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サブスクの価値

Adobe、Salesforce、NETFLIX、Amazon Prime・・・

サブスクリプション(サブスク)モデルを導入すると安定的な収益が得られる、結果として企業価値が上がる、もはやサブスクモデルにしないと生き残れない。

サブスクリプションに関する書籍や雑誌が2018年頃から多く出版されるようになり、「サブスクリプション」や「サブスク」というキーワードはかなり一般的になった。

Google Trendの「サブスクリプション」の人気度。(2010.1〜2019.7)

”サブスクモデル”導入を勧める書籍が多いこともあり、どちらかと言うと企業側にとってのメリットが言及されている事が多いため、より本質的なユーザー側にとっての価値について、一旦立ち返って考えてみようと思う。(自分の事業を通じて得た学びなので、若干のポジショントークが含まれたり、特にデジタル系やシェアリング系についてはヌケモレがあったりするかもです。)

ちなみに、定期購入もサブスクと同義で使われることもあるが、
定期購入=単純にモノが定期的に届く
というイメージで、いわゆるAmazonのペットボトルやおむつの定期おトク便のようなもの。

ユーザーはストップしない限り定期的に課金され続ける(たまに、初回から数回は解約できないといったものある)、という若干の不便を受け入れる代わりに、買う手間が省ける、若干安く購入できる、という便益を受け取ることができる。事業者側はリピートが確約されLTVを高めることができるので、通常の商品よりも若干安く提供することができる。
つまり、「勝手に届くからちょっと便利」「若干お得になる」というのは、定期購入オプションを選択したユーザーが当然受け取るべき便益とも言える。

言葉の定義自体に大きな意味はないが、
・定期購入 = 単純にモノが定期的に届き、若干お得に利用できる
・サブスクリプション = 勝手に届いて便利&若干お得を超えた「サービス」
のような感覚で、サブスクはよりサービスに近い。別の言い方をすると、取り扱うものはリアルなモノであっても、サブスクにすることで、サービス化をすることができる。

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他にもありそうだが、ユーザーにとってのサブスクの価値は下記が主なものと考えている。

・"極めて"便利&安価
・利用のハードルが"著しく"下がる
・バーチャルに"無限の選択肢"を得られる
・”思いもしないもの”に出会える
・”自分だけ”に最適なモノが提案される
・サービスを通じて”繋がり”を持てる

"極めて"便利&安価

もはや語り尽くされているので言及する必要もないがDollar Shave Club(DSC)が利便性と価格を極めている。

そもそも、ひげそりは必ず使い続けるモノであるため、定期的に届くことによる価値が高い。また、DSCは発送前にアプリやメールを通じて「来週替刃を発送予定だよ」というような通知をしておりスキップ可能で、不要なものが届いてしまう、という不便さを解消している。(ユーザーに強いられる不便さを極力減らしている。)

また、価格についても、単にLTVが上がる代わりに割引価格を提供するということではなく、
・韓国メーカーから一括で安く仕入れ
・定期購入に購入チャネルを限定し
・小さい封筒のようなパッケージで配送し
・マーケも動画のバイラルで大きなお金を使わない
というバリューチェーン全体を通じて、そもそも他の小売店で購入できる商品と比較して”構造的に”安価に提供できる仕組みを構築している。

これはDSCのpitch deckに含まれていた有名なスライド。

「勝手に届くからちょっと便利」「若干お得になる」を遥かに超える利便性と安価さを実現している。単に定期購入で得られるちょっとした便益ではなく、これまでより10倍便利になっているのというのがポイント。

利用のハードルが"著しく"下がる

ひげそりとは違い、めったに買わないが非常に高価、または選択がとても難しいモノについて、所有せずにサブスクで利用することで、ユーザーはより簡単に利用できるという便益を受けることができる。

家具や高額なソフトウェアなどが当てはまる。いわゆるSaaSが広がりを見せている一つの要因として、企業側の利用ハードルが大きく下がり、その結果中小規模の企業も利用できるようになったというのがあるのではないか。

家具などについてもDSCのように"そもそもの価格を下げる設計を組み合わせる"ことでユーザー側からみたときの価値は大きくなる。ただ、結果として購入する価格と変わらないのであれば、クレジットカードの分割払いと変わらないし、日々の固定費を押し上げてしまう。見かけ上のハードルを下げるのではなく、価格面、UX面で著しくハードルを下げるのがポイントと考えられる。

