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【映画の話】「アレックス ORIGINAL CUT」—時間は全てを破壊する—

※ネタバレあります




「時間は全てを破壊する」

印象的なセリフで始まるこの映画。

マルキュスは、恋人のアレックスと、アレックスの元恋人であり友人のピエールとともに、パーティに行く計画をたてる。ピエールはアレックスに対してまだ未練を残しているようだが、3人は良い友人同士という関係を築いている。パーティ会場にたどり着き、思い思いに楽しむ3人だが、マルキュスはアレックスを放置気味。ほかの女と遊んだり、薬に手を出している。怒ったアレックスは、先にパーティ会場を飛び出してしまう。しかし、帰り道の地下道で、アレックスは見知らぬ男にレイプされてしまう。
それを知ったマルキュスは怒り狂い、ピエールとともに、憎悪と暴力の渦に飲み込まれてしまう・・・。

・・・というのが映画の中での時系列順のあらすじである。というのもこの映画は、まず初めにエンドロールから始まり、そこから逆時系列順に物語が展開していく。ということは先ほどのあらすじで、ラストシーン付近のことについて触れてしまったことになるが、ストーリーを知ってしまったからと言って、面白さが減じるような映画ではないはず・・・と思ったので、あえて時系列順のあらすじを書いた。

同じような手法の映画で真っ先に思い浮かぶのが、クリストファー・ノーラン監督の「メメント」である。「メメント」のほうは、サスペンス感や、ミステリー要素、これはいったいどういうことだろうといったワクワク感、ストーリーの構成的な面白さで魅せていく映画であると思う。(もちろん、それ以外にもたくさん素晴らしい要素はあるけれど)

それに対して「アレックス」は謎とか、どんでん返しとか、そういったエンタメ要素みたいなものはない。起こった出来事を、ただ時系列を逆にして描いている。この映画を観ようと思ったとき、「メメント」的なミステリー要素を期待していた部分もあったから、少し肩透かしを食らってしまったのは事実なのだけれど、どうしてこういった手法で物語を描いたのか、自分なりに考えてみることにした。


まず、印象的な「時間は全てを破壊する」というセリフ。
レイプという衝撃的な事件が原因となって、幸せだったマルキュスたちの運命が変わってしまったのだと表面的にはみることができる。しかし、幸せな時間→事件→復讐劇という変化は、全て時間の経過によって起こったこと。変化というものは、実際的な事件や出来事によって起こるようにみえるけれど、元はといえば、時間が流れることによって様々な物事が変化してしまうとみることもできる。時間という概念が存在しなければ、運命や変化という概念も存在しないことになる。


変化するということ。
そもそも変化というものを初めて認識することができるのは、必ず変化した後の地点である。変化後の地点から過去を見つめなおすことによってしか、変化を確認することはできない。
そして、時間の流れはあまりに緩慢であり、それに伴う変化もあまりに緩慢であるため、普段から変化を認識することはとても難しいと思う。
そのため、特別の意識をしなければ、僕たちはあまりにもあっさりと変化を受け入れてしまう。

でも、この映画ではあえて時系列を逆にする、変化した後の地点から描くことによって、時間のなかに埋もれてしまいがちな変化をより強調して、浮き彫りにしていると思う。
そして変化というものの恐ろしさを、観ている中で意識的にせよ、無意識的にせよ、実感させられることになる。








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