マガジンのカバー画像

山小屋の階段を降りた先に棲む蟲

3
運営しているクリエイター

記事一覧

小説「山小屋の階段を降りた先に棲む蟲〜上〜」

小説「山小屋の階段を降りた先に棲む蟲〜上〜」

小説「山小屋の階段を降りた先に棲む蟲~上〜」

故郷へ帰郷するのは何十年振りなんだろう。我が故郷は山奥の片田舎にある農家。私はそんな農家を継ぐのが嫌だった。だから、猛勉強をして東京の大学へ入った。

上京して数十年と帰郷することはなかった。月日が経つのはインスタントラーメンが出来上がるぐらい早い。そんな風に思えるぐらい、時の過ぎるのは早いわけである。

今年で四十歳となり、私は母親一人で住む故郷へ

もっとみる
小説「山小屋の階段を降りた先に棲む蟲〜中〜」

小説「山小屋の階段を降りた先に棲む蟲〜中〜」

小説『山小屋の階段を降りた先に棲む蟲~中~』

私と雨森は山小屋に向かう道中、一言も話さなかった。都会での暮らしや、彼女の近況についても質問をしなかった。

どうして話さないのか?

それは、二人だけにしかわからない理由があったからだろう。私と雨森は高校時代に付き合っていた。私は上京して、彼女は田舎に残る決断をした。

それがきっかけで、二人の中で繋がりの糸が解れたのは間違いなかった。こうして大人

もっとみる
小説「山小屋の階段を降りた先に棲む蟲〜下〜」

小説「山小屋の階段を降りた先に棲む蟲〜下〜」

小説『山小屋の階段を降りた先に棲む蟲~下~』

私たちは十七歳の男と女だった。ノイズのある映像は、傷モノで所々乱れている。そんな映像が、私の頭の中で上映されては夏の思い出として本編が始まった。

雨森が白いワンピースを着てたのは最初で最後だったような気がする。いつもジーンズに無地のシャツで、学生時代の彼女は女の子らしい格好を好まなかった。

そんな雨森がワンピースを着ていた。もしかして、覚悟してい

もっとみる