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マシュマロはこちら

良いお天気が続き気候が安定してきた休前日、食品売り場で働いていると、高確率でお客様に置き場所を尋ねられる商品がある。
マシュマロだ。
あの、フワフワした、あんまり個性の強くないお菓子は、普段はそんなに売れない。物凄く美味しいとか健康に良いなどの話は聞いたこともないし、子供が大好きという訳でもない。
なのにこの時期だけ、マシュマロの棚は凄いスピードで空になる。
理由が分からず、永らくどうしてなのだろう、と思っていた。
我が家にはそんな習慣はないので知らなかったのだが、どうも皆さんバーベキューの時に炙って少し溶けかかったのを食べるらしい。比較的若いパート仲間に訊くと『子供が大喜びする』そうだ。

普通のマシュマロはほんのニ、三センチの食べ物だから、こんなものを炙ったらあっという間に溶けてなくなってしまう。
マシュマロの主原料は主に砂糖や水飴、コーンスターチ、ゼラチン、卵白といった『甘い』『溶ける』ものばかりである。お口の中でほどよく溶けることを想定してあるはずで、火で直に炙ることなんか多分初めはメーカーも想定外だったのではないだろうか。
チョコフォンデュでも使用するが、これは直火ではない。
溶けてしまっては残念だから、お客様は出来るだけ『大きい』マシュマロをお探しになる。

日本製のマシュマロでそんなに大きなものはない。アメリカから入ってくるバーベキュー用のマシュマロはとてつもなくデカい。小学生の握りこぶしくらいある。
私が知らなかっただけで、海外ではバーベキューの時にマシュマロを焼いて食べる、という習慣が元々あるのだろう。でなければ普通に食べるには大きすぎる。
皆さんのターゲットは勿論これである。

食品のバイヤーも心得たもので、行楽シーズンが近づくと、早めにストックを増やし始める。今はどうなっているか知らないが、一気に大量発注が出来ない商品なのだ。だから少しずつ増やすしかない。
幸い日持ちのする商品だし、時期が近づくと納品元も品薄になってしまうので、早め早めの準備をすることになる。倉庫にあの大きな白い、輸入品独特のザクザクした感じの段ボールが積み上がってくると、『ああ、行楽シーズンだなあ』と思う。
お値段は今はどれくらいなのだろう。私が補充を担当していた数年前でも、『え、マシュマロ如きがこんなにするの?』というくらい、いいお値段だった。輸入品だから、円安の影響でとんでもなく値上がりしているのではなかろうか。それでもお子さんにねだられれば、『そんなに何度も行く訳でもないし、一袋くらい良いか』となるのかも知れない。

この時期だけはお菓子の定番の棚の他に、バーベキュー用の肉を扱う精肉コーナーの一角や、炭を置いている近くなどにも置かせてもらう。これがとてもよく売れる。皆さん
『そうそう、マシュマロ買わないとね』
となるらしい。ついで買い、というヤツである。
一生懸命準備して在庫を増やしても、あっという間に売り切れてしまう。その後に来たお客様は、しょうがなく普通のマシュマロをお求めになる。
お子さんに
「えー!あのデッカイのが良い~」
とごねられて、
「しょうがないでしょ!これしかないんだから!」
と説得?している親御さんを何組も見かけることになる。

だからこの時期は
「マシュマロはどこにありますか?」
というお客様からのお問い合わせが物凄く多くなる。
パート仲間と
『『マシュマロはこちら』と書いた看板を背負っておこうか」
と笑いあうくらいである。
床に商品棚を示す矢印を貼るとか、何番通路です、とあちこちに掲示するとかも提案してみたが、色々貼るのは店の景観上好ましくないとかで、却下されてしまった。
近いところにいればいいのだが、遠い場所だと補充の手が止まってしまうのでご案内は正直面倒だ。マシュマロ用のコンシェルジュでも雇えばいいのに、と思うくらいである。

今は食品担当ではないのでマシュマロの場所を訊かれることはなくなったが、この時期になるとあの大量に積み上げられた白い段ボールと、楽しそうに笑い合いながらマシュマロを買い物かごに入れる親子連れを思い出す。
マシュマロは私にとって、この時期の風物詩なのである。