街が、

 街が、

 妙な雰囲気に包まれている。


 何かが変わる前。嵐が来る前。

 人々の、心の中の慌ただしさが、体の外に滲み出てしまって、

 それがあちこちに、

 モヤのように漂っているみたいだ。


 何かが終わってしまう間際、何をしないといけないわけでもないのに、ただどこか落ち着かない。

 「やり残した」ことがある気がしている。死ぬわけでもないのに。

 何かに焦っている。


 したいことができないまま、

 伝えたいありがとうを、伝えたいごめんねを伝えないまま、

 取りたい連絡を、なんでもないように見せかけた連絡を取らないまま。

 そのままで明日を迎えると、

 もうずっと、"それ"ができない気がする。

 もうずっと、その人と会えない気がする。


 冷静に考えて、そんなこと、あるわけがないし、

 街は、あなたを置いていったりはしない。


 何も変わらず、明日もそこにある。


 ただ少し、しばらくの間、

 にぎやかになるだけ。

 なのに、なぜか、

 落ち着かない。そわそわする。


 この前終えた正月が、またやってくるような感覚だろう。

 年をまたぎ、年度をまたぎ、

 そして今度は、年号をまたぐ。


 枯れた木々に囲まれた、しん、とした水面を描き出したような「平成」が過ぎ行くのを肌で、頬で感じながら、

 冷たい空気の中、静かにゆっくりと開く橙色の花弁のような「令和」の夜明けを待つ。

 ただ、座して待つ。


 この感覚を、この焦燥を、この物悲しさを感じているのは、世界でただ一つ、この国だけ。

 ひっそりと東洋に浮かぶ小さな島国の中で、

 いま、静かに何か大きなものが終わり、始まろうとしている。

 この国だけの、私秘的な感覚に、寂しさを感じながら、

 どこか嬉しかったりもする。

 わたしたちの夜明けが訪れ、

 わたしたちだけの、

 新たな時代が始まる。

#短文 #エッセイ #平成 #令和

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