見出し画像

愛をこめて失恋ソングを


季節も慌ただしく変化し、春になった。
春は、プレゼントの季節だ。
ホワイトデーにはじまり、卒業お祝いや、新生活祝い、さらに少し経てば、母の日、父の日を迎えることとなる。

それに3月は加えて、祖母の誕生日月でもあるので、春らしい色をしたフリースを私はプレゼントした。

プレゼントにも様々な形がある。
お花や食べ物、洋服やアクセサリーなど、人によっていろいろ。
改めて、「人にプレゼントする」とは素敵な文化だと思う。

私は人生で一度、音楽をプレゼントされたことがある。プレゼントの季節、今日はそんな私の音楽のギフトの大切な想い出について綴っておこうと思う。

私がちょうど、大学生だった頃、同じサークルの後輩の男の子に恋をした。
甘酸っぱい、甘酸っぱすぎる恋だった。
「学生時代は、人生の夏休み」という言葉があるけれど、私はその夏休みを使って存分に恋をしていた。

その彼と、一緒にたわいもない話をして、話しながら川沿いをお散歩して、おいしいものを食べて、新しい場所を訪れて、気づいたら他の人に話したことのないような各々の身の上話を互いに打ち明けあって、気づいたらどうしようもないくらいに彼のことを好きになった。

「会いたくて会いたくて震える」
そんな歌詞の歌がある。そんなのはおとぎ話だと思っていたけれど、気づいたらLINEを開いて彼の返信を待っていて、昨日会ったばかりなのに、私は彼に会いたくて会いたくて震えていた。

人生の夏休みは長い。社会人になった今みたいに時間に追われないので、目の前にあるありあまった時間を存分に彼のことを思って過ごしていた。

そんな報われない日々に嫌気がさして、もはやいっそこの想いを伝えてしまおう。と私はある日思い立った。

意気込んで彼に会う約束をして、一緒にごはんを食べに行った。どのタイミングで伝えようかとヤキモキしながら、あんまりごはんが喉を通らなかったのを覚えている。
どんなに意気込んでも、結局この関係が終わってしまうことを考えたら、怖くなって勇気が出なくて、気づいたらあっという間に時間が経って、帰りに家まで送ってくれた彼と、自分の家の前に立っていることに気づいた。

「やばい。今日が終わってしまう。」

そう思って、急に私はその場で突如として彼に告げた。

「好きです。」と。

そのあとのことはあまり覚えていない。きっと「ごめん。君とは付き合えない。」「友だちとしてしかみれない。」的なニュアンスのことを言われて、私はフラれたのだ。
人間の記憶は本当に都合がいい。嫌な記憶から先に抹消してくれる。

フラれた瞬間のことは覚えてないけれど、そのあとのことはよく覚えている。
そのあと私は家の中に入って、いてもたってもいられないくらいつらくて、泣きながら親友に連絡した。
そしたら親友が家まで駆けつけてくれて、どうしようもなく泣きわめいている私のそばでずっと慰めてくれていた。その親友のおかげで、涙がゆっくりと引いていった。数時間立って、私は親友に感謝の気持ちを伝えた。

「忙しいのにそばにいてくれてありがとう。だいぶ落ち着いたからもう大丈夫!」

そう言って親友を見送った。
そして、わかってはいたけれど、私は一人暮らしの部屋でひとりぼっちになった。
さっきおさまったと思っていたのに、またじわじわと悲しい気持ちが溢れてきた。
気づいたらまた、1人で私は涙していた。

そのとき、LINEの通知がポンとなった。
その親友からのLINEだった。
たぶんだけど、彼女が私の家を出てからちょうど1時間くらいが経ったときだったと思う。

「またきっと泣いてるだろうと思って。この曲聴いてみて。」

というテキストとともに、ある曲のyoutubeのURLが送られてきた。

竹内まりや「元気を出して」
はじめて聞くタイトルだったけれど、とりあえず涙を拭いながら、再生ボタンを押した。

涙など見せない強気なあなたを、そんなに悲しませたのは誰なの?
終わりを告げた恋にすがるのはやめにして、ふりだしからまたはじめればいい。

まるで彼女が私に語りかけてるようで、また涙が出てきた。

すこしやせたその身体に似合う服を探して、街へ飛び出せばみんな振り返る。
チャンスは何度でも訪れてくれるはず。
彼だけが男じゃないことに気づいて。

驚くほどにその歌詞が自分の身体に、心に染み渡った。
まるでひたひたにダシが染み込んだ4日目のおでんくらいに。

全部聴き終わって、彼女にLINEを返す。

「こんなに素敵なプレゼントをありがとう。こんなに幸せな友だちがいて私は幸せだ。」と。

そのあと、何度も何度もリピートしてこの曲を泣きながら聴いた。
そして気づいた。私は今、失恋のショックで泣いているのではない。こんなに自分のことを理解してくれる親友がいることが幸せで、うれしすぎて泣いていた。

10回くらいリピートし終わった頃だっただろうか。その頃には涙も消えていて、「さあ、全然やせてはないけど、明日新しい服でも買いに行こうか。この世に男は五万といるのだから。」と驚くほどに私は立ち直っていた。

というか、そもそもなんで泣いてたんだっけ。あーフラれたのか。うーん。でもこのくらいで気持ちがおさまるなら、いつものこと、きっとメンクイな私のことだから、ただ顔がタイプだっただけなのだろう。そう開き直った。

恐るべし。
もはや、ずっと泣いているのを付き添ってくれていた親友に申し訳ない気持ちになるくらいだった。

そんな出来事があってからというもの、失恋するたびに私はこの曲を聴くようになった。
そして、この親友を想い出して泣いて、暖かい気持ちになる。今もその親友とは仲良しだ。

今改めて思う。
たった数分の時間で、人々の心を浄化させてくれる音楽の力のすごさと、親友の音楽のプレゼントという粋な計らいに、私は尊敬と感謝しかない。

そしていつの日か、そんな粋なプレゼントが私にもできるようになりたいと思う。
そう。その親友がくれたように愛をこめて。




この記事が参加している募集

忘れられない恋物語

私のコレクション

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?