見出し画像

異世界転生-男の娘/僕はこの世界でどう生きるか? 16-18

 16 勇者リリー

「え? あなたが僕の買主ですか?」
 金を払い終えた買主が僕の前に立った時、僕はあっけに取られてしまった。

「そうだぞ、着いてきな」
 軽快な革鎧に身を包んだその姿は確かに勇者の装いだったけど、その中身は茶色いウエーブのかかった長髪の美少女だったのだ。

 細面に切れ長の目、ちょっとだけ濃いめの眉が気の強さを表している。
 年は僕とそう変わらない、少しだけお姉さんみたいだけど。
 確かに小高い声だと思ったけど、あんな口の悪い女性がいるなんて思ってもなかった。 
 前を歩くその女勇者は大きな剣を背負っていた。両手剣使いか。

 階段を上る。この先は確か酒場兼宿屋だったはずだ。

「重そうな剣ですね」何の気なしに言ってみた。
 振り向く彼女は自慢げに言った。
「そうさ。こいつは白炎の大剣っていうんだ。格好いいだろ」

 そう言って右手を背に回すとすらりと抜いて見せた。

 白い輝きが刀身からゆらゆら煙るように上っている。本当だ、何かの魔法がかかってるみたいだった。

「格好いいですね、すっごーい」
 僕に褒められて気をよくした彼女は、両手で大剣を構えて戦いのポーズを取った。
 おお、なかなか様になってる。

 でも、よく見ると、握りしめた両手がプルプルと震えてる。

「おい、街の中で剣を抜くんじゃない」
 遠くにいた衛兵の注意が飛んできて、彼女はほっとしたように剣を下した。

 すいませーん、以後気をつけまーすと衛兵にへこへこしてる。
 あんまり強そうにはみえない。

「俺は偉大な勇者リリーっていうんだ。よろしくな」
 酒場のテーブルに着いたところで、彼女が自己紹介した。

 しかし、自分代名詞が俺か、タバサやリズより口が悪そうだな。

「偉大な勇者ですか、すごいな。有名なんですか?」
「これから有名になる予定だ。それで、お前は?」
「僕は、ジュンって言います。よろしくお願いします」
「荷物持ちとしてお前には働いてもらうからな。ところで、何か特技ないのかよ」
 リリーは可愛い顔なのに、大口を開けて干し肉に食らいついている。

「ええと、特技ですか……、特にこれと言ってないですけど」
 僕も何か食べようかと思ったけど、奴隷商人につかまった時点で持ち物は取り上げられてしまっていた。
 あの間抜けな魔導士の部屋から、お金も少し持ってきていたのに。

「なんだよ。回復魔法とか、無いのかよ。それじゃあ冒険にはあんまり役に立たないな。そうだ、弓矢とかできない? 持ってないなら買ってやるから」

「いや、弓も扱ったことないです」

「そうか、でも練習すれば、と思ったけど、やっぱ無理だな。後方支援の弓を俺の背中に受けそうだもんな。これは却下と」
 リリーは一人納得すると、ミルクを一気飲みして、ふぅとため息をついた。

「よし、じゃあ一仕事やってくるか」
 リリーが立ち上がって、カウンターの方に歩いて行った。
 僕も着いていく。

 カウンターの横には掲示板が設置してあった。
 ゲーム内と同じだ。
 掲示板には求人広告みたいに何枚か張り紙がしてあった。

「これなんか、どうかな」
 リリーはその中の一枚を指さした。

 その紙には、『山賊の洞窟から金の竜印を取り戻してくる 依頼人:雑貨商 カロン』と大書きされて、その下に詳細が書かれていた。
 報酬は400Gとなっていた。Gというのはゴールドって事かな。

 相場はよくわからないけど、さっきの奴隷の女の子一人分だから、ひと月分の月給くらいにはなるのかな。

 リリーは広告を読んでいる僕の方をチラチラ見てくる。
 なんだ?

「どう思う?」
 それを僕に聞くのか?

