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【未解決】お寺の怪談会

怪談には色々な話し方や観点(主観・客観)がありますが、話を聞くという"聴覚だけで怖さを感じ取れる"度合いには【個々の能力】や【個々が身を置いている環境】によって大きな差が生まれます。

私はそれが【話し手の能力次第】というよりは【"話し手の能力”+”聞き手の聴く力、想像力”】に加えて、如何に自分たちの生活に近い話なのか、それらの相乗効果が作用した結果だと考えています。

それ故に、結局のところは聞き手次第になってくるのが怪談というものではないでしょうか。
私がそれを実感したのは夏場にお寺で開催されていた怪談会でした。

直接的ではなかったとはいえ、後味悪く嫌な体験をしてからはこのような会に参加することを控えるようになりました。
そのため、最近はどのような形式になったのか知りませんが、私が手当たり次第に参加していた頃のイベントのスタイルは大きく分けて2つ。

1つは運営側で一方的に話しているものを参加者が聴くもの、2つ目は私達参加者が挙手もしくはクジ等で選ばれた参加者達が順番で話をしていくもの。

私は前者よりも後者の方が好きでした。
なぜなら、運営任せにしてしまった場合で運営が用意した話し手の声が小さかったり、緩急をつけない人に当たってしまったら、どうしようもないからです。
怪談は聞き手の問題だとは先述しましたが、怪談として人を怖がらせるためには話し手にも最低限の能力が必要です。

怪談が好きな方ならご理解があるかもしれませんが、怪談というものは声のトーンや聞き取りやすさ、間の取り方、擬音の使い方が大切なのは基より、話し方によっては矛盾点が浮き彫りになりやすい。
『そんな時間にその施設は入れないだろう。』とか『そこでそんな行動するか?』とか、『さっきはAと言っていたのに、Bということになっている。』とか…

だからといって、無理矢理に補足を加えれば説明臭くなってしまい、怖く感じなくなる。
ましてや、そのようなイベントで聞き手となるのは【時間とお金を使ってまで集まってくる怪談マニア】です。

たまにマナーが守れない参加者からの野次が飛ぶこともありますから、グダグダになることだってありました。

それならばハズレを引く可能性を少しでも回避するため、参加者達が話すことのできる参加型の怪談会を選びたくなります。

ネット上には沢山の怪談が転がっていたり、それを読みたいという需要が沢山ありますが、現実で怪談が好きで仕方ないという方はそうそう居ません。
怪談を聞いても平気だという方は多いですが、わざわざ時間とお金を使ってまで怪談を聴きに行くような物好きは限られており、私は殆どの会に自分一人で参加していました。
当時は周りにもそのような方が多かったため、出会いの場として参加している方もチラホラいたように感じました。
私も声を掛けられて連絡先の交換をしたことが何度かありますが、それでも誰かと日程を合わせて参加するということはしませんでした。

今思えば、それで良かったのだと。
怪談を聞き慣れた私は、話を聞いているだけではどうせ滅多に怖がることはない。
となれば、そうそう興奮することもないですから、誰かと一緒に参加しても盛り上がりに欠けます。


そんな私が最悪な体験をしたのは、10年以上前に開催されていたイベント後のことでした。


とある怪談イベントが開催されるその日、私は朝から体調が悪く、頭がボーッとしていました。

しかし、時代はまだ平成。
そのくらいで会社は休めないですし、怪談会も当日キャンセルは全額支払になるため、向かうことにしました。
余談ですが、その時はまだネット上の決済システムというものが今ほど発達していなかったこともあり、参加費の支払いは運営側が指定した金融機関口座へ事前に振り込むことが多かったように記憶しています。
わざわざ金融機関に出向いて参加費を振り込まなくてはならない時代。
現代よりもイベントに参加するということにちょっとした覚悟が必要だったのです。

キャンセルしなかったもう1つの理由は、”今は亡き友人”を連れていく約束をしていたこと。

私は最悪な形で1人の友人を失ってしまいました。
10年以上経った今でも、未だに自分を責めています。

私は怪談会に人を連れていくこと自体には抵抗がなかったのですが、先述のとおり、1人で参加することが当たり前でした。
しかし、何処からか噂を聞き付けた友人が私に自分も連れて行けとしつこく迫ってきました。
私は3回ほど拒否をしたはずですが、それでもどうしてもということで友人は引かなかった。結果として友人の車で参加することになりました。

この時に強く拒否しておけば良かった…
連れていくとしても【あの話を話す人がいない】別の日にすれば良かった。
人生における一番大きな後悔です。

怪談の内容はいつもの通り、聞いたことのある話が殆どで、後は心霊スポットに行った実体験や○○したら呪われるといった話が中心でした。

友人はもの凄く楽しみにしていたので、私の横でがっかりしているだろうなと思ってそちら見ると、とても楽しそうにしています。
暗かったのでハッキリと顔が見えるというわけではなかったのですが、ワクワクしているのはすぐに分かりました。

