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小さな悪あがきを残してきた

8つ離れた弟が、この春高校生になった。

まだまだ高校生の頃の記憶に縛られている向暑はるは少しだけ恥ずかしくなったりする。

兄弟というのは似たもので、弟はこれまで続けてきたスポーツの道を外れて、新しく音楽の扉を開こうとしているらしい。

ベース借りていい?

とラインが来るまでは、スポーツを続けるものだと勝手に思っていた。

でも、かつて”相棒”と呼んでいたWarwickの音が再び聴けると思うと、弟の選択を心の底から嬉しく感じた。

向暑はるにとってあの部室が青春の箱となったように、弟が過ごすこの先の3年間も青春として形作られていくのだろう。

あ。

一人暮らしの部屋の隅で、やらなければいけない宿題を提出締め切り日に思い出したかのように、冷や汗をかき始めた。

向暑はるが高校を卒業する前に、”あるもの”を部室に残してきたことを思い出した。

当時「君の膵臓をたべたい」にハマっていた向暑はるは、作中の桜良みたいに、自分の思いをそこに残してきた。

手紙でもないし、見られて恥ずかしいものでもない。

誰にも言っていないし、簡単に見つかるものでもない。

いつか帰ってきた時に、それが残っていたらいいなと学校のルールを密かに破って残した。

でも一瞬で自分が残したと分かる”それ”は、弟にだけは見つかって欲しくはない。

これは3年間の宝探しである。

もし弟が見つけたら笑い話になるし、見つけなければその学校が壊されるまで、”向暑はるの小さな悪あがき”として残り続けることになる。

どうかあの場所に響く素敵な音たちが、包み隠してくれることを願わんばかりである。

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