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【ミステリー】4時になったらね(中編)

この記事は【ミステリー】4時になったらね(前編)の続編です。
もし、前編をご覧いただいていない場合は当記事をご覧いただく前に下記のリンクより前編をご覧ください。

自宅からの脱出

私が友人宛ての一斉送信メールを確認しながらトイレに籠っていると、携帯電話の着信音が鳴った。
ディスプレイをみると友人のSだった。私からのメールを見て今から向かうとのこと。
ここで私は冷静になった。Kが亡くなってKの母も偽物、Kの幼馴染も疑わしい状態。1人で戦っていくつもりだったが、こうやってメール一つで動いてくれる友人がいる。凄く安心した。

だが、どうにもSを危険に晒す気分にはならなかった。
そもそも、私が狙われているという事実があったとしても、具体的に何かされたわけではない。
現状では私が狙われていることは確たるものではないし、私の被害妄想だったという可能性もある。

しかし、Sとは外で会おう。私がどこかから監視されていた場合、今Sを家に呼べばSも狙われる”可能性”がある。
そんな危険なことは絶対にさせられない。

私の住んでいたマンションは壁やドアが薄く、部屋で私を待っているKの幼馴染にも一部始終が聞こえているはずだ。
私は冷静になった頭で必死に考え、これ幸いとばかり大きな声で『今から?仕方ないな。じゃあどっかで落ち合おう。今、色々と危ない状態だから、30分経っても私が待ち合わせ場所に現れなかったら警察に電話してほしい。』と話しながらトイレから部屋に戻った。

勿論、Kの幼馴染は私の部屋で待っていてくれたのだが、私の電話を聞いていたので帰り支度を始めた。
今、Kの幼馴染に何か聞くことは”返って怪しまれる”と考えた私は単純に申し訳なさそうに友人に緊急で呼ばれてしまったと謝った。
とても悔しい思いをしたが、現状では私の味方なのか、敵なのか、私の頭脳では判断できなかった。

まだ私には自宅でやることがあった。
それはSとの待ち合わせ場所までの道中、安全確保のための準備とSを除く友人に『ごめんなさい。今は時間がなくて詳しく話せないけど、今から家を出ます』と一斉にメールを送信することだ。

Kの幼馴染には『忘れ物をしたから先に出てていいよ。』と外へ行くことを促し、先ほどトイレで一斉送信したメールを送信ボックスから引っ張って文章のみ編集し、送信ボタンを押した。
これで取り敢えずは一段落だ。あとは無事にSとの待ち合わせ場所へ向かえば良い。その後のことは後で考えよう。

私は自転車の鍵と防犯ブザーをトートバッグにしまい玄関のドアを開けた。

友人の幼馴染を問い詰める

ドアを開けると、Kの幼馴染がこちらに背を向けて立っていた。
『ごめん。待たせちゃったね。』私はすぐに謝罪の言葉をかけた。

Kの幼馴染はそんな私に笑いかけてくれた。こんな良い人を何で疑わなければならないんだろう。私は何故この人を怪しいと感じていたんだろう。

良心が痛んだが、私はSとの待ち合わせ場所に向かって自転車を引き歩きながらKの幼馴染に揺さぶりをかけてみることにした。

『違っていたら本当にごめんなさい。私はあなたの言動についていくつか腑に落ちないことがあります。』
ビビりな私は回りくどく、バッグの中で防犯ブザーの紐を引く準備をしながら主張した。
Kの幼馴染の顔が曇ったことは明らかだったが、怒るというよりは驚いていたような感じがした。

そもそも何故、Kが亡くなったことを知っていたのか。何故3か月も経ってから今更私に連絡をしてきたのか。
Kの母を名乗る人物からの電話があった当日にあなたから電話があったのはタイミングが良すぎておかしい。

悪気があったのか無かったのか、それは表情や仕草からは判断できないが、口を半開きにして私を見ていたKの幼馴染に対して、思いつく限りの不信感をぶつけた。

私が一頻り話し終えると、Kの幼馴染は恐ろしいことを言い始めた。
それは…【Kが亡くなったというのは本当のことなのか分からない】というもの。

そして、Kの母が多額の借金をしていたこと、それを返すためにKが沢山働いていたことはKから聞いていた。
Kが1年生、Kの幼馴染が2年生だった頃、Kの幼馴染がKに『アルバイトばっかりして勉強しないと落第するぞ』と叱責した時、初めてK本人から明かされた話であったそうだ。

