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2023年上半期 映画ベスト5

今さらながら、今年の上半期ベスト5を発表。34本しか見られていないので、選び抜いた感じがしなくてちょっと残念だけど、この5本は胸を張っておすすめできる。意図していないが、社会課題がテーマになっている作品が胸に残っているのだなと、自分の興味関心を再認識した。

(ランキングの最後には、上半期の最優秀主演男優・女優も発表!)

5位 告白、あるいは完璧な弁護

監督:ユン・ジョンソク 出演:ソ・ジソブ、キム・ユンジン (22年韓国)

絶対にネタバレなしで見るべき。だから、感想を書くのが難しい。帰り際、客の1人が連れに「やっぱり、韓国の作品っておもしろいねぇ」と話していたのだが、ほんとにそう。みんなが期待している、さすが韓国!とうなるような、良質なエンターテイメントだった。

「パラサイト」がアカデミー賞で評価されて以降、「パラサイトの次はこれだ!」的なキャッチコピーをつけて公開する韓国作品が多かったが、正直、期待外れなことが多かった。この作品はそんな触れ込みはなかったけれど、そのコピーを与えられるにふさわしい気がした。

不倫相手を殺した容疑で逮捕された男。大企業の社長の娘の夫である彼は、多額の保釈金を払って一時釈放される。山小屋に身を潜める彼の元へやってきたのは、敏腕弁護士。彼女は「私に嘘をつかないのなら、弁護してもいい」と迫る。そして彼は真実を語り出す…。

しかし、その「真実」は、彼と不倫相手の視点ではまったく異なるのだ。さらには事件に関与する別の登場人物が現れて、より何が真実なのかがわからなくなり、観客は混乱する。謎解きに参加しているかのような緊張感の中、ハラハラドキドキしながら、なりゆきを見守る。

そうして、「え、もしや…?」と真実が見えてきたところで、さらに次のヒリヒリするような展開が待っている。二転三転、四転五転くらいあってようやくラストへ。まったく気が抜けない、よく練られたストーリー。

男と弁護士が会話で駆け引きをするシーンが多いのだが、監督は臨場感を出すために、役者の目線、仕草一つにも細かく演出を入れたのだそう。もちろん、カメラのアングルもしかり。細部に神が宿ったプロフェッショナルな仕事が詰め込まれた、素晴らしい作品だった。

4位 Winny

監督:松本優作 出演:東出昌大、三浦貴大ほか (23年日本)

1カ月も劇場公開しない作品も多い中、2カ月以上も上映していた。地味なテーマなのに、ロングラン。ファイル共有ソフト「Winny」の開発者である金子勇さんの実話をもとに描かれている。時は2003年。 Winnyを利用し、映画や音楽を違法にダウンロードするユーザーが後をたたず、著作権法違反幇助の容疑で逮捕された金子氏。

彼は著作権侵害に加担しようとソフトを開発したわけではない。しかしながら、日本の警察が彼を逮捕するに至った理由とは…?裏に潜む思惑とその犠牲になった、10年に一度と言われる天才技術者、彼の勝利を勝ち取ろうとする弁護団の戦い。「ナイフで人を殺したとして、そのナイフを作った人も捕まるのか」という例えがわかりやすかった。

文字面だけだとお硬い話のようだが、金子氏の天真爛漫さや世間知らずな一面、弁護団のメンバーの明るさが、ときにコメディっぽい雰囲気を添えていて、とても見やすい。主テーマと同時進行で、現役警察官が裏金を告発する、愛媛県警のストーリーが走り、それが金子氏の物語といいタイミングでリンクするのも良かった。見事な二重構成。

エンドロールでは、実際の金子氏の映像が流れる。彼の才能を発揮する時間が警察によって奪われなければ、もっともっと日本のIT分野は発展していたかもしれない。それが悔やまれてならないし、政治の世界と同様、警察ってトップから末端まで腐り切ってるな…とあらためて思った。

