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日本映画レビュー『ニセコイ』

◆ニセコイ

2011年11月から2016年8月まで連載されていた、週刊少年ジャンプ連載のラブコメ。2014年、15年にはシャフトによるTVアニメ化もされた。ちなみに最近MGS3リメイク発表などで話題沸騰のKONAMIがPSVITAでゲームを発売していたりもする。

ジャンプ史上連載最長ラブコメだとか言われているが、どちらかというと、キムチ事件だとか、覚悟の門を開くとか、街を守る良いヤクザだとか、まるでラブコメ漫画における特級呪物みたいなアレな扱いをされている。
常々そんなよろしくない話題をされていると思いたくないのだが…
というか、もっと明るい話しようよ。小野寺さんマジ天使とか千葉県のYさんとかさあ。

そんなぼくでもキムチ事件には当時相当腹が立っていた。マジ告白は回避されると分かっていながら当時まだ真摯に読んでいたぼくへの故に斜め上の裏切りだからだ。後半はあまり良い思い出がないのだが、なんだかんだで嫌いな漫画ではない。

というか、小野寺さんが天使すぎるのであらゆるマイナス要素がすべてひっくり返るようにプラスになる、唯一無二の破壊力を持つ漫画なのだ。
察しの通りぼくは小野寺さん推し(当時なら「小野寺さん派」って呼び方だろうな)だし、小野寺さんがいちいちクッソかわいいムーヴを取るたびにプラトーンポーズキメまくっていた。

※イメージ図

………冷静に考えてなんでプラトーンなのか、小野寺さんとセットでプラトーン画像貼りまくっていた10年前のぼくに問い詰めたいのだが、まあこんなポーズをしていたくらい当時はキャッキャイヤホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ小野寺さんかわいイヤホオオオオオオオオオオオオオオオオマジ天使オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオしていたのだ。
マリーと『トリノライン』の宮風夕梨が千葉県のYさんの嫁であるなら、小野寺さんと『夏空のペルセウス』の沢渡透香はぼくの嫁である。

だってぼくは小野寺さんと同じ誕生日だからなあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!

あ、本当に誕生日同じですよ。マジ。マジのガチで一生誇りにできるわ。

◆実写映画の視聴動機

で、今回のテーマとなるこの実写映画版。
原作完結から2年後となる2018年12月に公開された。
116分。長すぎてシークバー見てちょっと絶望しかけた。

なんで今になって見たのかと言うと、ひとつは気まぐれであり、もうひとつが来月に文庫版が刊行なのを知り、ニセコイの存在を久々に思い出したからである。だからってアニメじゃなくて実写映画ってどんな判断なんだと自覚こそはしているのだが…

アニメ版は全話ではないが、そっちは見たわけですよ。
シャフト制作ではあるが、シャフト特有の自己満演出は意外とそんなにキツくなかったし、寧ろ原作基準のつくりになっているので素直にオススメできる。なにもキムチ事件まで原作通りにしなくても良かったのだが…
アニメは原作とは異なるヒロインのかわいさも引き出せている。小野寺さんは勿論可愛い。スク水回の小野寺さんのケツの描き込みはなによりすごかった。変態作画班と握手したい。
なおアニメ化範囲は原作の面白かったところまで。正しい判断です。

ここまで無駄に前置きが長くなってしまったが、早速筆を手に取りたい。

◆役者のヴィジュアル

個人的にこの手のラブコメは「こいつらを生暖かく見守れるか」「こいつらが羨めるか」「主人公とヒロインどっちでもいいからかわいく見えれば大正義」なのが重要という持論がある。

で、本作。
なかなかきびしかった………

もうキーヴィジュアル公開から地雷臭を感じ取った人はいなくないのだろうが、メインヒロインの千棘がかわいいとは思えないのがまず厳しいものがあった。
原作の千棘も個人的にあまり好きではないのだが、だが時たまかわいい一面があったし、それ故に支持を受けたのは間違いないだろう。ヴィジュアル自体もいいのだ。

ぼくは人の容姿に関してグチグチ悪口を書き綴りたくない。己の性格の悪さを披露するだけの無駄な行為だと思っている。オブラートに包んだ言い方をさせていただくと、千棘がアップで映された瞬間あっちむいてホイ感覚でそっぽを向いてしまった。それくらいかわいいとは言い難いのだと察していただきたい。かわいければ超絶賛するよ!超!

