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行きずりの初老の女性が言ってくれた

長男(多分二、三歳のころ?)と普通にお出かけした時のこと。
行きずりの、縁もゆかりもない、初老の女性と、たわいもない会話を二言三言交わしたあと、いきなり笑顔で言われた。
「上手に子育てしてるのね、えらいわね」

もちろん、なんの根拠もない。
採点基準はあやふやで、とても公正な評価とは言い難い。あの方がどんな資格をお持ちだったのかもわからない。

それでもうれしかった。

母親なら誰だってそうかもしれないけれど、自信を持って子育てできないでいた。
24時間、365日、こんなに懸命に、必死に頑張っているのに、
どうして思惑通りにいかないのか。

そんな中、はじめて、誰かに、それも無条件にほめてもらえた。
私の子育て、これでも、そんなに悪くないのかもしれない。
食いしばっていた口元が、ほんの少し緩んで、笑顔になれた。

彼女とは一期一会。感謝しても仕切れない。

あれから数十年が経ち、私自身が初老の女性になった。
彼女に恩返しをすることは、もうできない。
そのかわり、チャンスを見つけては、行きずりの、縁もゆかりもない子連れのお母さんたちに言うようにしている。「上手に子育てしてるのね。えらいわね」と。

お母さんをほめる基準はなんだろう。赤ちゃんのプクプクとしたほっぺ?好奇心にあふれたお目目?理知的な声かけ?
いやいや、
ちゃんと子どもと向き合って、一生懸命子育てしてる、それだけでえらい。
だってほら、子育ては、思惑通りにはいかない。
現状の中で、最善と思えること、今やれることを、精一杯、忍耐強くやり続けるしかない。
うまく行って百点満点の日もあれば、全然うまくいかなくて泣きたい日もある。
それでも毎日逃げずに子どもと向き合い、一生懸命子育てしてる。それだけで、えらい。

ほんとは誰だってうまくやりたい。毎日毎日、百点満点を取りたい。
けど、そんな必要はないんだって、この頃ようやくわかった。おおざっぱに計算して、だいたいプラスになってれば、それで大丈夫。
もし、長期プランが思惑通りいってなくても、いまこの瞬間を楽しむことはできる。
楽しみなさい。
あなたが子どものほっぺに好きなだけスリスリできるのは、今だけ。

彼女のような、上品な口ぶりにはとてもならない。
そもそも私に、言う資格があるかどうかもわからない。
でも、これからも、チャンスを見つけては、若いお母さんたちをほめる。
「上手に子育てしてるのね。えらいわね」

ということで、
本日、某公園で黒柴を連れたおばさんにいきなりほめられたお母さん。
彼女の口元が、今ごろ、ほんのちょっとでも緩んでいたら、うれしいなぁ。




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