうちにインスピレーションが湧いてくるのだ。

それは絵を知り尽くした人にしか分からない。

ああ、ええ(絵絵)もんやなあ。


子どもが好きだ


僕とお母さん。

僕のお母さんは子どもが好きだ。

といっても、大がつくほどではない。
普通に好きなのだ。

僕のお母さんは還暦を過ぎてから、近場の小学校で仕事をしている。
子どもと向き合う時間が何より楽しいのだ。

僕のお母さんは僕を育てている時、向き合う時間を大切にしようとした。
その時、いつも思っていたことがある。

「息子ってヤツは…」

僕のお母さんは男の子の育て方が難しいと思っていた。だから、「息子ってヤツは…」としみじみ思うのだ。

「息子ってヤツは手懐けるのが大変。」

「息子ってヤツはどうしてアホなことを。」

「息子ってヤツは言うことを聞かない。」

「息子ってヤツはどうして出来が悪いの。」

ああ、僕はポンコツだったな。

作家の室井佑月さんは「息子ってヤツは」という子育てエッセイを書いていた。

その本の中で子どもの教育格差について言及していたのだ。

お茶の水大学教授の耳塚寛明先生の「親の経済力と子どもの学力の関係」の研究を持ちだしたのだ。

<今の日本では、所得格差が教育格差を生み、学歴格差が所得格差を生み、教育格差が学歴格差を生むことがわかった。
 OECDの調査で、この国の教育への公財政支出は、国内総生産比3.3%で、加盟国30ヵ国中最下位だったこともわかった。(2008年度)
 この国は子どもの教育にはぜんぜん金をかけたくないのだ。>

室井佑月『息子ってヤツは』毎日新聞出版 p.162

ちょっと真面目な話になった。あれから10年以上が経ち、実態はますます深刻になっているのだ。

学力のある子とない子の差が開けば開くほど、人生でもらえるお金が決まってしまう。学力のない子は大人になってもずっと所得が低く、貧しいままのくらしを送ることになる。こういった状態を見放しておけば、社会にとって大きな損失になるのだと室井さんは危惧しているのだ。

さらに松岡亮二さんの『教育格差』という本が話題になった。学力のある子とない子の差が開けば、お金持ちになる人と貧乏になる人にそれぞれ階層にわけられ、それで人生が決まってしまうという恐ろしい問題だ。

出来の良い子は豊かになり、出来の悪い子は底辺にいる。
これっておかしくないか?

人生の曲折を経た室井さんがお母さんになり、お子さんを育てているときも「息子ってヤツは…」と悩んでいたのだ。

それでも「ヒューヒュー!お前ならでける!!」と息子の人生を応援していたのだ。

僕のお母さんも心の中で「ヒューヒュー!お前ならできる!!」と思っていたかもしれない。

僕は… 照れ臭くて言葉に詰まった。


そんなお母さんでも、僕にとっては大切な家族なのだ。



おしまい




■ 読書案内

タレント・木村拓哉の魅力の源泉はどこにあるのか。映画やドラマからライブパフォーマンスまで多角的に読み解き、スター像に迫る一冊。

キムタクと同様に多面的な顔を持つタレント・中居正広。「一流の素人でありたい。」という目標を持つ一人の人間の魅力を探る一冊。

欧米エリートが学ぶ西洋美術史の概説書。美術の真髄はここにある。

母子二人三脚で奮闘した子育てエッセイ。舌鋒鋭いコメントとは異なり、子供への愛情が詰まっている室井さんの日常を物語っている。

教育格差の実態をデータによって解き明かす一冊。

ご助言や文章校正をしていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。