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ひとはなぜアートを必要とするのか#03

ハルキハウスインタビュー#03  

有限会社I.L.D代表 建築士 山口達也さん 2017.12.28
インタビュアー アートギャラリーハルキハウス 多喜博子

多喜 以下「多」:山口さんの事務所にはいろんな絵画やポスターが飾られていますが、もともとアートはお好きなんですよね?初めて原画の絵画を買われたのはいつでしたか?

山口達也さん以下「山」:アートは好きですね。初めて買ったのは大学1年生の時でした。大学の美術部の個展に行って買ったのが一番最初でした。

多:大学生の時だったんですね。それはどうして買われたのですか?

山:単に気に入ったから。だったと思います。

多:(ギャラリーをしている)私たちは、展覧会などで沢山の人達が絵を前にして買われる場面を多く見てきたのですが、絵を好きにはなるけど次の段階の「買う」という行為へ移るひととそうじゃないひとがいて。その違いは何から来ているのかな?と考えるんです。安くても(私たちの絵画は)数万円するわけじゃないですか。

山:ベースは可処分所得かどうかでしょうね。お金に余裕がある範囲内で買うし。どうしても欲しいものであれば、少しずつ貯金をしてまで買う。僕の場合はギターだったけど。あと、自分ものもじゃなくて贈り物では結構買いますね。

多:贈り物で絵を買われるんですか?

山:そう。開店開業祝いが多いかな。胡蝶蘭とか枯れたりするし僕はあんまり植物は好きじゃないので、絵を贈ることがあります。

多:どんな絵を贈られますか?

山:最近はレプリカが多いです。例えばクリムトのレプリカをカッコ良い額に入れたらそれらしく見えるし。開業開店した時からある絵がずっとそのお店と一緒に残っているっていうのはある意味”価値”じゃないですか。だから、経年変化しても価値があるっていうことからすると、本当はレプリカよりも原画の方が良いんですけどね。あと、僕は建築をやっているのでポスターを贈り物にすることも多いです。その方(贈る相手)の趣味を考えて選びます。

多:贈られる相手の趣味は把握されているんですね。

山:もちろん。だいたいバウハウス前後のものならハズレがないんです。イタリア未来派だとかロシア構成主義、チェコスロバキアイズムとバウハウス。この4つのうちからどれにしようかなぁって選ぶ。

多:そういうポスターを買って額縁に入れてプレゼントするんですね。なるほど〜。

山:例えばイタリアの有名な建築家のドローイングポスターとか、有名なんだけどほとんどのひとが持ってない。それを海外から買って贈るんです。

多:山口さんが贈られる相手というのは、同業者(建築関係者)の方が多いんですか?

山:同業者もいますが、仕事柄飲食店が多いですね。プレミアム度がついたレプリカ、ポスターを贈ってるんですが、本来は一回性のある絵画を贈りたいんですよね。ただ、絵画は特に好みがあるじゃないですか。抽象画でもいろいろあるし。

多:そうですよね。ひとのアートの好みは違うものだし、幅がめちゃくちゃ広い。山口さんがおっしゃる「自分の好きなものをひとに伝えることがアートだ」ということなら、自分の好きな絵を相手に贈る行為がもうアートなんですよね。でも、贈られた相手は気に入ってくれるかどうか解らないですよね笑。

山:そう。飾られずどこかに仕舞われているかもしれない。贈った後に行ったら、実際飾られていないこともあったしね笑。まあ逆もあるから。僕ももらっても飾らないことがある。

多:その場合、もらった絵はどうされるんですか?

山:捨てるか燃やすかして成仏してもらう。しょうがない笑。虎とかフクロウの絵を沢山もらうんだけど、写実の虎とかどうしよもない。僕は抽象画的な絵が好きなんです。

多:ええ!笑。今日私たちが(事務所移転祝いに)プレゼントしたハートの絵は飾っていただけるのでしょうか??

山:この絵は抽象的ですよね笑。実はトライセラトップスっていうバンドがものすごく好きなんだけどその「LOVE IS LIVE」っていうアルバムのカバーがハートだったんだけど、(ハルキハウスの)ハート展やってた時にあぁ、トライセラトップスを好きだったあの女の子にハートの絵を贈りたいなって思ってたよ。トライセラトップスが好きなので、ハートの絵は飾ります。

多:あぁ、良かった笑。ありがとうございます。

多:大学1年の時に初めて絵画を買われたということで、若い時からアートが好きでいらっしゃっていて。アートにもいろいろあると思いますが、その中でも絵画が好きだったんですか?

