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カツアゲ電子マネー

昨日、カツアゲにあった。

時刻は、夜の10時ごろ。
コンビニのチキンが無性に食べたくなって、僕はいそいそとコートを着て外に出た。
アパートは閑静な住宅街にあるので、この時間に出歩く人はいない。
あたりは静かだった。風が冷たい。

ふと、向こうの方から自転車にのった3人の男たちがこちらに向かってくるのが見えた。
ギャアギャアと何か騒いでいる。
高校生だろうか。
今どき珍しく、髪を金髪に染めて、学ランを着崩していた。
いわゆる、不良という感じの高校生だった。

無視して通り過ぎようと思ったのだが、彼らは何を思ったか、急に自転車をとめて、僕を取り囲んだ。
まずい、と思った。
こういうことって、ほんとうにあるんだなあと、変に冷静な自分がいた。

「おい、おっさん、ちょっとこっち来いよ」

低い声で脅されて、僕は3人の高校生たちに腕をつかまれて、暗がりに引きずり込まれた。
彼らは力がつよくて、ほとんど抵抗することが出来なかった。
コンビニのチキンのことが頭をよぎった。

「金出せよ」

と高校生の一人が言った。
とても逆らえそうになかったので、僕は仕方なく財布を取り出そうとした。

「今頃現金かよ」
高校生が言った。
「え?」
と僕は思わず言った。

「今はペイペイの時代だろうが、ペイペイで払えよ」

僕はなんと返事をしたらいいかわからなかったので、黙っていた。

「あのなあ、今は電子化の時代なんだよ。俺らの周りでも、こういうやりかたが流行ってんの。」

うんうん、と周りの高校生たちが頷いた。

戸惑いながらも、僕はスマホを起動して、ペイペイの画面を開いた。

「ほらよ」

高校生がQRコードを見せてくる。
僕はそれを読み取って、10000円を入力した。高校生たちにそれを見せると、彼らは満足そうに頷いた。

ペイペイ♪♪

「じゃあな」

高校生たちはスマホをしまうと、自転車に乗って走り去っていった。

僕はその後ろ姿を、呆然と見送った。


電子化の波は、僕らをすでに飲み込んでいるんだなあ。



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