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コロナ禍で輝くトップスター・柚香光の芸と人間性 花組『元禄バロックロック/The Fascination!』大千秋楽

たしか、2021/10/23だ。間違いない。
『マドモアゼル・モーツァルト』をマチソワした日だもの。

宝塚歌劇団花組公演『元禄バロックロック/The Fascination!』のS席チケットを確保できたと分かったのは、ちょうど『マドモアゼル・モーツァルト』明日海りおファンクラブ貸切公演の幕間だった。

全国ツアーの花組『哀しみのコルドバ』は、チケットが確保できていたものの、コロナ禍で家族の反対もあり断念。配信での視聴となった。今度こそ、と意気込んでチケット抽選に申し込んだのだった。

2022年初観劇は、東京宝塚劇場の花組公演で時代物になりそう。その時点で席は分からなかったが、なんとも言えない高揚感とワクワクに胸が躍っていた。

最悪のニュースが飛び込んでくることを、この時の私はまだ知らなかった。

花組東京公演中止

『元禄バロックロック/The Fascination!』の東京公演は、初日から中止になった。公演関係者にコロナ陽性の方が出たというのが理由だ。

中止期間は延長され、対象期間に私がチケットを持っていた公演も含まれることになった。

公演に向けてお稽古を重ねてきたタカラジェンヌのみならず、関係者の皆さんひとりひとりが、悔しい思いをしていたに違いない。早く幕が上がることを心から祈った。

公演期間がわずか1週間になってしまったものの、観客を入れて千秋楽を迎えられそうだと知った時はホッとした。だが気づいてしまった。千秋楽のライブ配信の日、私は帝国劇場にいる予定だということに。

『笑う男』も公演中止

花組の大千秋楽ライブ配信の日、私は帝国劇場で『笑う男』を観る予定だった。こちらはこちらでとても観たかった演目なので、東京宝塚劇場へは帝劇から念を飛ばすつもりでいた。

ところが、である。
何と、『笑う男』も初日の幕が上がらず、2月9日までの公演が中止となったのだ。

厄落としでもした方がいいのではないかと思い始めた。
だが、他にも同じ事態に追い込まれている公演はたくさんあった。きっとオミクロン株が猛威を振るっているせいなのだろう。ついてないなと思いながら、私はなるべく先の日程を選んで『笑う男』のチケットを取り直した。

会社帰りに宝塚アン有楽町店へ行き、『元禄バロックロック/The Fascination!』のル・サンク(写真付きの台本)を買った。観られないなら、せめて手元に置いておきたかった。

あれ? 2月6日に帝国劇場へ行かないということは、6日の花組大千秋楽配信、観られるってことじゃない?と気づいたのは、5日。いくら何でも遅すぎるだろと思うが、公演中止が相次いだショックのほうが大きくて気づかなかったのだ。

いそいそと配信チケットを購入して、あわててル・サンクを読んで、時間ぎりぎりにパソコンの前に座った。

見どころその1:クロノスケ(柚香光さん)とキラ(星風まどかさん)の少女漫画感

あらすじはこちら↓

物語は、忠臣蔵にタイムスリップネタを入れ込んで、少女漫画っぽくした感じだ。そもそもタイムスリップさせるなら、コウズケノスケに斬りかかる殿中の前に遡ればいいはずなのだが、少女漫画なので、キラがクロノスケと出会えなくなるところまではタイムスリップしないのである。

で、そんなキラとクロノスケは「おい~ むちゃくちゃ可愛いやんけお前たち」と言いたくなる関係なのだ。クロノスケはカッコいいのだが、主導権はどうみてもキラが握っている。時々見せるキラの表情は、明らかにクロノスケより精神的に優位に立っているように見える。

ラスト、抱き合ってクルクル回転する2人を観て思った。

どこかで観たことある・・・何だこの既視感・・・

は!!あれだ!!!
『恋は続くよどこまでも』最終話で、留学から帰ってきた七瀬(上白石萌音さん)と天堂先生(佐藤健さん)のあれだ。「相変わらず、俺のことが好きでたまらないって顔してるな」だ!

『恋つづ』も少女漫画みが強いなと思っていたけど、この公演でも同じことを感じた。
だがさすがは宝塚歌劇団。抱きつかれた方も抱きついたほうも、体幹がしっかりしていて、クルクル回る姿が美しい。

柚香光さんが『はいからさんが通る』や『花より男子』で見せてくれた少女漫画の主人公っぽさは、より極まっているようだった。

見どころその2:コウズケノスケ(水美舞斗さん)の色気

コウズケノスケ役の水美舞斗さん、おっさん役とは思えぬ男の色気を振りまいていた。さすが花組の男役。
そりゃ女にもモテるってもんでしょ、と思っていると、意外な人との意外な過去が明らかになる。ツナヨシの母ケイショウインとかつて愛し合ったこと、彼女との関係をやり直したくて、時を戻す時計を完成させたいと思っていること。

ん?キラはもしかして、ツナヨシの異父きょうだいってこと??と途中で気づく。二人が会って話をする機会はなさそうだけれど。

野心家で、赤穂藩側から観たら敵のコウズケノスケだが、100%の悪人として描かれてはいない。むしろ愛ゆえに少々暴走気味であるようにすら見える。

敵役を、水美舞斗さんが色気と人間的魅力たっぷりに演じていたのが印象的だった。

見どころその3:殺陣!