そんな時にとある心霊スポットに訪れたときの実体験がある参加者によって語られ始めました。

場所は怪談会の開催場所から車で1時間~1時間30分ほどかかる、初めて聞く名前のトンネルで体験をした話。
この話は事細かにトンネルの場所や名前、トンネルに入った時間、天気まではっきりとしていました。心霊スポットではないため、本当にたまたま体験したらしい…

私は話が完璧すぎるためなのか、作り話のような気がしたので聞き流していたのですが、友人はそうでは無さそうな感じ。
そもそも普通にドライブしていて、何でもないトンネルに入った時間を把握しているのはおかしい。

トンネル内は片側一車線ずつ。日本では自動車を運転する際には危険を回避する緊急の場合を除いて左側通行と法律で決まっていますが、左側車線ではなく、対向車線である右側車線を走行しているとソレが現れると…

心霊現象云々ではなく対向車線を走るなんて明らかな違反だし、危ない。
『心霊現象に合う前に事故を起こして自分達が心霊になるよ』なんてことを考えていました。

トンネル内でエンジンを切るとか、ライトを消すとか、クラクションを鳴らすという話は良く聞きましたが、それもかなり危ない行為なので交通事故の原因になるようなトンネルにまつわる話自体、元々毛嫌いしていたのかも知れません。

怪談会が終わり、お開きになった後、私は興奮状態の友人を連れて帰ろうとしましたが、友人はまだ帰りたくないとゴネ始めました。

お寺という、非日常スペースで初めての非日常体験をした。
『あーはいはい。』と話を聴いていた私とは温度差があって当たり前なのかも…

私は自分の体調が優れないこともあって、友人のテンションの高さに少しイライラしながらも友人を車に押し込み帰路へ。

しばらく友人の車で移動していると、怪談会で聞いたトンネルとは異なるトンネルを発見しました。イベントは田舎で山の多い、駐車場の大きなお寺で開催されていたためトンネルなんて沢山あったのですが時間も遅かったためか対向車は殆どありません。
そんなとき、友人が『さっき聞いたトンネル逆走の話、やってみてもいい?』と聞いてきたので、私は率直に危ないから止めてくれと友人を諭しました。
あの話は私も初めて聞いたが、恐らく作り話だ。事故を起こしたら民事でも刑事でもセンターラインオーバーの罪は重い。
しかもそれが故意(わざと)であった場合はお金の問題だけではなく、只じゃ済まないよ。というような話をしたと記憶しています。

言い訳をするようでお恥ずかしいですが、当時体調の悪かった私には言葉だけで友人を完全に制止させることができませんでした。
幸い、友人はすぐに聞き入れてくれて『そうだよね。しかも逃げ場のないトンネルで逆走なんて危ないよね。ごめん。』といった具合で落ち着いたため私は油断をしてしまいました。

その後、無事に帰宅後3か月ほど経ったころ友人からメールが届きました。メールの内容は物凄く長かったのですが、要約すると【誰かに見られている、怖い】というものと【怪談会で聞いた例のトンネルではないが、やっぱり気になってしまい、別のトンネルで逆走行為をした】というものです。

私がこのメールを確認したとき、仕事中でしたがすぐに友人へ電話をかけて、人の多いところで落ち合うことにしました。
本当は私がすぐに友人家に行けば話が早かったのですが、友人が『怖いから家で一人でいることができない』と落ち着きなく話をしていることを聞き、ファミリーレストランで待ち合わせをするのが良いと判断したためです。

私は仕事を抜けて来ていたために友人とあんまり長く話す気はなく、簡単に現状の話だけ聞いて、今後どうするかは後で考えるつもりでした。
例えばこの前、怪談会イベントの会場として赴いたお寺の住職さんや友人宅付近のお寺や霊能力者などに頼るという方法もあるのではないか?くらいの軽い気持ちだったと記憶しています。

友人に会うと、友人はげっそりしていました。目の下にはクマができており、睡眠不足なのか栄養不足なのかはわかりませんでしたが、とにかく不健康であることは誰が見てもすぐにわかるような状態です。

私はなぜそうなったのか順を追って説明を受けました。
友人は私と怪談会に参加した後から、次に参加するときは”自分も怪談を話して注目を浴びたい”と考えたとのこと。
だから色々な心霊スポットへ別の友人を誘い、何か所か巡ってきた。その道中であったトンネルで怪談会で聞いたような逆走を何回も行ったという。
そして、そのうちのどれが原因か分からないが、ずっと誰かに見られているような気がして、毎日のように怖い夢を見ている。
朝になって目が覚めると、怖かったことは覚えているが具体的な内容は記憶に一切残っていない。