借金の連帯保証人は元々、Kの父親であったはずだが、Kの父親は3年程前にがんで亡くなっており、一括返済などの要求をされてしまえば、たまったものではない…とKの母は借入先に黙っていたそう。
Kが成人した時に、その連帯保証人を引き継いだということが予想できたのだが、Kにはそれ以上詳しいことを聞くことはできなかった。

Kの母が亡くなったという話もK本人から聞いて知ったので、これは確実に本当の話だが、Kの死は学生寮の管理人から聞いて知っただけなので真偽が分からないとのこと。

学生寮に入るためには【身元保証人】の連絡先、何かあった時にすぐに対応できる人の【緊急時の連絡先】、最低でも2人の関係者が必要になるのだが、【緊急時の連絡先】はKの幼馴染が指定されていたそうだ。
管理人から連絡があった際には、保証人であったKの母が既に亡くなっていることは言わず、Kの死因を尋ねたところ【アルバイト先の仮眠室で亡くなっていた。死因は自◯であった。】と聞いた。
しかし、当時既にKの両親は亡くなっているはず。それならば管理人に『Kが亡くなった』と伝えたのは誰だ?

3か月後になって今更連絡してきたのは、Kの幼馴染にも午後6時頃にKの母を名乗る人物から電話があったから、怖くなって私に電話をしてきた。
怖がっていることを私に悟られたくなかったから、元々知っていたことを自分で調べたように話したとも吐いた。
何よりも、自分が私やKよりも年上であることでプライドが邪魔して、私を怖がらせないように努めていたと。

それからKの幼馴染なのに、Kの死について無頓着であったことを私に知られたくなかったとも言った。

【学生寮の管理人さんからKが亡くなったと聞いた】

これだけで自分は納得していたらしい。
もしかしたらKの友人である私はKの死について納得していないのではないかとハッタリをかけたところ、私が話に乗っていたことで会えることになって嬉しかったとのこと。

Kの幼馴染は私と違って初めからKの母が亡くなっていたことを知っている状態で電話を受けたのだから、それは本当に怖かっただろう。
既に亡くなったはずの人が自分に電話をかけてきた。しかも見たこともない電話番号から明らかに別人の声で。
Kの幼馴染は1人で夜を過ごすことが怖くて仕方がなかったから私に連絡をしてきた。それが本音だった。

私はKの幼馴染に本気で謝った。正直、まだ完全に信じることはできないが、誰から何を聞いたのか、どんな行動をしていたのか嘘をついているようには見えなかったので、私は一先ず信じることにした。

友人は本当に亡くなっているのか?

もしも本当にKの幼馴染がK母の偽物と通じているならば、私の家に来た理由は私が一人暮らしなのか、家族と一緒に住んでいるのかを確認するためだろう。
或いは密室という空間で私の本心や何を知っているのか、どこまで調べているのか本音を聞き出すのが目的だったかも知れない。

しかし、私が半ばヒステリックになりながら行った質問に辻褄が合うように回答を出してきたKの幼馴染にその”疑惑を向けるべきではない”と判断した私は友人Sに電話をかけた。
事情があって自転車が使えず、少しだけ遅れると伝えて私はKの幼馴染と一緒にSとの待ち合わせ場所に向かった。

友人Sとの待ち合わせ場所に着くと私はKの幼馴染を残して、Sに駆け寄った。無事に合流ができたあと、私はSに先程の一斉送信メールを送った経緯、謝罪と感謝の言葉を述べた。
その後でKの幼馴染を友人Sに紹介し、3人で話をした。
話題はKについて。

ここで私は友人Sから大きな情報を得た。【Kは確かに亡くなっている】だが自〇ではなく、誰かに〇されたのではないかと。
しかも、亡くなっていたのはKのアルバイト先の仮眠室ではなく、路上だということ。