「どうって言われても、報酬の事ですか? 確かに少し安いような気もしますね」
 きょろきょろした目つきは、そういうことを聞きたいのではないとわかったけど、意地悪くそう言ってみた。

「うーん、やっぱり危険そうだな。山賊、多そうだし、俺、いっぺんに大勢相手にするのって、ちょっと苦手なんだよな」

 勇者が何言ってるんですかって、いじめたくなったけど、僕も同行することになるんだし、やはり無茶はやめておいた方が良いだろう。

「こっちなんかどうですか? 皇帝の都市まで荷物を届ける、200G」
 僕は右下の広告を指さしてみた。

「そうだな。チュードンまで、少し遠いけど、荷物運ぶだけならそれほど危険はないかもな、どれどれ、依頼主は、首長補佐官じゃないか。なんで軍隊使わないんだろ。まあいいや。じゃあ行ってみようぜ」
 リリーは掲示板からその張り紙をピリッとはがすと、懐に入れた。

「ジュン、あっちの部屋に俺の荷物があるから、よろしく」
 酒場から出ていくリリーを追ってついて行く僕の背中には、彼女の荷物がどっさり。

 結構な重労働かもしれない。大きめのリュックサックには手鍋とかも吊るされてて、寝袋なんかの生活様式が一式含まれているようだった。


 17 冒険の始まり

「でも、白炎の大剣なんてすごい武器もってる割には、慎重なんですね」
 重い荷物を担いで首長の城への階段をのぼりながら、僕はリリーに聞いてみる。

 もう午後の日差しが斜めに影を長くしていた。

「だって、まだ勇者になって一か月だもんな。無理は禁物だぞ」
 前を歩くリリーが振り返って言った。

 勇者になって一ヶ月って、それって単に勇者の格好をしただけってことじゃないか。

「じゃあ、その白炎の大剣はどうしたんですか?」
 初期装備ってわけでもないだろう。

「ああ、これ、実はじいちゃんの形見だ。死ぬときに、これをお前にって渡された」
 そうか。では一応勇者の家系なんだな。
「じゃあ、おじいさんは勇者だったんですね」
「いや、木こりやってたよ。これは洞窟で拾ったって言ってた」
 まあ、そんなところだろうな。

 階段を上りきったところで、

「なんの用だ?」
 城の扉を守っている衛兵が聞いて来た。

「これのことで」
 リリーが懐から張り紙を取り出してみせた。

 衛兵に扉を開いてもらって、僕らは天井の高い城の中に通される。
 高いところの明かり取りから光がさして、微かに埃が舞うのが見えていた。

 大広間の奥が一段高くなっていて、首長の椅子がある。
 椅子にはヒゲを生やした初老の男がふんぞり返っている。

 その傍に居るのがたぶん補佐官かな。

 リリーが補佐官と話してる間、あんまりうろちょろするなと注意されない程度に僕は周囲を見て回った。

 この城の中もゲーム内で出てきた城と同じようだ。

 町の内部も、建物の内部も、さんざんやりこんだゲームだったから、その地図は頭の中に入っている。

 これって、少しは役に立つかな。

「よし、じゃあ行くぞ」
 リリーが奥から戻ってきた。

「どんなかんじでした?」
 二人で城を出たあとリリーに訊いてみる。
「軽い荷物でよかったよ。これをチュードンにいるあいつの息子に持って行って欲しいって。前金30貰ってきた。息子から受取証もらってきたら残りの報酬くれるってさ。個人的な用事だから軍人とか家来は使えないんだって。律儀だね、案外」
 リリーは僕の背負ってるリュックの中に、その巻物をねじ込んだ。
 魔法の巻物とかかな?