単にサービス提供者側の論理で、これまで売り切りモデルで提供していたものを無理やりサブスク化してLTVの向上を目指した場合、ユーザーにとっては望まないサービスになる可能性もある。

バーチャルに"無限の選択肢"を得られる

NETFLIXを契約した瞬間になにか大きなものを得た気分になる。
とりあえずNETFLIXを開けば何かしら面白いコンテンツがある。Spotifyがあれば移動中がハッピーになるなど。特にデジタルコンテンツに関しては、無限近いコンテンツへのアクセス権を得るという感覚はユーザーにとって非常に価値が高い。

また、デジタルコンテンツではなくても、特に洋服やバッグ、アクセサリ、靴など家の有限なクローゼットが、バーチャルの無限のクローゼットになるというのも、これまでに体験したことがないサブスクならではの体験と言える。好きなものを、好きなだけ使えるという状況は価値が高い。

全く余談だけど、もう10年くらい前に妻と行ったフレンチレストランで、ギャルソンの方が食事の後でデザートがたっぷり載ったワゴンを運んでこられて言った一言を、いまだに妻が嬉しそうに語る。

「お好きなものを、お好きなだけ。」

”思いもしないもの”に出会える

化粧品サンプルのipsyやBirchboxのようなサブスクリプションBOXは、米国でのサブスクBOXのはしり。化粧品はそもそも商品数が非常に多く、ユーザーはすべてを見ることはできないし、自分のニーズに合うものがあっても発見できない可能性も大きい。

ちなみに、米国のサブスクBOXを利用してる女性を対象にしたアンケート調査では、最初に利用したサブスクBOXは25%がBIRCHBOX、22%がipsyとなっており、化粧品BOXが強い。

最近のトレンドとしては完全にミステリーボックス(何が届くかわからない)ではなく、ある程度カスタマイズできる余地のあるものが受け入れられている。ユーザーとしては、全く新しいものに出会いたいというニーズはあるものの、ハズレを引きたくない、できれば自分にあったものが欲しい、というニーズが当然ある。

"新しいものへの思いがけない出会い"を価値と考えているユーザーは、例えば化粧品などのその商品自体を使うときよりも、BOXを開封した瞬間に最も価値を感じることも多い。米国では「UNBOXING」というキーワードが使われるが(日本だと開封の儀?)、UNBOXINGの体験が非常に重要。youtubeで「unboxing subscription box」で検索すると、それこそ無限に近いコンテンツを見ることができる。

新しいものとの出会いを提供するにしても、単にモノをキュレーションして届けるのでは価値が低い。有名人がキュレーションしたサブスクBOXは、正直サブスクである必要がなく、一部のコアファイン以外にとっては価値が低く、サービス提供者側のメリットが中心(マネタイズ視点)のものが多い印象にある。もちろん、ipsyのようにインフルエンサーが主体でも、しっかりと価値設計されたものもあるが。

”自分だけ”に最適なモノが提案される

サブスクリプション=継続利用が前提、となるため、その継続利用によってサービス提供者側はユーザーのことをより理解することができる。単純な定期購入では、「ユーザー毎のカミソリ消費のスピード」、みたいなことしかわからないが、サービス設計の工夫によって、サービス提供者側はより多くのことを知ることが可能になる。ユーザーにとってみると、何かしらの情報を提供することの見返りに、より自分に最適なものを提案してもらうことができる。

こちらも語り尽くされているので改めて言及する必要はなさそうだが、Stitch FixやNETFLIXの事例がわかりやすい。どちらもユーザー情報を活用して、パーソナライズを行っているが、ユーザー視点で”情報を提供している”という意識を徹底的に省いているのがサービス設計上素晴らしい。
Stitch Fixを利用しているユーザーは、届いた商品から自分の好きなものを購入する。そうすると、Stitch Fix側は複数あるアイテムから、そのユーザーが何を選んだか?という情報を得ることができる。
NETFLIXも以前はレビューの仕組みがあったが、最近では、コンテンツを最後まで見たかどうか、を重要な指標としている。面白ければ最後まで見るだろう、という前提。それにより、ユーザーとしては、面白いコンテンツを見続けていれば、自動的にNETFLIX側にその情報を伝えていることになる。

