見出し画像

誹謗中傷への対策が検討中、何が変わる? #003

近年社会課題になりつつある誹謗中傷への対策やTwitter等のプラットフォーム事業者が果たすべき役割を検討してきた総務省のプラットフォームサービスに関する研究会「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するWG」が11月28日、検討会の取りまとめ(案)を公表した。これを受けて自民党や野党でも作業チームが立ち上がり、検討が進められている。来年の通常国会での法改正も視野に入れる大きな改革となる。何がどのように変わるのか、同WGの取りまとめ(案)やこれまでの検討状況を踏まえてまとめていく。

現行の誹謗中傷への対策はまだまだ不十分

三菱総合研究所の調査によると、他人を傷つけるような投稿(誹謗中傷)を数日に一回以上目にしている人は47.5%にのぼっている。また全体で1割弱が過去1年間で誹謗中傷の被害に遭っており、誹謗中傷は日々の生活に蔓延している。また誹謗中傷はTwitterで最も多く、YouTube、Facebook、Instagram 、2ちゃんねる、5ちゃんねるがこれに続いている。

政府は令和に入り誹謗中傷対策を進めてきた。総務省はコロナ禍における偽情報の流通や誹謗中傷の蔓延を背景に「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」をまとめ、プロバイダ責任制限法を改正して発信者情報開示請求に係る裁判手続の迅速化を目指した。法務省は2022年に刑法改正を行い侮辱罪の法定刑の引き上げた。法定刑の上限が「1年以下の懲役・禁錮」「30万円以下の罰金」に引き上げられ、誹謗中傷等の流通抑止に努めている。

しかし誹謗中傷等の違法・有害情報の流通は減少傾向に転じていない。また各SNSプラットフォーム間で対策への温度感の違いも出てきている。法務省の人権擁護機関による削除要請への対応率をみると、誹謗中傷が最も多く流通しているTwitterは全体の25%しか対応していない

法務省「インターネット上の人権侵犯事件の処理について」

公的機関が削除要請を出しても全て対応しているわけではないのであれば、個人からの要請は尚更対応されていない。TwitterやYoutubeはフォームを設けて誹謗中傷等を通報・報告できる制度をユーザーに提供しているが、「適切に対応してくれた」と思う人は少ない。削除対応の期間がバラバラで、申請者が忘れた頃に対応したケースもある。また申請が却下された理由が不明確で透明性に欠けている。

プラットフォームは「新たな統治者」、今後の改善の方向性

現行のSNSでの誹謗中傷対策には、プロバイダ制限責任法が大きく関わっている。もしSNSに流れた自身への誹謗中傷を削除・損害賠償させるためには、同法に基づく裁判手続きを踏む必要がある。先述したように最近同法が改正され新たな新制度もできた。

しかし裁判ではできることも限られており、迅速に対応できない。清水陽平 弁護士は「プロバイダ等の損害賠償責任は制限されていること」「人格権の侵害以外は、裁判手続での削除が困難であること」「裁判実務上、権利侵害は、原則として個別の投稿ごとによる判断でありスレッド・アカウント削除は認められていないこと」を問題として挙げていた。

TwitterやYoutubeといった巨大プラットフォームは「オンライン言論の新たな統治者」となっている。コンテンツを投稿する方法を規定し(アーキテクチャ)、モデレーションを通じてSNSに流通する情報を調整している。例えばMeta(旧Facebook)は1日当たり1億件のポリシー違反の執行措置を行っている。こうした統治者としての役割を背景に、水谷瑛嗣郎 関西大学 准教授は「DPF事業者は単なる媒介者を超えて、表現環境における特異な地位を占めることから、違法情報に対する法的責任論から(公法上の義務を含む)社会的責務論へのシフトしていく必要がある」と述べている。

総務省が12月13日に改革案を示した

総務省のプラットフォーム研究会は12月13日に第三次取りまとめ(案)を公表した。

総務省 プラットフォーム研究会 第三次取りまとめ(案)をもとに筆者作成

取りまとめ案で示された各規律の対象となるPF事業者は「不特定者間の交流を目的とするサービス」を運用している「一定規模以上のもの」に限定する。その基準として「アクティブユーザ数や投稿数といった複数の指標を並列的に用いて捕捉する」ことが示されている。例えば電気通信事業法の特定利用者情報の適正な取り扱いに関する規律では、利用者の利益に及ぼす影響が大きいものとして、利用者数が無償であれば「1,000万人以上」、無償であれば「500万人以上」という基準が示されている。

目玉となるのは削除申請があれば、原則1週間以内をめどに申請者に削除の有無や理由を通知する案だ。他にも削除申請への迅速な対応を求めることや運用状況の透明性を確保する規律を設けることが盛り込まれた。ただしPF事業者に削除義務を負わせ罰則をつけることや、米国等で導入されているノーティスアンドテイクダウン(被害を受けたとする者から申請があった場合には、原則として一旦削除すること)の導入は見送った。

自民党においても、党情報通信戦略調査会(会長・野田聖子衆院議員)で総務省案を受けて議論が始まっており、法改正を見据えて議論が開始されている。

また意見募集が2024年1月17日まで行われている。誹謗中傷を受けた場合、身近なSNS事業者にどのようなことをして欲しいかぜひ意見を書き込んで欲しい。

参考文献

  1. 総務省「プラットフォームサービスに関する研究会」

  2. 総務省「プラットフォームサービスに関する研究会誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ とりまとめ(案)

  3. 三菱総合研究所「インターネット上の違法・有害情報に関する流通実態アンケート調査

  4. 総務省「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ

  5. NHK「侮辱罪が厳罰化 懲役・禁錮も ネット悪質行為も対処厳しく

  6. 法務省「インターネット上の人権侵犯事件の処理について

  7. 水谷瑛嗣郎「「新たな統治者」の社会的責務とガバナンス

  8. 清水陽平「現状の課題について@プラットフォームサービスに関する研究会」

  9. 総務省「プラットフォーム研究会 第三次取りまとめ(案)

  10. 自由民主党「SNS等の誹謗中傷対策、議論開始

  11. 総務省「プラットフォームサービスに関する研究会 第三次とりまとめ(案)についての意見募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?