映画レビュー「FAKE」~佐村河内守の人間性とは

ゴーストライター騒動によって世間を大きく騒がせた作曲家、佐村河内守に関する森達也監督のドキュメンタリー。

これを見てパッと瞬間的に感じるのが、「佐村河内守というのはどん引きするほどの極悪人ではないようだ」ということ。

彼の話し方や言葉遣いはかなり弱々しく、苛立ちを覚える場面こそいくつかあれど、悪辣さや厚顔無恥さといったようものは"少なくとも"映像からはそれほど伝わってこない。むしろ「ケーキ」や「猫」「豆乳」のくだりはほんわかしたものすら”一部”では感じさせられる。(自分も豆乳が好き)

どちらかといえば、途中意外な場面で登場する、元相方新垣隆氏のパフォーマンス的な言動の数々に好感が持てないとすら思ってしまった。

しかし、それはこの佐村河内氏が「FAKE」を仕掛けたか否かという問題とは関係がない。自国民を大量虐殺した独裁者へインタビューを行った記者が、いざ会ってみるとその誠実な言動に驚かされたという話もあるぐらいだ。

事実、彼は世間で大きく取りざたされた問題に関して徹底的に回答を避けようとする。監督である森達也氏は他作品同様、基本的には被写体の側に立ちつつも、問いかけの強さに関しては妥協しない。劇中にて投げかけられる森氏の問いや挑発に対し、とにかく明言を避ける。

あそこまでメディアに叩かれ検証され、まだ隠したいと考えていることがあるのか。むしろ、問題に至るまでの背景や心情を語った方が共感を集められるのではないか、と観ている側はあつかましい考えを抱いてしまうのだが、やはりそのような流れにはならない。そういった節々で見られる不審点が、結局は佐村河内という人をうさん臭くさせる。劇中幾度となく見せる彼のかわいそう、あるいは「かわいい」的なふるまいは、どこか大げさではないか、しおらしくなったフリをしてやはり我々を騙そうとしているのではないか、と。

とは言え、この映画はそういう点も含め、非常に面白い。

最大の魅力であるラスト12分間にしても多角的な魅力がある。鑑賞後、彼が何を思ってそういった行動に出たのか、それをやっておきながら結局あのオチはなんなんだといったことを反芻してみると、とても楽しめるのではないだろうか。

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