有名な話だが、とあるマーケティングリサーチで「お皿」についてグループインタビューをした際に、いくつかのお皿を見ながらどんなお皿が良いか自由に意見してもらった。その結果、「オシャレな黒くて四角いお皿」が一番人気だった。
しかし、そのグループインタビューの帰りに、運営者側から”好きなお皿を持って帰っていただいて良いです。”と伝えたろころ、さっきまで「黒くて四角いお皿」が良いと言っていたモニター全員が「白くて丸い最もベーシックなお皿」を持ち帰った、という事例があるらしい。実際にモニターが持って帰ったお皿が最もニーズが高い商品に決っている。

さらに、数あるコンテンツやモノから最適なものを提案するだけではなく、蓄積したデータを活用して自らコンテツやモノを作ることもできる。それによって、よりユーザーニーズを反映したものを提供できるようになるという良いサイクルが回る。ユーザーに継続して利用していただいているからこそできるサービスや商品提案が求められている。

サービス提供者側の視点では、売れ残り商品もサブスクBOXにすることで詰め合わせて送ることができ、在庫が減るのでメリットが大きい、ということも考えることができるが、こういった視点での商品提供ではユーザーにとっての価値が小さく、すぐに見破られてしまうだろう。

サービスを通じて”繋がり”を持てる

Pelotonがただコンテンツを見ながらエクササイズできるエアロバイクだったら、今ほどまでにロイヤリティの高いサービスにはなっていなかっただろう。Churnが圧倒的に低く、ロゴのタトゥーも入れるユーザーもいるほどロイヤリティが高い理由の一つは、コミュニティによるところが大きい。ライブストリーミングでインストラクターだけではなく、他のユーザーと繋がることもできる。またオフラインのイベントなども多く開催されている。

化粧品などのサブスクBOXでもコミュニティを活用している事例が多い。とあるサブスクBOXサービスでは、サブスクライバーのみが入れるForumが用意されており、商品に関するトピックやユーザー間での商品交換だけではなく、映画や旅行などの話も盛んに行われている。なかには個人的なミートアップの開催やスピンオフコミュニティも存在していることもある。
オフラインイベントも開催されており、もはや、コミュニティに属するためにサブスクBOXを契約しているユーザーさえも存在する。モノやサービスだけではなく、人との繋がりまでを提供することでユーザーにとって新たな価値を提供できる。

ユーザー同士の繋がりが生まれると、ユーザーはコミュニティに属することができ、それによって価値はより高くなる。(オンラインサロンのように、モノを介さずその繋がりに特化した形態も存在する。単に情報がアップデートされるメルマガなどよりも、繋がりが生まれるサロンはより価値が高そう。)

上記の例は他のユーザーとの繋がりが生まれる例だが、過去のnoteに書いたように、ユーザーの家族や親戚、友人と体験を共有することによっても、人と人との繋がりを強化するという意味で価値が高い。

"10人程度で取り分けるとちょうどよいケーキであるため、このケーキが届くと、家族や親戚が集まる口実になる。ケーキを起点に人が集まり、会話が生まれる役割を果たしている。ケーキではなく、家族のコミュニケーションを提供している。"


まとめると、

全てを満たす必要はないが、ユーザーにとって価値の高いサブスクサービスは下記の1つ以上を満たしているのではないか。

・"極めて"便利&安価
⇒ちょっとした便益ではなく、これまでより10倍便利になっているか?

・利用のハードルが"著しく"下がる
⇒利用のハードルが価格面、UX面で著しく下がっているか?

・バーチャルに"無限の選択肢"を得られる
⇒「お好きなものを、お好きなだけ」の感覚を提供できているか?

・”思いもしないもの”に出会える
⇒UNBOXING体験まで含めて新たな出会いを演出できているか?

・”自分だけ”に最適なモノが提案される
⇒継続して利用していただいているからこそできる提案ができているか?

・サービスを通じて”繋がり”を持てる
⇒モノやサービスだけでなく、人との繋がりまで提供できているか?


事業を行っているとついついサプライヤー視点になってしまうことがあるけど、常にユーザーにとっての価値を考えたい。





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haztr | snaq me hattori

hattori。食のスタートアップ「スナックミー」代表。コンサル→VC→スタートアップ起業。

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コメント2件

記事ありがとうございます。勉強になりました!
「お好きなものを、お好きなだけ」大事なことなのでもう一度。
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