逆に言えば、遠くから見れば意外と悪くはないのだ。
原作に沿った格好(金髪、制服、クソデカリボン)なのでコスプレ感もあるが、原作以上にハーフの帰国子女らしく見える。別にここは特に求めていなかったのだが、地味に評価したくある。原作がアニメ調の絵柄だからそこまで気にしていなかったのもあるが。

そんなわけで、主人公の楽くんが彼女のことを好きになった過程はおおむね納得できなくはないのだが、ヴィジュアルがイマイチなせいで説得力を薄めてしまった。感情移入を妨げるまでもあるので、見ていて羨めるニセコイカップルではなかった。マジで二人は幸せなキスをして終了をしたのも正直苦笑が出てしまった。

あ、小野寺さんはかわいいですよ。期待通りかわいかった。
原作やアニメほどではないけれど、普通の女の子らしさを良い感じに再現できていてマジで本作の清涼剤だったと強く主張しておきたい。
なお途中で「お?小野寺さんENDか!?」と期待していたら案の定滑り台行きでくやしくなれた。プラトーンポーズしてイヤホオオしたかった。

他は………クロードさん役のDAIGOさんが割と迫真な存在感を振舞っていた(楽くんを本気で始末する執着感があった)のと、原作の変顔が割と解像度高かったのは見所さんだろうか。千棘がゴリラ呼ばわりされる説得力が原作より上なのは褒めるべきなのだろうか。
肝心の演技に関しては意外と悪くなかった。それだけにヴィジュアルをもっとなんとかしてほしかった。勿体ない。

◆とにかく寒すぎる演出

この映画、開始数分で見始めたことへの後悔を予感させられる。
とにかく演出がウザいくらい過剰だ。

コメディシーンでは文字演出があまりにも古臭くてウザすぎるし、音楽(変な挿入歌)も自己主張と天丼が激しすぎてウザい。キツい。ダメな邦画ってこういうのだよねというのを久々に思い出してくれる。
今ではアマプラで見られるので、開始数分でそういうのがダメだと苦手意識を持ってしまった人は直ちに回れ右をしたほうがいいだろう。こういうのがダメな人にはホントダメなやつです。ダメでした。

ニセコイってこんなノリだったっけ…?
いちおう原作もドタバタしていたし、たまに肌に合わないコミカル描写はあるにはあったのだが、そこまで気にならずさらっと読めた記憶がある。この実写映画版は変な添加物をブチ撒けたような謎演出、果たして映画館の中で笑いが飛びかかっていたのだろうか?
いちおう後半からは鳴りを潜めてきたし、こっちもだいぶ慣れが生まれてきたからか気にならなくなってきた…のだが、終盤のシリアス展開でも空気読まず文字演出やりやがったのは自分で茶化しているみたいでマジで理解に苦しんだ。

他、原作にはいない謎のオリキャラ(NTR同人誌に出てきそうだった)はコメディリリーフにもなれていないし、ニセコイという作品そのものの解像度を薄めたように見えてしまった。

◆雑ながらもまとまった構成

ここまで書いておいてアレだが、脚本自体は悪くはない。クソ演出を筆頭とした余計な要素がくっついちまってる、それだけの話。

もっと言うなら、『原作ネタをつまんで全6巻程度で短くまとまった、名作と呼ばれる可能性のあるニセコイ』を予感させられる構成にはなっている。
キムチ事件をカットさせて(マジでなかったよ!)、文化祭のロミジュリで大いに盛り上げて、最後は幸せなキスをして終了。それ原作でも見たかったな…小野寺さんENDで。

キーアイテムである鍵についてコンパクトにまとまっていたのも好感触。原作では鍵を持つヒロインが数名いたのだが、本作では小野寺さんだけに絞っていた。これは原作完結済作品だからこそやれる改変点なのだろう。まあ、原作未読の方からすれば「知ってた。」と結果は読めたかもしれないが…原作は「一体誰なんだ」というミステリアスな煽らせと展開引き延ばしのキーアイテムだったからなあ。

とはいえ、小野寺さんが文化祭準備で事故に巻き込まれて足を負傷したのは原作以上に唐突すぎて雑(大宇宙の意志が原作以上に仕事しすぎている)で笑ってしまったし、終盤の千棘帰国のくだりもよくある盛り上げのための展開だが、急展開で巻きすぎだ。
マリーは「昨日の敵は今日の友」感覚で助けてくれるし、鶫さんは楽くんにDOGEZAしてもらえば通して「大した奴だよ」的な台詞を述べたり、ラスボスのクロードさんが拳銃を向けるも弾は出ず「今度は逃げなかったな」と見過ごしてやったのもイマイチ腑に落ちなかった。
マリーもクロードさんも鶫さんも実は悪くない奴だった展開をやりたいにしても、なんだかあんまりしっくりこない、急なのは否めなかった。

