「したつもり」と「謝る」事

最近インドで過ごす時間が増えた。

ある日の朝、インドの東に位置するコルカタのショッピングモールにある珈琲店の前を歩いていた。開店の時間の頃、おしゃべりをしながら母と娘だろう、二人のサリーを着た女性がこの珈琲店に入ろうとした。手動のガラスのドアがあった。押すと内側に開くタイプのドアだ。右のドアを推して娘の方が中に入る。前後して左のドアから年配の女性が入ろうとした瞬間、彼女は頭を強くぶつけた。

左のドアはインドにしてはめずらしくとても綺麗に磨かれていて見えずらかった上、なぜかこちらは鍵がかかっていた。大きな音を立てて頭をぶつけたため、人々が集まる。相当痛そうだ。ガードマンも駆けつけちょっとした騒ぎになる。珈琲店の店長が店員に「なぜ左のドアの鍵をあけなかったのか」と問いただした。店員はきょとんとし「開けたつもりだった」と語った。「僕は開けたつもりだった。だから悪くない」店長は店員に対しては怒っているが、ひどい目にあったこの女性に対しては「左は開いていなかったが、彼は開けたつもりだった。しかし、右はちゃんと開いていた」と言う。インド理論だ。女性にひどいケガはなさそうで幸いであったが、とにかく謝ってはいけない、と言うのがインド風。

同じモールの2階に移動した。よさそうなドレスを娘に買おうと店に入ろうとしたがエントランスに「CLOSED」(営業しておりません)のサイン。
モールが開店しているのにこの店だけにCLOSEDのサイン。しかし中の店員は準備中の様子でもない。「入ってもいいですか」を合図をしてみると、奥に座る男性店員は「もちろん」と合図、私はドアのサインを指差した。店員がドアまで来て驚いた顔で「あら、OPENにしたつもりだったんだけど」と、まるで平気な様子。

モールがオープンしてから時間はたっている。ずいぶんお客さんを逃しただろう。ショッピングモールで起こった2つの何々をした「つもり」。そして決してこういう時には謝らないインド人。

数日後日本、山形県のとある老舗温泉宿。夜夕食に会場で、若い男性スタッフが飲物を聞いてきた。断酒中の私はカルピスを頼んだ。「かしこまりした」と数分後グラスが運ばれた。が、グラスには氷と共にどう見てもカルピスではない透明な液体。新しいカルピスだ、最近流行りの透明なのに違う味、とうとうカルピスまで、などと思いながらわくわくして飲んでみた。
芋焼酎の水割りだった。

「あのすみません、カルピスではないのですが....」一瞬固まった彼は慌てて「すみません、カルピスのつもりでした、確認します」とかなり動転した様子であった。そして、今度はカルピスを持って来た。「大変申し訳ございませんでした」と平謝りの様子。なぜ焼酎をカルピスと思い込んだのかは謎だが、いかにも芋焼酎が好きそうに見える私がカルピスを頼んだ事が原因なのはもちろんわかっている。この人がカルピスを頼むはずがないという思い込みが生んだミスだったのだろう。

とにかく、こういう時日本人は本当に迅速に丁寧に謝るのだ。言い訳はしないし。

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