金子氏を演じた東出昌大は、役作りで18キロ増量し、遺品であるメガネ、腕時計を身につけながら演じたのだとか。生前の金子氏と東出を比較する画像を見たが、仕草や雰囲気が瓜二つだった。弁護士の壇氏を演じた三浦貴大も、健在の壇氏の身振り手振りを完コピしたという。吉岡秀隆、吹越満ら脇を固めるキャストも皆、素晴らしく、総じてロングランに値する良作だった。

3位 SHE SAID その名を暴け

監督:マリア・シュラーダー 出演:キャリー・マリガン、ゾーイ・カザンほか (22年アメリカ)

この作品がアカデミー賞にかすりもしていないなんて、嘘でしょ?それこそ闇だよ…。最初から最後まで、前のめりで見てしまった。うっかり「え…」とか「うわ…」とか、心の声が出てしまっていた気がする。

ハリウッドのある大物監督によるいくつもの性犯罪。傷ついた女性たちは、声をあげれば業界にいられなくなるため、和解金をもらって他言しないことを誓約させられる。20年以上経ってもまだ心の傷が癒えない被害者もいるのに、加害者本人は何の痛手も追わず、のうのうと加害を続ける。その闇を暴こうと新聞社の女性記者2人が立ち上がり、被害者たちに真実を話すよう説得するが、なかなか首を縦に振ってくれない…。

真摯に地道に、事件や被害者と向き合う記者の2人。この2人もそれぞれ子育てに追われていたり、出産直後で産後うつ状態に陥ったりと、一筋縄ではいかない事情を抱えているのだが、そのリアリティが物語に深みを与えていた。悩み、苦しみ、日常に追われながらも、自らの子どもたちが将来、被害者にならないために今戦わなくては。そんな強い想いに胸を打たれた。

彼女らを支える上司たちもかっこよくて、お仕事ムービーとしても見応え十分。また、忙しい妻と共に子育てに奮闘する夫たちは、まるでそれが当たり前かのように振る舞っていて、その平等な夫婦関係と、加害野郎の圧倒的な高圧さとの対比が、この事案がどれだけ時代にそぐわず、糾弾されて然るべきものであるかを際立たせていたように思う。

権力という意味での力を持つ者、フィジカルな意味での力を持つ者。そういう、力によって弱き者を抑圧できる立場にある人間は、得てして、他者が自分の言いなりになることが当然だと勘違いする。力に溺れる者は、正しい道を見失う。そして力にすり寄る者は、その間違いを見て見ぬふりをしたり、正当化したりする。この構図にNOと言える勇気を、ちゃんと持ち続けて生きたいと思った。

2位 ロストケア

監督:前田哲 出演:松山ケンイチ、長澤まさみほか

松山ケンイチと柄本明がすさまじかった。2人ともすごい俳優だとは思っていたけど、とんでもなかった。脱帽。彼ら演じる親子が過ごした、地獄のような時間と望まぬ最期。当事者にしかわからない苦しみと絶望が痛いほどに伝わってきて、言葉なく、エンドロールを終えても涙が止まらなかった。福祉関係の仕事をしている友人が、「あらゆるシーンがあまりにもリアル過ぎて、途中で具合が悪くなった」と言っていたくらい。

42人もの要介護老人を殺した彼の行為は、法律で裁かれてしかるべきだ。けれど彼が語るように「救い」の側面を持つことも、多くの人が理解するだろう。本当はこんな風に命を奪うことが「救い」となってはいけない。しかし、何もかもを自己責任で乗り越えなくてはならないこの国には、究極の手段を選ばざるを得ない人があふれているのだ。

誰しもに平等に与えられた、老いるという宿命。なのにそれが訪れたとき、おかれる環境が1人1人あまりにも違い過ぎるのは、国の怠惰以外の何ものでもないのではないだろうか。介護で離職を余儀なくされ、すがる思いで出向いた役所で「働けますよね?」と一蹴された彼の姿は、明日の我が身かもしれない。

それにしたって、プロデューサーなのか監督なのか知らないけど、この作品の主題歌を森山直太朗にオファーしようと決めた人はめちゃくちゃセンスいいし、この曲(「さもありなん」)をあてがってくる森山直太朗の作品への共感力、理解力、創造性、表現力たるや。いろんな意味でエンドロールは涙なしにはいられない。