Sが何故そんな情報を持っているのか、私とKの幼馴染は食い気味で問いただした。
後で思えば、Sの立場に立ってもう少し丁寧に質問すれば良かったと後悔したが、この時ばかりは抑えが効かなかった。
何でもKがいなくなった後、学生寮に警察が来ていたことがあったらしく、Sは警察官に『K君が恨まれていたり、K君のことが嫌いな人、K君と仲が悪かった人は知らないか?』と聞かれたとのこと。
SはKの友人でもあったが、Kがいなくなったこと自体を知らなかっため、Kの身に何かあったのか質問したところ、Kが路上で亡くなっていて事件として捜査していることを知ったのだという。
事件として捜査しているということはKは自ら命を絶ったのではないということか?
せっかく協力してあげたのに、具体的な場所だとか日付、疑っている人等の情報は捜査中とのことで全く教えてくれなかったとボヤいていた。

つまりKが亡くなっていたことは本当だが、死因と場所については全くのデタラメであり、それを管理人に伝えたヤバい奴がいるということだ。
問題なのは、そのヤバい奴は何故Kが亡くなったことを知っていたのか?
何故わざわざ管理人や私、Kの幼馴染みに接触してきたのか?黙って真実を知っている可能性がある人間を始末すれば良いだけなのに、目的が良く分からない。

それから、Kの母を名乗る女性はそのヤバい奴と同一人物なのか?

疑問は尽きない。

Sは私とKの幼馴染にKが巻き込まれた事件について、自分も一緒に調べたいと申し出てきた。

あの女性の正体

私とKの幼馴染はSと別れた後、お互いに一人だと危ないという認識を確認し、責めて夜だけ、犯人が見つかるまでは極力一緒に過ごすことにした。誰がどこから襲ってくるか分からない。
昼間や夕方はお互いに授業やアルバイト等でバラバラになるが、人が多いところで活動している私たちは襲われる可能性が低いと考えた。

最初からKの母が亡くなっている事を知っていたKの幼馴染はKの母を名乗る人物からの電話で住所を伝えなかったが、私の住所はバレているため、私はKの幼馴染のアパートでお世話になることになった。

しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。守ってばかりではいつまで続くか分からない。
Kの幼馴染はそろそろ就職活動を始めなくてはならず、早急に片を付けたいという意思が伝わってきた。

思い切って引っ越しやマンションの解約手続きを終えた私は、Kの幼馴染と時間を合わせて再度Kの母を名乗る人物の電話番号へ電話をかけてみた。

コール音が3回ほど鳴った後、また若い男性の声で『もしもし‥』と聞こえた。私は自分の名前を名乗り、Kの母と話がしたいので電話を取り次いでほしい旨を伝えたが、Kの母は今出掛けていていないとのこと。
今度は電話を切られなかったことに若干安堵した。

帰ってきたら折り返すように伝えてくれるとのことで、私達はKの母を名乗る人物の帰りを待つことにした。

それから10分ほど経った頃、私の携帯電話に着信があった。
相手は例の高齢と思われる女性。
私は思い切って正体を聞いてみることにした。
『Kのお母さんは3、4か月前くらいに亡くなっていますよね?警察にも確認してあります。あなたは何者ですか?』
勿論、警察に問い合わせなんてしていない。ただのハッタリだった。

彼女から思いがけない言葉が返ってきた。

『私はKの実母ではなく、元々はKの母親の友人です。彼女にはお金を沢山貸していたのに自〇してしまったから、その子供のKにお金を返してもらおうとしていたんです。でも、Kは自分が死んだことにしてまで私から逃げた。貸したお金をどうやって回収しようかと考えていたところだったんです。Kの友達である、あなた方に近づけばKにたどり着けると思っていました。』

正直な話、もっと大きな目的や裏があるのだと考えていた私は違和感を覚えた。Kの母親を名乗る女性は”Kの死は嘘”であるといっている。
やはり例のヤバいやつは私が今、電話で対峙している女性とは別人なのか?

私は彼女の言葉を否定することも肯定することも無しに話を聞き続けた。
良く喋る人だな‥という印象を持ち始めたとき、同時にこの女性に質問したら正直に答えてくれそうだと思い始めた。
私はKが亡くなったことが嘘である証拠、なぜそう思っているのか、Kの住んでいる学生寮の管理人と話をしたのか?
なぜKが私に宛てて書いた手紙を持っていた?
内容の意味が分かるか?

心臓の高鳴りを悟られないように抑えつつ、全てを問うことにした。

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4時になったらね 中編はここまでです。お付き合いくださり、ありがとうございます。
最終章である後編は下記のリンクからご覧いただけると幸いです。






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