「そろそろ日も暮れるし、今日は宿屋に泊まりますか?」
 僕の言葉にリリーが首をふった。

「金がもったいないだろ。行けるところまで行って、今日は野宿だな。テントも寝袋もあるから大丈夫」
「でも、狼とか怖いですよ」
「この剣があるから大丈夫だって」
 さすがは勇者なのか、脳天気なだけなのか。

 でも、木こりの生活してたのなら町の外の危険もわかってるだろう。
 あんまり疑うのも悪い。納得して着いて行くことにした。

 家々から夕食の支度をする匂いを嗅ぎながら、通りを抜けていく。
 いよいよ冒険の始まりだよなあ。
 奴隷の買主とはいえ仲間もできたし、気持ちはワクワクだ。

 城門を出て少し行くとT字路に出る。右が西方向。

 チュードンはそっちにあるはずだ。

「お前、道わかるのか?」
 僕の後ろで、リリーが聞いて来た。

 解ると思いますと答えると、それは助かるな、地図って意外と高いんだよなと笑った。

 がさつで口の悪い少女だけど、リリーの笑顔は素直で可愛かった。
 さてと、冒険の始まりだな。

 とりあえず、今夜の野宿の場所まで、この荷物、結構重いけど頑張って担いでいくか。

 リリーが僕の後ろで大きく伸びをした。

 18 キャンプ


 三時間ほど歩いて、いい加減疲れも溜まってきた。

「リリーさん、そろそろテント張りましょうよ。疲れましたよ」
 前を歩くリリーに声をかける。

 夜空は薄い雲がかかって星はあまり見えない。
 月明かりも弱く、周囲の狭い範囲がリリーのランタンの明かりでふんわりと浮かんでいる。

「そうだな。あそこから川の方に降りれるみたいだから、川沿いにテント張るか」
 リリーが道からそれて河原の方に降りていく。
 ランタンの光が途切れて足元が見にくい。僕はよたよたしながらリリーの後を追った。

 そうだ。川沿いなら狼に襲われても逃げやすいな。

 そんなことを思いながらリリーを手伝って、何とかテントの設営も済んだ。

「じゃあ、岩を集めて、薪炉を作るから」
 リリーの言うとおりに事を進めていくと、30分程度でキャンプの準備が整った。
 さすがに外の世界に慣れているんだな。頼りになる相棒かもしれない。

 僕が薪炉を作ってる時にリリーが集めてきた枯れ木をまとめて、それに火をつける。
 火をつける作業は、魔法じゃなくて火打石だった。
 やはり、小さな火でも魔法でつけるのは特別な才能が要るようだ。

 炎が大きくなるにつれて気分も良くなっていく。
 キャンプファイヤーっていいなってしみじみと思ってしまう。

「じゃあ、今度は食い物の調達だ」
 リリーはそう言って背中の白炎の大剣をすらりと抜いた。

 おお、すごい。暗い中で刀身の白い煌めきがひときわ鮮やかに光った。
 でも、それで何を狩るんだ?

 リリーはそのまま川の方に行く。流れに浸からないように岩の上を進んで、少し深いところまで行くと、その大剣を川に差し入れた。

 途端にジュバっと音がして、川面が光った。

「おい、そこ浮いてるぞ」
 リリーの向いてるところを見ると、川魚が何匹か浮いてるのが見えた。
 流されていくのを追いかけて掴み上げる。腰まで濡れてしまった。
 先に言ってくれてればいいのに。
 そうやって夕食になる程度に魚を捕まえることができた。

 リリーはナイフで魚の腹を裂き内臓を取り出すと、簡単に塩を振る。
 それを串に刺して、火のそばにさした。
 しばらく待つと魚の焼けるいい匂いがしてきた。

 お腹が鳴るなあ。美味しそうだ。

「白炎の大剣って、電気を放電できるんですね」
 僕は訊いてみる。

「電気とか、放電とか知らないけど、こういう使い方できるんだよ。じいちゃんがやってた」
「それって、何度もやってると使えなくなったりしませんか?」
 放電ばっかりやってると空っぽになるはずだ。

「そうだな。だいぶ減ってきたから、ちょっと刺しとくか」
 リリーはそう言って剣を抜くと、近くの地面に突き刺した。
「嵐の時に刺しておけば、一晩で完璧になるんだけど、今夜は半分くらいかな」
 そう言った後、リリーは、焼けてるぞと言って魚の串を一本引き抜いた。

