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元発電所のショッピングモール

こんにちは、コーイチです。
 世界でも突出した歴史と伝統を有しながら、つねに華やかな文化の中心地でありつづけるイギリス。
 ロンドンをはじめとする都市部では、最先端なモノを取り入れつつも、古き良き建築を巧みに維持して次世代へとつなげていく街づくりが自然に行われています。
 今回は、2022年10月、ロンドンで「最も費用のかかった歴史的再開発」として開業した「Battersea Power Station(バタシー発電所)」を見ていき、日本でもこのような開発が出来ないか考えたいと思います。

1.世界最大級のレンガ建築

(出典:Battersea Power Station Official youtubeより)

 テムズ川のすぐ南にある、この石炭火力発電所の建設は1929年に始まったものの、完成までには約26年かかりました。
 最盛期にはロンドンの電力の20%を供給していました。
 著名建築家のジャイルズ・スコット氏が設計したこの建物は4本の煙突が印象的で、ロンドンのランドマークの1つとなりました。
 ピンク・フロイドの1977年のアルバム『アニマルズ』のジャケットやビートルズの主演映画にも登場しています。
 それ以外にもヒッチコックやモンティ・パイソンによる作品、バットマンシリーズの「ダークナイト」、アカデミー賞受賞作「英国王のスピーチ」など、数々の著名な映画作品のロケ地にも使われてきました。

 発電所は1983年に操業を停止し閉鎖され、この親しみ深い巨大な施設をどう次世代に受け継いでいくかについては、長いあいだ激しい議論が交わされました。
 1987年にはイギリスの工業をテーマにしたテーマパークの建設が試みられましたが、1989年に開発はストップ。
 1993年には複合レジャー施設の建設が計画されましたが、これも頓挫。その後もサッカースタジアムの建設等様々な案があったそうですが、結果的に2012年に現オーナーであるマレーシアの企業が買収し、現在の計画による再開発が始まりました。

 このように多くの人の手に渡りさまざまな用途が検討されたのち、長らく放置されていた世界最大級のレンガ建築が、人々の「コミュニティ創出の場」になるべく、2022年10月に新たな複合商業施設としてオープンを迎えました。
 施設には、多彩なショップやレストラン、映画館、煙突を改装したユニークな展望台のみならず、オフィスやホテル、さらには住居や住民のための庭園も備えています。
 2023年には、多国籍テクノロジー企業のアップルがUK本社をここに移す予定ということです。

2.Battersea Power Station

(出典:Planet UK youtubeより)

 広さ42エーカーのこのアーバンビレッジは、複合施設として段階的にオープンします。
 2017年には宿泊施設、バー、レストラン、映画館や劇場といった娯楽施設からなる第1部がまずオープンしました。
 2021年の終わりには地下鉄の新駅が開業し、そして第2部として2022年10月、発電所が実際に建っていた場所がオープンしました。

 「Battersea Power Station」は、発電所の南、Battersea Power Stationゾーン 1 地下鉄駅までのエリアで、フランク・ゲーリーの「プロスペクト・プレイス」とフォスター・パートナーズのバタシー・ルーフ・ガーデンの間を走る歩行者向けの新しい大通り、「Electric Boulevard(エレクトリック・ブルバード)」も同時に開業しました。
 「Battersea Power Station」は、100を超えるショップ、バー、レストラン、オフィススペース、レジャー施設を有しており、主にショッピング、娯楽、エンタメの場になっています。
 ユニクロ、スーパードライ(Superdry)、リーバイス、アディダス、ナイキ、スウェッティ・ベティ(Sweaty Betty)、ルルレモンといった店や、電気自動車のポールスター(Polestar)や電動バイクのメービング(Maeving)のショールームなど、さまざまな店があります。
 多くの店はラルフローレンやロレックス、BOSSといった高級店で、ゴードン・ラムゼイのレストランもあります。
 一番大きな食料品店としては中間層向けのマークス&スペンサーが入っています。

(出典:Time For Travel youtubeより)
 
 商業施設部分は「タービンホールA」と「タービンホールB」に分かれており、それぞれ全く違った雰囲気を演出しています。
 建物内には当時のレンガの壁がそのまま使われている部分もあり、歴史を感じることができます。
 また、発電施設の一部も展示されており、その周りにはユニフォームを纏ったスタッフがいて当時の様子を説明してくれたり、バタシー発電所の歩んできた道のりや再開発の経緯などについての展示が設けられており、歴史を学ぶことができます。

