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日々の攻防アラカルト

先日の朝出勤して売り場に目をやると、なんだか違和感を感じた。不思議に思ってよくよく見ると、中高生の部活用リュックサックの底のシューズ入れの部分のファスナーがことごとく開けられていて、お化け屋敷の提灯のようになっている。商品が床につきそうだ。汚れてはいけないので、慌ててファスナーを閉めにかかった。
下の方の商品ばかりやられているので、犯人?は多分子供だ。お父さんかお母さんの買い物についてきて、ヒマに任せて全部開けていったのだろう。ご苦労なことであるが、出来れば元通りにしていってもらえると助かる。閉店勤務は人数も少なく、レジを閉める作業があるからここまでは手が回らなかったものと見える。

ここまでひどくはなくても、売り場を「荒らし」て行くお客様は多々ある。今の時期一番多いのが日傘である。以前も散らかった日傘のことを「お花畑」と呼んで整頓に精を出す、という記事を書いたが、今年もボツボツあちこち花盛りである。
不安定な気候のせいか、最近は雨傘売り場でもお花畑が見られる。先日など一人のご婦人が次々とお花を咲かせていって下さり、一度に一ダースほどの雨傘を畳むことになった。折り畳み傘はちょっとしたコツが要るので、畳むのが面倒になるのだろう。袋を紛失してしまうと売り物にならないので、要注意である。
花売り娘ではないが「お花回収籠」を用意して、毎日せっせとお花摘みをしている。

この前レジに入っていたら社員のOさんが近づいてきて、
「在間さん、あのお客様気を付けて見ておいて下さい。キャリーケースのダイヤル、回しまくってます」
と耳打ちするのでびっくりしてそうっと目をやると、四十代くらいの女性が熱心に次々とキャリーケースのダイヤル式キーを回していっている。こちらと目が合うと、顔を横に向けて知らんぷりをする。横目で見るとまたやっている。なんの悪戯だ。正気とは思えない。だが女性は真剣そのものだ。
「注意したらダメなんですか?警備さん呼ぶとか?」
私が尋ねるとOさんは
「万引きなら警備さんですけど、そうじゃないし…下手に注意してキレられたら怖いでしょう?ちょっと見るだけにしましょう」
というので、二人してチラチラ見るだけにしていた。
二十分ほどして、件の女性は立ち去った。

さあ、そこからが大変である。キャリーケースのダイヤル式キーは、ダイヤルの横についている小さなボタンの一ミリくらいの窪みにボールペンの先などの尖った物を押し当てながらでないと、ダイヤルが動かない仕組みである。販売時は全て0になるようにセットされている。さっきの女性は持参したであろうボールペンを使って次々と回していたようだ。
「あ、これもだ」
「Oさん、これもやられてます」
「ちょっともう、やめて欲しいなあ」
「たいがいにして欲しいですねえ」
全部で十個以上やられていた。
Oさんと二人、ボールペン片手に必死でダイヤルを戻す。私は普段している近眼用の眼鏡を外して、ダイヤルの数字を睨みつける。
「何のために…」
全て0に戻し終えて、Oさんがため息をつく。確かに、理解不能である。理由を聞いてみたい気がする。

ハンカチ売り場も時々酷く荒らされている。厄介なことに、時折腕時計の金具や爪を引っ掛けるのか、触っているうちに傷が入ったり糸が出てしまったりしたものを、黙って放置していかれる方がある。
マメに整頓してこういう商品をはじいておかないと、他のお客様がお買い上げになってしまうことがあると困るので、気が抜けない。

帽子売り場はサンバイザーの季節はよく見回らねばならない。大体は女性のお客様なので、皆さんお化粧をしておられる訳だが、サンバイザーの試着をなさる時、試着用の備え付けの布を被らずにそのまま試着なさる方がある。必然的にファンデーションが商品の額の部分に付いてしまう。
「ごめんなさい、汚しちゃったわ」
と申し出てくれる人は皆無に近い。大体は汚したことにも気付かず、そのまま立ち去ってしまう。
こちらが気付いて回収し、綺麗に拭き取れれば良いのだが、
「ちょっとこれ、汚れてるけど同じのないの?」
とお客様がレジにお持ちになられると平謝りするしかない。大体の商品は一点ずつしか置いていないからだ。
誰だって汚れた商品なんて買いたくない。それだけです、というと大体のお客様は購入をあきらめられる。とんだ営業妨害である。
「布被ってよー」
とYさんが嘆きながら汚れ落としをしている横で、いつも残念な気持ちで頷いている。

売り場を荒らす人々と私達の攻防は、三百六十五日毎日続く。
人間観察が出来て面白くもあるが、忍耐も必要だなあと思っている。






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