◆ロミジュリif

ロミジュリは開幕前原作にはないクソラップで「きっつ…」となったのだが、たぶん監督がやりたかったシーンなのだろう。なんとなくやりたいのはわかる。でもそういうのはできればオリジナル映画でやっていただきたく存じます。

それはさておきこのロミジュリ。
意外と良かった。というか本作で一番見入っていた。

というのは、原作ではコメディに走っていたロミジュリが、実写映画ではまじめなロミジュリifに仕立ててくれたのだ。
途中までは千棘がセリフを忘れて会場が笑いに包まれるのは原作通りなのだが、後半からは劇中のセリフと現在の三角関係が自然とシンクロしたようになっている。

そして、千棘が小野寺さんと楽くんを尊重してあげたい本心が素直に伝わってきたのだ。というのは、回想で振り返ることで「あの時の台詞はこのオリジナルシーンに繋げるためだったのか!」という伏線(?)には感心させられた。

いやちょっと、これ、びっくりしましたね…
たぶん個人的な千棘の好感度があまり高くないことから、楽くんにアレコレ言われてそこまで尊重心ある子だったのかよ!?という意外性がうまく効いていたんじゃないかなあと思う。この映画で一番良かったところまでもある。激寒ギャグ演出やっていた映画だとはとても思えないくらいに。

◆良い所探しはできるぞ

上述したことを復唱するが、小野寺さんは本当にかわいい。リアルで付き合ってみたい。原作の「普通の女の子」らしさをちゃんと引き出した上で、ちゃんとかわいいのはポイント高い。

ヤクザがちょっとガチっぽいのは割と好みだった。
ここはガワがしっかりしていたのは評価しておきたい。開幕ヤクザハウスを見て「おっ、ニセコイを実写化するとこうなるんだな」「ちゃんとヤクザっぽいじゃん」と少し興味深かった。原作がアニメ調の絵柄でもあるのでそれがどうなるか気になっていたら、良い具合に実写映画へ落とし込めていた。

鶫さんをミステリアスなサブキャラへ降格したのも地味に好改変。
とはいえ元々ヒロインカルテットの一角なので、サブへ降格だなんて彼女推しの人にとっては残念極まりないだろう。しれっと当たり前のようにあっさりクロードさんの側近として登場していたくらいである。しかも最後の最後でやっと初めてしゃべる(デレる)寡黙な用心棒キャラになっている。

けれどもそのおかげか、原作のぽんこつっぷりが嘘のように謎の強キャラオーラが漂っていたのは妙に面白かった(褒めてますよ)し、そも鶫さんはヒロインレースに積極的に参加していないので良い意味での省エネ設定改変である。無理にヒロインレース参加させなくてもいいんだよな。思い切った良い判断にして改変だと思います。

◆まとめ

脚本・構成は意外と悪くないのに、ヴィジュアルのイマイチさや余計な要素のせいで台無し。

実写版ニセコイは個人的にそんな作品だった。
いやホント、何度もくどいくらい挙げたが、それほどあのクソ演出だけで過重圧殺されるような気分だった。始まった頃はホント第一印象最悪だった。メインカップルふたりの出会いが最悪だったように。
それが後半のロミジュリで「色々酷い映画だけど、そこまでぶっ叩くもんじゃないな」と気持ちは切り替わったからなあ。

でもまあ、うん。
116分は流石に長いな…FGO周回しながら見て良かった…
今回のぼくのように怖いもの見たさがあるなら止める気はしないが、強くお勧めはしない。だがしかし、いざ見てみれば少なからず印象は変わることだけは保証しておきたい。百聞は一見に如かず案件だな。

つーかこれ、ノベライズを読んだほうが一番良いのかもしれない。
変な演出は活字媒体で再現されないだろうし、肝心のヴィジュアルに関しても原作絵ないしアニメ絵で想像を膨らませればマイ・ペンライ!
表紙は映画ではなく古味先生描き下ろしなのが偶然にもグッドタイミングである。
(※集英社みらい文庫版は美術背景写真を張り詰めた表紙になっている)


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