 10月14日(金)のオープンから16日(日)までの期間で25万人もの来場者を記録し、今後、映画館や展望台などが順次オープンされる予定とのことです。

 住宅も254戸あって、2021年に最初の居住者が入居しました。このエリアは「「Electric Boulevard」として知られており、ZARAなどの店舗の上に高級マンションがあります。 
 家賃はけっして安くなく、小売店や中庭が見下ろせる、寝室とバスルームが2つずつあるマンションの一室は、年に4万5000ポンド(約775万円)以上。寝室が3つある広さ約180平方メートルの部屋なら、ひと月あたり1万5145ポンド(約260万円)にもなります。
(もう少し手頃な住宅も敷地内にはあるようです。)
 スティングやベア・グリルス、ゴードン・ラムゼイといった有名人がこの再開発エリアにすでに物件を所有していると、『イブニング・スタンダード』は報じています。

3.世界初の発電所の再開発

(出典:Battersea Power Station Official youtubeより)

 この再開発は、90億ポンド(約1兆5,500億円)かけた「ナイン・エルムス地区再生プロジェクト」の一部であり、マレーシアの投資家コンソーシアムがオーナーである同プロジェクトには、4000戸以上の住宅、新しいNHS(国民保健サービス)ビル、19エーカー(約7万6890㎡)の公共スペース、さらには「Electric Boulevard」という名の地元コミュニティーのための新しい目抜き通りの建設も含まれています。
 
 敷地面積は42エーカー(16万9968㎡)と広大で、プロジェクト全体で、1万7000人以上の雇用と首都経済に200億ポンド(約3兆4,500億円)をもたらすと予測されています。
 また、プロジェクト全てが完成すれば2万5000人あまりが暮らし働く、ロンドン最大のオフィス、ショッピング、娯楽、文化エリアになるといいます。

 この発電所の再開発に当たり、デベロッパーはクリエーティビティーを発揮し、有名な4本の煙突のうち1本を、高さ109メートルまで上がれるエレベーターに改造し、ロンドンの景色を360度見渡せるようにしました。「Lift109」
 一方、発電所の旧制御室は、元々あったダイヤルや制御装置をそのまま残し、お洒落なイベントスペースとして再利用されるようです。

 「サステナビリティが昨今ますます重視される中、歴史的建造物を修復して再生させるのは自然な流れで、人々が食事や買い物をし、遊び、働くことができる元発電所など世界中どこにもなく、あらゆる人にとっての特別な地になるはず。」と再開発に携わる資産管理部長のサム氏は述べています。

4.最後に

 (出典:The B1M youtubeより)
 
 イギリスでは歴史的建築物の保護にあたって保護地域を設けているほか、「Listed Building」という制度があります。
 特別な建築物や歴史的価値のある建物は同リストに登録され、保護を受けることとなります。
 リストにはその建築物の重要度に応じてグレードが設けられており、ロンドンを含むイングランドの場合は、上からグレードⅠ、グレードⅡ*(グレード・ツー・スター)、グレードⅡの順に3等級に分類されます。
 グレードⅡには一般の住宅も含まれ、英国内の約50万棟の建物が指定されています。
 そしてこのリストに登録されている建築物の改修にあたっては、自治体の許可を取得する必要があります。

 歴史的建築物の保護のためには相当の維持管理費用がかかることもあり、建物をそのままの形で維持するだけではなく、新たな用途を見出し、うまく再利用しながら残されている建物もロンドンには多く見られます。

 「Battersea Power Station」はグレードⅡ*に指定されていて、民間投資により新たな形で再利用され、保存されることとなりました。

 日本においても歴史的建築物をどのような形で保存するか、管理費用の観点から維持するか否かなど様々な議論があると思います。
 地域の遺産として歴史的価値のある建築物を保存したいと考える人々がいる一方、費用の問題で取り壊されてしまう建築物が数多くあることもよくあることかと思います。

 これからは、歴史を後世に受け継ぐという視点だけではなく、「Battersea Power Station」のように、新たな価値や利益を生み出すような形として残せるかということが重要かと思います。
 日本でも歴史ある工場などをもう一度見直し、このような再開発が誕生することを願っています。

 今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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