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小説 サクラ雨5

時代が変わっても生まれ変わっても。
あなたを探してる。
サクラ雨はあなたの中にまだ降りつづけていますか?

美桜の書いた小説は瞬く間にベストセラーになった。美桜は嬉しかった。
また、小説を書いて脚光を浴びた。
賞も貰えた。この上無いほどに嬉しかった。
桜子の話だが自分の話の様な気分だ。
だけど、気がかりがある。
美桜は考えた。答えの無い問題を考えた。
自分は桜子の生まれ変わりでは無い。
何故だろうか?
桜子が生まれ変わりが無いのに桜子のお腹の子の生まれ変わりはある。何故か。
美桜は陽一の生まれ変わりを探してる気がした。

桜子が愛している人を探してるならいいのだろうが。あの夢の話ならなら桜子はもういないのだ。どこの時代にも。今の時代にも。きっといない。生まれ変わりもない。
それに私は桜子のお腹の子の生まれ変わりなら陽一にはあまり関係ないだろうし寧ろ源蔵の方が関わりが深いと言える。
しかも、陽一からすれば私は悪魔の子だろう。
何故なら桜子の兄、源蔵との子になるのだから。

あれから色々と桜の木を探した。
あの屋敷の桜。どこの桜の木だ。
結局わからないままなのだ。
ふと、美桜は何時も見る憂鬱な夢を思い出した。
男性が桜の木の下で誰かを探す夢。
彼はオールバックで黄色いシャツを腕まくりしてサスペンダー付きのスラックスを履いている。
靴は泥まみれで悲しみと悔しい気持ちが混じった表情を浮かべたまま永遠と誰かを探す夢。
美桜は薄気味悪いとその夢を意味嫌っていた。
この男が源蔵か陽一かすらわからない。
もし、この話が本当なら会いたいだろうか?
美桜の心は永遠の謎に入ってしまった。

暫くしてある書店からサイン会の依頼がきた。
書店のサイン会はよくある話で美桜は喜んで引き受けた。書店に行く途中に広場がある。
噴水が勢いよく水を吹き出していた。
季節は夏か。子供や母親、父親らしき人が水遊びをしていた。広場中を響かせる子供たちの声。
その階段前にギターを弾く男性。
声を高くあげて歌う。
美桜は今を生きている。生きていく。
桜子の最後の言葉。
「幸せになってね。」
よく晴れた青空を美桜は見上げた。
そう、全て私の創造、絵空事だ。虚構と言ってもいい。桜子の事は忘れる事にした。

「本日は二羽美桜先生のサイン会です。」
書店は賑やかになってきた。
大勢の人がサイン会の列を成していく。
サイン会が始まる。

「二羽先生、小説素敵でした。」
「サインをください。」
「次回作も全体に読みます。期待してます。」
沢山の人、自分の作品を読んでいる人。
優越感、才能がある自分を演じる。
美桜は嬉しかった。
「有り難う。」

「次の方、どうぞ。」
店員に促されて目の前に青年が立つ。
青年はギターケースを背中に背負っている。
「サクラ雨読みました。サインをください。」
男性が本を差し出すと美桜は嬉しそうに本を開きサインをする。
「何か書きましょうか?お名前とか?」
美桜は青年に微笑みをかけた。
「じゃあ。」
青年の唇がゆっくりと動いた。
そうスローモーションのように。
「さ よ な ら  あ な た。」
美桜の瞳に青年の微笑みが映る。
美桜の瞳は見開いたままだった。

そして、またサクラ雨が降り始めた。
あの見知らぬあの桜の下。
木立の新緑が揺れた。

『サクラ雨がやむことは無い。』

おわり

小説  サクラ5をお読み頂き有り難うございます。
どなたかの目にとまれば幸いです。
何処かのあなたにそっと届きますように。


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