1位 対峙

監督:フラン・クランツ 出演:リード・バーニー、アン・ダウトほか(21年アメリカ)

子育てに正解はないし、わが子に限らず身近な人が被害者もしくは加害者になる可能性は誰にだってある。そう思うと、この作品で対峙している被害者家族と加害者家族、どちらの立場でも「自分だったら何を話すだろう」「この質問にどう答えるだろう」と、見ながらずっと悩むことを止められなかった。

ある少年が高校で銃を乱射し、クラスメイト数名を殺害。さらに自らを撃って自殺。悲惨な事件の被害者と加害者の両親が2対2で話す場を設けるという、ヒリヒリする設定だ。9割型、丸テーブルを挟んだ両者の会話で進んでいく。演技であることを忘れてしまうほど緊迫した、ベテラン俳優たちの言葉の応酬に息を飲んだ。

フラン・クランツ監督は、さまざまな事件や事故の被害者家族に話を聞いてリサーチを重ね、「大切な人を亡くした時にどのようにその死を悼み、喪失と向き合うのかを描くことにした」という。劇中、「このままではあの子を見失ってしまう」と母親が涙ながらに語った言葉。憎しみに支配され続けるよりも、息子との幸せな思い出を胸に生きると決めた、その想いに涙がこぼれた。

日本では、被害者家族のメンタルケアは、制度が整っておらず遅れていると聞く。裁判でどんな判決が下ったとしても、痛みが消えることはなく、救済の場の確立が必要だ。また、どうしたって非難されがちな加害者家族のケアも、考えなくてはならないテーマだと思った。主題は重いが、見て、悩んで、深く考える有意義な時間を得られた。

最優秀主演男優賞:松山ケンイチ(「ロストケア」)

去年見た「川っぺりムコリッタ」もめちゃくちゃ良かったし、いい俳優だってことは知っていたつもり。けれど、「ロストケア」の彼は想像を超えてきた。父親を自らの手で殺めるシーンの、絶望と愛情と無力さが入り混じった表現が忘れられない。確実に彼は日本を代表する俳優だと思う。これからの作品も見続けていきたい。

最優秀主演女優賞:河合優実(「少女は卒業しない」)

「満を持して」と言ってもいい、主演作。キャリアは短いのに、本当にたくさんの作品に呼ばれていて、プロからの信頼が厚いんだろうなと思う。アンニュイな雰囲気だけど、どこか芯があって、すごい美人というわけではないのに、目を奪われてしまう存在感があって。彼女はこれからどんな女優になっていくのだろうか。楽しみで仕方ない。

ちなみに、「少女は卒業しない」は5位に入れようか迷って、6位。レビューは、コチラ↓

監督:中川駿 出演:河合優実、小野莉奈ほか (23年日本)

たった2日間を描いたとは思えないほど濃密に、4人の少女の高校生活最後のひとときが切り取られていた。恋や友情や夢や自分との対峙。ごく個人的で、それでいて普遍的な青春の1ページ。胸の奥をサワサワとくすぐるような瞬間の数々がまぶしかったし、切なかった。

主演は河合優実。去年見た映画に脇役としてことごとく出演しており、どれも素晴らしくすっかりファン。彼女の初主演作を劇場で見ないわけにはいかないだろう。同級生の歌を聴いて涙を流すシーンと、体育館でひとり答辞を読むシーンは、あえてリハをせずに臨んだという。いやぁ、すごかった。なんて素敵な女優さん。

フィーチャーされている女子高生4人は、同じ3年B組の生徒なのだがどうやらグループが違うようで、劇中で全く接点を持たないところも良かった。1つのクラスの中に別々の人生を歩む多様な個人がいるのだと示されている気がして。とりどりの悩みや痛みや希望が、教室には満ちているのだ。そしてそれぞれが愛おしい。

ひとつ言及しておきたいのは、メガネ姿の藤原季節先生。あれは反則だよ。しかも図書館担当って。好きにならない方がどうかしてる。そして1発OKだったという佐藤緋美の歌声。あの味のある個性的な歌唱は、さすがCHARAの息子。全員ナイスキャスティングだったし、これからが楽しみな役者揃いだった。



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