山:いえ、立体物が好きなんです。なんですが、持てない(所有できない)し壊れちゃうし。

多:絵画のほうが飾りやすいということですね。ご自分の空間の中に好きな絵を飾って暮らすというのは、どんな感じがしますか?日常に(絵画が)入り込んでいるという感じはありますか?

山:そうですね。この事務所にもいくつか絵を飾っていて、一人で仕事して休憩時にぼーっと(百龍展で購入した)龍の絵を見ながら”エヴァだなぁ”ってしみじみ思う笑。

多:エヴァンゲリオンのエヴァですか?

山口さんが百龍展で購入された『 十六之龍 』橘ナオキ作


山:そう、いいよねぇ笑。あと、あの絵(事務所に飾られているアボリジニが描いた)とかね。干ばつしたときの地面の絵なんだけど。

多:干ばつした時の地面の絵をなぜ買おうと思われたのですか?

山:これはもらったものなのだけど、”こういう絵が欲しい”とリクエストしたものだったな。エミリーウングワレーというアボリジニの作家に傾倒していて。ものすごく多作で。70歳でデビューして死ぬまで約7年間に三千点作ったらしい。

山口さんの事務所に飾られている干ばつした土地の絵画


多:ええ!!それはすごい。山口さんにとって、誰が描いたのかどんなひとが描いたのかというのも大切な要素なんでしょうか?

山:そうですね。シンパシーがあるかどうかみたいな。

多:どんなひとが描いているのかを知って、その絵を好きなることがあるんですね。

山:あぁ、そういうパターンが多いですねぇ。

多:そういうのって大事なんですね。それはどうして大事なんでしょう?

山:なんでかな。例えば、サッカーでも誰でもいいから点を入れて勝つよりも好きな香川選手が決勝点を入れて勝つのが嬉しい、みたいな。実は以前に、キュレーターの岡部さんに作家性について質問したことがあって。「一作品としてみるのか、それともこの作家が作った作品としてみるのか。」っていう面倒くさいようなこと訊いちゃって笑

多:あはは笑。で、どう答えていらっしゃったんですか?

山:両方ある、っておっしゃってました笑。

多:そうですよね、私も両方あると思うんです。私たちの展覧会に一見さんがいらっしゃって、この絵が良いと買われたこともありますし、橘ナオキが描いているから好きなんだとおっしゃるひともいるし。山口さんにとっては、誰が描いたのか、が重要なんですね。

山:うーん、重要というよりも、、、表現かどうか、かな。上手いとか綺麗だとかではなく、そのひと(作家)の表現かどうか。例えば、僕はバンドをやっていて、すごく上手いコピーバンドがいて、一方ですごく下手なオリジナルの曲をやっているバンドがいて、どっちが良いか?となった時に、オリジナルやってるけど下手なら話にならないじゃん、とか、コピーでもトレースでも努力して上手いんだからそっちのほうがいいやん、とか、実はずっとこんな議論があるのね。もちろんどっちが正しいとかは無いから、僕はそれが”表現なのかどうか”を問うようにしてて。

多:そのひとの表現なのかどうか、ということですか。

山:そう。つまり、すごく完璧にコピーすることがそのひとの表現であり伝えたいことなのであれば、それは良いものだと思う。ただ、単にコピーしているひともいるけど。

多:それは、作品をみてわかるものなんでしょうか?

山:わかります。そして、オリジナルだったら下手でもいいじゃん、ていうのも違うと思うし、わかる。ちょっと違うでしょう?

多:ええ。上手くなる努力は絶対要りますよね。

山:そのひとが伝えたいものの表現として、表現されているのか?っていうのがすごく大事だと思います。

多:アーティスト本人が”表現だ”と主張したとしても、それがそのひとの表現としてプライドをもって研ぎ澄まされたものかどうか、ということもちゃんと見ているよ、ということですよね。

山:そうです。それを見てるんです。オリジナルはすごくいいけど下手だよね、はダメだし、ラッセンを越えようとしていてラッセンっぽい絵を描いているんだな、という努力を感じられたら欲しいなと思うし。ただのラッセンのコピーは嫌だから、そこを見分けるのは難しいところで。あとは、あざといと見るのか、これすごく良いと見るのか、になるんだけれども。

多:そこを感じ取るのは自分の感性で、自分の感性を信じるしかないですよね。

山:そこがないと買えないですよね。批評はできても、お金を出して買えない。


多:ですよね。お金を出して買うということは、自分の感性に自信があって好きかどうか良いものかどうか判断できているんですよ、ということですよね。

山:そう、そういうことなんです。

多:そろそろ(インタビュー終了の)お時間です笑。おかげさまで良いお話がうかがえました。ありがとうございました。


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