トップスターの柚香光さんはじめ、水美舞斗さんも永久輝せあさんもダンスがお上手なせいか、殺陣がキレキレだった。

どれだけ凄かったのかを、言葉で説明できないのがつらい。

もう一回殺陣の場面が観たくて、Blu-Rayを買ってしまおうかと思っているぐらいである。

見どころその4:アク強めのツナヨシ(音くり寿さん)

この演目においてツナヨシ役は、かなりインパクトの強い役だ。

少年であり、犬が好きであり、かつての飼い犬を生き返らせるために時を戻す時計の完成を待っている。そして、ことのほか争いごとが嫌いである。

アク強めのお芝居と上手い歌が印象的だった。
あ、『アウグストゥス』のオクタヴィアか!!と後から調べて分かったことを、お詫びしておく。
認識できていなくて申し訳ない。

ショー『The Fascination!』の魅力

年明けにNHKで放送していた、『新春宝塚スペシャル「The Fascination!」』という番組で、出演した皆さんが分かりやすく見どころを紹介してくれていた。正直言って、私がいくら言葉を尽くしても、あの番組より的確に、分かりやすく紹介することが出来る気がしない。

それでもあえて言わせてもらうとすれば、華の見せ方を熟知した花男たちの「Fascination」(魅力)が堪能できるところが、私はとても好きだ。
魅せ方が上手い。ダンスが上手い。観ていて楽しい。

『The Fascination!』の中で印象に残っている曲は、「心の翼」である。

もしも心に 思い運ぶ翼あれば
伝えてほしい 同じ涙 喜びと

「心の翼」より

コロナ禍で公演中止を余儀なくされた花組の皆さん。ファンに向けた思いにも似た歌詞が、胸に沁みる。

いまの状況と関係なく、もともと組み込まれていたことは分かっている。分かっているのだがどうしても、グッとくるのを止められない。

退団者ご挨拶と組長の異動

明日海りおさん関連のBlu-RayやDVDの中でお見かけしていた、優波慧さんが本公演をもって退団するという。

退団公演が全てできなかった悔しさをにじませながら、組長・高翔みず希さんへの感謝と、トップスターである柚香光さんへの敬意と、花組の一員としての誇りをきちんと言葉にしてくれていたのが、とても心に残った。

また、本公演をもって専科へ行かれる組長の高翔みず希さん。明日海さん在団時から組長として花組をまとめてくださっていた方だ。

柚香光さんに真ん中へ呼ばれ、0番で高翔さんが披露してくれたキレキレの花組ポーズと、0番で所在なさげにしているさおたさん(高翔さん)と、そそくさと元の位置に戻ろうとするさおたさんを全力で呼び止め、ついガニ股になってしまう柚香さんを、たぶん私はずっと忘れないだろう。

終わりに 花組トップスター・柚香光さんの人間性

花組がコロナ禍で公演中止に追い込まれたのは、これが初めてではない。

中止せざるを得ない状況に追い込まれるのは、関係者にとって辛いことだろうと思う。しかも花組は他の組と比べると、「ツイてない」組だ。辛い思いを何度も乗り越えて、花組100周年の『The Fascination!』を大千秋楽で上演できて本当に良かったと思う。

一方、2022年2月6日。
宝塚大劇場でも、宝塚バウホールでも、別箱でも宝塚の他組の公演は、なかった。感染力の強いコロナウイルス株の流行で、公演関係者に感染者が出て上演出来なかったのだ。

花組だけが上演できている状況で、度重なる試練を乗り越えた花組のトップスターは、花組だけではなく宝塚を代表するスターとしての挨拶をしてくれた。

一言一句覚えてはいないが、他組のトップスター一人一人の名前を挙げ、公演できず残念な思いでいるであろうこと、そんな中でもより素晴らしい公演を届けられるよう、研鑽に励んでいるだろうことを彼女の言葉で伝えてくれた。

清く正しく美しく。
歴代タカラジェンヌが体現してきたことではあるが、柚香光さんが一段上のレベルで表現してくれているように感じられた。

柚香光さんと、花組の輝きを次こそ劇場で堪能したい。

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