 取れたての魚の塩焼きは、ちょっとしょっぱかったり薄味だったりしたけど、空腹も手伝ってとても美味だった。
 考えてみれば普通に腹が減るな。狼男の精を受精してから、丸一日たっているからな。
 また受精したい。お尻が疼てきた。

「じゃあ。そろそろ寝るか」
 リリーが寝袋を広げた。
「一個しかないんですか?」そう聞く僕に、

「あたりまえだろ。でも、これじいちゃんが使ってた大人の男用だから俺とお前なら二人入れるよ」
 そう言ってリリーは革鎧を脱ぐと、下着姿で封筒型の寝袋に入った。

 ほれ、こっちいいぞっと隙間を開けてくれる。リリーには僕が男だという認識が欠けてるんだろうか。

 初対面のあの場で、僕のおちんちん見てるくせに。


 僕、男ですけど、いいですか? そう聞こうかと思ったけど、やめた。
 忘れてた、やっぱりダメだって答えられたら僕も困る。

 でも、ローブを着たままではかさばって寝袋に入りにくい。
「お前馬鹿か、上着は脱ぐに決まってるだろ。さっさとしろ」
「でも、僕下着着てないし」
「奴隷なんだから、裸でいいよ」

 そうか。
 リリーはまだ僕のことを奴隷だと思ってるのか。人間と認めてないから裸でも関係ないってこと?

 でも、一緒の寝袋に入れてくれるのは大事に思ってるってことだよな。
 なんだかいまいち、この世界の考え方になじめてないようだった。

 僕はローブを脱いで全裸になると、向こう向きのリリーの横にするりと身体を入れた。

 布と毛皮で作られた寝袋は、ほんわかと温かだった。

 大きめとはいえ寝袋の中ではどうしても身体が密着してしまう。
 リリーの方を向いて横向きになると、太ももにふんわかしたリリーのお尻を感じる。

 リリーの首筋から若い女性特有の甘い香りも漂ってくる。
 普通の男だったら、我慢できずに抱きしめて勃起した物をこのお尻のはざまに突き入れたくなる筈なのだが、今の僕はそこまで欲求を感じなかった。

 女を抱きたいとかセックスしたいとか、そういう気持ちにならないのだ。
 やっぱり僕が男の娘サキュバスだからそうなのかな。

 少し寂しい気持ちがした。

 まあいいか。
 そう思って身体を仰向けにする。

 目をつぶって眠りに入ろうとしていたら、股間にくすぐったい感触があった。
 いつの間にかリリーがこっち向きになって、その手が僕の股間に伸びてきていた。

「どうしたんですか、リリーさん。くすぐったいですよ」
 首だけ向けて僕は言った。

「思い出したんだよ、お前男だったって。顔が女の子だからすっかり忘れてた」
 だから出て行けって命令されるのかと思ったら違った。

「男って、この状況だったら欲情するものじゃないのか?」
 まだ柔らかい僕のペニスを握りながら、不思議そうにリリーが聞いてくる。

 僕は実は男の娘サキュバスなんです。言ってしまおうかと思ったけど、まだ止めておく。
 この秘密は僕の唯一の武器なんだから。

「昨夜、あのおばさんたちに一滴残らず吸い取られてしまったんですよ。男って言っても、精子溜まってない時はどんな状況でも欲情しないですよ」

「そうなのか。でもこれって柔らかくて触り心地いいな」
 リリーの指が僕のペニスの先っぽの余った皮をふにふにしてる。

 そうかと思うと、今度はタマタマの方をもみもみしだした。
「ここって、急所なんだろ。殴られると悶絶する?」

「そりゃ、痛いというか苦しくて、立ってられないくらいですよ」
 僕が答えると、このくらいは? と言ってかくんとそこを握った。

 いたた! 膝を曲げて逃げようとしても狭い寝袋の中じゃどうしようもない。
「そうか。じゃあ、明日蹴らせてよ。戦闘訓練だよ。どのくらい蹴ればどの程度のダメージか。知っておきたいから」

 リリーはそう言うと手を離して向こうを向いた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?