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空き家美術館の再利用

こんにちは、コーイチです。
 今回は、近年、海外建築で注目されている、歴史的な建築物を保存するだけでなく活用する「Adaptive reuse(アダプティブリユース)」という考え方を取り入れ、空き家となっていた美術館を醸造所やカフェ、フードホールへと生まれ変わらせた「MOUT Venlo(マウト ヴェンロー)」を見ていき、このような開発が日本でも活性化するのか考えていきたいと思います。

1.建造物の保存と新しい息吹

(出典:Archi Studio youtubeより)

 オランダのヴェンロー市にあるボメル・ファン・ダム美術館(museum van Bommel van Dam)旧館は、 1971 年に建てられ、建築家ヨス・ファン・ヘストによって設計されたもので、リンブルフ州初の近代美術館として使用されていましたが、美術館としての現代の基準を満たせず、2017年に明け渡されました。
 ヴェンロー市は、文化的・歴史的に価値のあるこの建物の新しい用途を探し、公募を行いました。
 この公募により、ロッテルダムを拠点に活動する建築スタジオ「Buro Moon」が、3人の起業家を集め、生まれ変わらせ、2021年の夏、「MOUT Venlo」の施設がオープン、2022年にフードホール「Foodhall Mout」がオープンしました。

 オリジナルの美術館の建物は、モニュメントに指定されているわけではありませんが、独特の建築的特質を備えていました。
 象徴的な屋根の上部構造、上部から内部空間に入る日差し、展示スペースのオリジナルの構造などが尊重され、新しいデザインに取り入れられています。
 既存のファサードへの介入は、オリジナルのモダニズム様式の外観と雰囲気に類似しています。
 「Buro Moon」の介入により、ヴェンロー市にとって貴重な建造物の保存が保証されると同時に、建物とその周辺の公園に新たな息吹が吹き込まれました。

 この建物とその周辺へのスマートな介入の数々により、建物と隣接するジュリアナ公園の両方が驚くほど変貌しました。
 建物の一部を取り壊すことで、公園のためのスペースが生まれ、その結果、建物はよりコンパクトになり、公園の一角にあるパビリオンとして生まれ変わりました。

2.パークパビリオン

(出典:Hknk777 youtubeより)

 「MOUT Venlo」は、古い建築を活用し、美術館の内政的な展示空間から、醸造所、カフェ、フードホールを備えた魅力的なパークパビリオンへと生まれ変わりました。

 「MOUT Venlo」 は、あらゆる市場に精力的に取り組んでおり、8 つ以上の異なるキッチンと 15 種類の特製ビールを備えた、ヴェンロー市で最も居心地の良いフードホールとなりました。 
 また、「Brouwerij de Klep (クレップ醸造所)」でビールがどのように醸造されているかを見ることもできます。
 「街のリビングルーム」とも呼ばれるこの場所には、世界各国の料理、カクテル、そしてその名の通りビールが揃っています。

 「MOUT Venlo」 は楽しむことがすべてで、それは内装やメニューにも反映されています。
 温室のような空間に入ると、すぐに植物園のような雰囲気が漂います。
 正面には居心地の良いリビングエリアのある暖炉があり、その後ろには大きなバーがあり、ジュース、カクテル、その他のドリンクがそろっています。
 このカフェは、「新たな集いの場」となっており、ゲストはこの中央の空間から、公園や天候、季節の移り変わりを見渡すことができます。

 カフェの右側には、「Brouwerij de Klep (クレップ醸造所)」、左側には「Foodhall Mout」があります。
また、その他のスペースには居心地の良いシーティングエリアがあり、屋内と屋外のテラスのどちらでもおいしいものを楽しむことができます。

 「Foodhall Mout」では、8 つの異なるキッチンでアジア料理、メキシコ料理、アメリカ料理、イギリス料理、タイ料理、そして朝食から夜食までの料理を提供しています。
 そのほかにも、スイーツの品揃えが豊富で、料理の注文はテーブルにあるQRコードかアプリから行うことができます。
 レストランのサービスとフード ホールの多様性を組み合わせることで、気軽に楽しめる 「街のリビングルーム」を実現しています。

3.活気ある場所に

(出典:archdaily.comより)
(出典:archdaily.comより)
(出典:archdaily.comより)

 「MOUT Venlo」は、建物を減らし、緑を増やすというコンセプトで設計されました。
 建物や敷地の舗装は、木や芝生などのソフトグラウンドとなり、建物と公園の間には、人や動物のためのパーゴラや生け垣を設置し、柔らかな緑のトランジション(切り替え)が設けられています。
 新しいファサードの開口部や透明な温室空間によって、屋内でのアウトドア体験をより充実させることができ、緑が街の熱ストレスを軽減し、舗装が取り除かれたことで雨のピーク時に街の水の緩衝能力も高まります。
 結果的に、「MOUT Venlo」はジュリアナ公園に都市住民を呼び寄せ、この緑豊かな環境をさらに利用しやすいものにしました。
 建物内のトイレは、開園時間中は一般に開放されており、オープンで、透明性が高く、簡単にアクセスできるビルになりました。

 このリノベーションでは、オリジナルの構造、象徴的な屋根の上部構造、建物に入る美しい光など、古い建物の特質を尊重し、保存しています。
 その結果、過去の遺産の古い魂を残し、現代的な雰囲気と、街のカフェ、ブルワリー、フードホールという新しい解釈と共生しています。
 「MOUT Venlo」は、ヴェンロー市にとって貴重な建物を保存し、多くの訪問者が訪れることで、活気ある場所、活気あるジュリアナ公園を作り出しています。

4.最後に

 設計者である「Buro Moon」は、何よりもまず、すでにあるものを保存し、変化させることでインパクトを与えます。既存の(都市の)形態にまだ多くの可能性があるのに、なぜ新しいものを作るのか?という疑問を抱き、このプロジェクトを進めました。

 何度か記事に書いている「Adaptive reuse(アダプティブリユース)」に似た事例は、日本でも見られますが、本格的な事例はまだほとんどないかと思われます。

 どうして日本に比べ、ヨーロッパの建築と都市はあれほど歴史的な遺産を大切に守って現在にいたっているのでしょうか。
 今の東京に、江戸時代の社寺建築はほとんど残っておらず、町屋は一棟もありません。
 やはり煉瓦や石でなく木造建築だったことが大きく、西洋に起源する近代化の荒波を受け入れる中で、歴史的な蓄積が軽んじられたからでしょうか。
 今から約55年前の「旧帝国ホテル」の取り壊しの際、当時の建築史関係者は保存を訴え、アメリカの建築界からの声も届き、政界もそこそこ関心を持っていたようですが、市民のバックアップはほとんどなかったようです。

(出典:Casa BRUTUS youtubeより)

 しかし近年、建築への関心が高まってきているように見受けられます。
 有名な美術館が充実した建築展を開くようになりましたし、一般の雑誌や新聞にも建築探訪の記事がしばしば載っていまするようになりました。

 近い将来、このような古い建築物の再利用が見られるのではないかと期待しています。

 今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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