私は怪談が好きだが、それはあくまでもファンタジーの世界として楽しんでいるだけだったので、友人の行動力には驚きました。
しかし、どれが原因なのか分からないならば専門家に診てもらうことでしか解決ができないのでは…と考えました。

こういう時、心霊現象というか怪奇現象というものが一緒にいた人にも生じているようならば原因や治療法も目処が付くものですが、友人が連れまわしていた人達にはこのような症状は出ていないとのこと。

そうとなれば…私は友人へ『心霊云々の前に最初に医者にかかるべきだ』と話をしました。
幽霊に憑りつかれた可能性もありましたが、怪談会に参加したことで興奮状態が続き、精神的におかしくなってしまった可能性だってあることを指摘したのです。
何より私自身が幽霊の存在に対して半信半疑という心持です。


その後、友人の母から友人が精神科を受診し、入院したことを報告してもらいました。
精神病として診断を受けたのかどうかは不明ですが、これで一安心だと思っていた矢先、友人は3か月ほどで退院してきました。

友人の退院を知ったのは友人本人からの電話でしたが、私の感覚では最後に会った友人の状態がたったの”3か月”という短期間で改善されるとは考えられなかったので、すぐに会いに行きました。
友人は案の定、回復しているとは言いにくい容姿をしており私は友人へいくつか質問をしました。
きちんと寝られるようになったのか?食欲はあるのか?まだ誰かに見られている気がするのか?

すると友人はもう見られている気はしない。心霊現象ではなかったみたいで、自分が精神的におかしくなるトリガーがあの怪談会だったようだと説明してくれました。
食欲が回復したばかりだから沢山は食べられないけど、1か月もすれば元通りになるよと言って笑いました。

私は安心して友人の自宅を後にしましたが、その3日後のこと。
友人は車を運転して自宅から50kmほど離れたトンネル内にてセンターラインオーバーをして対向車と正面衝突。
命を落としました。


友人は心霊現象に遭遇したくて故意に逆走を行ったのか、それともたまたまだったのか。いずれにしろ私は自分の責任だと頭を抱えました。
怪談会なんて連れて行かなければ、友人がおかしくなることもトンネル内で逆走することもなかったのでないか?
後悔の念に捉われるしかありませんでした。

その後、私は友人の母から友人の死について分かっていることを教えてほしいと連絡を受け、私の自宅で話をすることになりました。

友人の母には友人から怪談会へ連れて行って欲しいと頼まれたこと、私はそれを断り切れなかったこと、その怪談会に変な話をする参加者がいたこと、道路を逆走することがどれだけ危ない行為なのかを伝えたが上手く制止できなかったこと、全て正直に伝えました。

すると、友人の母から友人がついた【嘘】について指摘がありました。
友人から友人母が聞いていたのは、まず怪談会に行きたいと誘ってきたのが友人ではなく、私であるということ。
一人じゃ怖いからついてきてと私から頼まれたから行ってくると…
それから、怪談会なんかでは参加してもつまらないからやっぱり心霊スポットに行くことになったと…
その心霊スポットであるものを見てからというもの、食欲がなくなり、上手く眠ることができなくなった。
あるものとは何なのか何度聞いても友人は口を割らなかった。
『一人でいることが怖くなったから』ということで友人宅へ度々呼ばれていたと…

私はとても驚いたと同時に、全てが誤った情報であることを友人母に伝えました。
友人母は私の姿と私の話を聞いて、嘘をついていたのは友人であることを理解していたようです。もしも、友人の話が本当ならば、私も友人と同じような容姿になっているのではないか?
だからそれを確認したくて私に会いに来たとのことでした。

私は罪滅ぼしの気持ちを込めて友人母に『恐らく友人が赴いた心霊スポットでナニかを見て、精神的におかしくなってしまったのではないでしょうか。私がそういうのに詳しい人に聞いてみるので、友人がどこの心霊スポットに赴いたのか分かるものはありませんか?』と聞くと、そのようなものは残っていないとのこと。
友人は他の友人と一緒に心霊スポットへ行っていたと聞いていたので、友人の携帯電話に何か手がかりになる情報が入っていると考えていた私は行き詰まってしまいました。
友人の交友関係については私も心当たりがあったので、後日数人に連絡をしましたが友人と心霊スポットへ行ったという人は一切見つかりせん。

友人が事故にあったときに乗っていた車は損傷が激しかったので、すぐに廃車になってしまった。そのため、カーナビの履歴も見れない。

つまり、友人がおかしくなってしまった心霊スポットなんて最初からなかったのか?
それとも実際に心霊スポットに赴いてはいたが、一人で行ったのか?
真実はわかりませんでした。


仮に友人母や私が虱潰しに心霊スポットを回っても、友人がなぜおかしくなってしまったのか、場所や理由を見つけることは難しいことです。







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