クリエイティブリーダーシップ特論:2021年第1回 足立成亮氏・陣内雄氏

この記事は、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコースの授業である、クリエイティブリーダシップ特論の内容をまとめたものです。
 2021年第1回(2021年4月12日)では、足立成亮さん・陣内雄さんから「林業の世界」についてお話を伺いました。

足立成亮氏について

 足立成亮さんは写真作品制作などの活動をした後、滝上町へ移住し、森林調査・森林作業を行う企業にて山仕事の修行を始める。2012年、旭川市にて独立してoutwoodsと名乗り、以降、山奥の林業から薪の販売、里山アクティビティまで多彩な活動を展開している。現在、キコリとして活動している。

陣内雄氏について

 陣内雄さんは東京芸術大学建築科卒であり、設計事務所勤務後、下川町森林組合で働きつつ、音楽活動も展開してきた。2006年、旭川にてNPO法人もりねっと北海道を設立して代表を務める。2019年、キコリが家を建てるという「キコリビルダーズ」の活動を北海道をベースにして展開している。足立さんと同様にキコリとして活動している。

足立氏から観た「キコリ」とは…

 足立さんの世界観として、「こんな森があったらいいよね」というものがある。足立さんのメッセージは以下の通りである。

プロのきこりとして
より強く、より美しく、より楽しい場所
「こんな森があったらいいよね」

つくり続けてゆく
それが僕らのやりたいヤマ仕事
人と森がうまいこと共存できたら
人の生活圏が
よりよい方向に広がってゆく、ということ
その話をもっと多くの人と
できたらいいと思う

  足立さんにとり、林業は閉ざされた業種であり、ネガティブな印象であるとのことである。お金を生み出す装置として、底辺に近い場所にいる仕事であり、それを自分たちの知恵と気持ちですべてを書き換えて価値を生み出していきたい、との想いで活動をされているとのことである。そして、そのためにはキコリも外へ出る必要があると足立さんは考えており、「木こりがまちにおりてくる」というコンセプトでイベント空間の制作などを実施している。
 足立さんの屋号でもある「outwoods」=「森林作業道」の大切さの話もあった。

これからの森林・林道に必要なものは
どんな合理的なシステムや高性能機械よりも、人間そのものが持つ能力だ。
観察力・想像力・知識・創造性、次の世代に確実に伝える力。

それらをヤマに持ち込むための装置が「道」だ。
つくるのではなく、人間と森林のベストパフォーマンスを助ける装置が
時間をかけて出来上がっていゆくイメージを
森に彫り込んでいく作業がきっと、理想の道づくりなのだと考える。

札幌の木が北海道の作り手に渡り、誰かの家の椅子になる。
その過程で必ず、誰かが作った森の道を通ってゆく。

その道は美しいか?その森は未来に繋がっているか?
運び手の表情に力は漲っているか?
想像してみてほしいのです。
あなたがその椅子を触っている時、座っているときに。

生きてゆくものや朽ちてゆくもの、
過去から現在に繋がるヤマの姿を。

美しく共存する街と森のその姿を・・・。

陣内氏から観た「キコリ」とは… 

 陣内さんのメッセージとして印象深かったのが以下である。

ずーーっと、やってける林業

 森をリセットしないことを前提として、森が森でありつづける活動をしてきたとのことである。キコリに建築が加わった「キコリビルダーズ」では、藁と土という地元の材料を活用し、それらに技術を組み合わせ、地元の人と一緒に家を建てる取り組みをしている。足立さんと同様に、陣内さんも林業という業種に対してネガティブな印象があるものの、そこに関与している人々の熱い想いに感化されたとのことである。山の持ち主や街の人たちに楽しく関わってもらうきっかけとなり、仕事だったり遊びだったりを、いろんな人たちと関わりながら活動している。

授業にて特に印象深いことは...

 お二人の共通するメッセージとして、「森には本質がある」というものである。例えば、陣内さんはキコリと音楽活動をしており、その背景として、色、形、音など、人間の五感を刺激するもののすべての始まりが森にはあるとのコメントがあった。デジタル機器のおかげで便利な世の中となった反面、五感はどんどん廃れてきているのではないだろうか。今回の授業を通して、深い思慮なく情報に接して世の中を把握した気になり、五感にもとづく実体験が少なくなっていると私自身も反省する機会となった。そして、お二人の発信力キャスティング力(巻き込み力)についても学ぶところが大きかった。キコリの作業は孤独な作業かもしれないが、孤独だからこそ醸し出す熱量にて、社会をつくる原動力となっていると感じた。こちらについても安易な情報や他人との接点を有することで、沸々と煮えたぎる熱量をもたなくなっていないか、改めて自分自身を振り返る機会となった。そして、お二人のように自分の人生をデザインしていきたいと思った。



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