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【読後感】山本芳久『100分de名著:アリストテレス:ニコマコス倫理学』

 山本芳久『100分de名著:アリストテレス:ニコマコス倫理学』(NHK出版)を読んだ。
 本書は山本氏がアリストテレスの著作を解説した。「100分de名著」のシリーズは入門書になると思う。ニコマコスとはアリストテレスの息子の名前で、この名著をまとめたのでその名がついた。

 アリストテレスは古代ギリシアの哲学者。彼はアレキサンダー大王の家庭教師もしていた。二千年ほど前の古代ギリシアで、ソクラテス、プラトンに次ぐ哲学者として知られている。『ニコマコス倫理学』は彼の主著の一つであり、二千年ほどの哲学史の中でも外せない著作となっている。西洋哲学史にとっても重要な著作となる。そんな名著は現代日本にも通じる内容である。だから、扱う内容が人類に普遍の意味を持っている。

 そんな名著を解説する山本氏の専門は、トマス・アクィナスやキリスト教学。キリスト教は西洋哲学と深い関わりがある。なので、彼は『ニコマコス倫理学』を今までの20年間、東京大学で講義をしてきた。そんな山本氏が本書で平明に解説する。

 哲学書の特徴は、賞味期限がとても長いところにある。新聞は一日、週刊誌は一週間という短さだが、哲学書は十年、百年という単位で人々に影響を及ぼす。なかでもアリストテレスは千年単位の哲学者になる。

 『ニコマコス倫理学』は紀元前に書かれたが、今の日本の日常生活とつながるところがある。この本は史上初の体系的な倫理学の書物になる。その倫理学とは、哲学の一分野で、「いかによく生きるか」を考える学問。特にアリストテレスの倫理学は「幸福論的倫理学」と呼ばれる。「幸福とは何か」「どうすればそれを実現できるか」を考える学問である。

 これに対比されるのが近代ドイツのカントに代表される「義務論的倫理学」になる。これは「○○すべきだ」という義務や、「○○してはいけない」という禁止に基づいて倫理を考える学問であり、人間は義務に基づいた行為をする必要があり、道徳法則に対する尊敬が重要であると主張する。倫理学といえば、この義務論的倫理学を思い浮かべる人が多いだろう。そうではなく、本書では『ニコマコス倫理学』で幸福を問い、人生を前向きに生きるための知恵を得ることを求める。

 本書では、倫理学とは何か、幸福、徳、友愛について述べる。

 前に倫理学とは「いかによく生きるか」を考える学問だと言った。では、最も善きものとは何か。アリストテレスは「幸福になること」だと言う。幸福になることが最高善である。究極目的としての幸福は、単にはるか遠くにあるのではなく、「いま、ここ」の自分の行為に常に、幸福は実現し始めているという意味を与え続けている。

 アリストテレスは、私たちの生活には三つの幸福があると説明している。「快楽的生活」「社会的生活」「観想的生活」。「快楽的生活」は快楽が幸福である。「社会的生活」は社会における自己実現が幸福である。「観想的生活」は真理の認識が幸福である。特に、観想的生活には説明がいると思う。
 これは、この世界のありさまをありのままに見て取る、すなわち真理を認識する。それこそが人間を幸福にする生活なのだと考えるのが、観想的生活。哲学者の生活と言ってもよい。単に衣食住を確保するためといった実用的な目的のためではなく、様々な事柄をありのままに眺め、その真相を見て取ることにおいてこそ、真に人間らしい仕方で「理性」という能力が花開いてくる。だから、そのような仕方で理性を活用する生き方、すなわち観想的生活によって幸福になるとアリストテレスは考える。

 また、アリストテレスは、人は徳を身につけてこそはじめて幸福を実現できると考えた。そのため、彼の倫理学では、人間としての力量である徳を身につけることが核になる。

 山本氏は述べている。「幸福というものは、アリストテレスが生きた紀元前四世紀だけでなく、いつの時代においても人々が望み、そうなりたいと願うものです。人生を生きていくなかで、何らかの力量を身につけたいという思いも同様でしょう。ですから『ニコマコス倫理学』は、現代でも非常に多くの人が関心を寄せる事柄についての基本的な理論が述べられている、「現役」の書物なのです」と。

 私は、幸福とは、「今、ここ」で幸せを感じることに尽きると思っている。人は生きていると色々なことがある。楽しいことばかりではない。辛いときもある。苦しいときもある。それでも、生きていかなくてはならない。人生の浮き沈みの波がありながら、いかに日々を幸せに感じることができるか。その工夫が欠かせない。幸せを感じることに上手くなればいい。それは心の持ちようが鍵を握っている。

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