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あなたのファンでいることが、最大のアピールになる

皆さんはチーズ、好きですか?
私は苦手な種類のものもありますが、割と好きです。
というか、ソムリエの資格を取る直前にいた店では、チーズの仕入れ担当をしていたことがあって、フェルミエさんからいろいろと仕入れて原価管理をし、チーズのプレートを作ったりしていました。
私はハマるとどこまでも深追いするタイプなので、当時持っていた「チーズ図鑑」では飽き足らず、料理書専門の古書店で手に入れた「ラ・ルースチーズ辞典」をめくりながら、ヨーロッパの昔ながらのチーズのエピソードなどを興味深く読んでいました。
その後、さまざまな事情があって、その仕事は辞めてしまったのですが、すっかり疲れてしまった心身を癒やすための休みを取っている間のことでした。

当時のパートナーが、自分が取材で回ったフェルミエに遊びに行く、北海道の旅をしようよと提案してくれて、それは行ってみたい!と二つ返事で旅のプランを立てることになりました。
パッケージを使ったほうが安いので、行き帰りの飛行機と宿とレンタカーだけが決まっているプランを選び、オプションで延泊をプラスして、1週間の旅に出かけることになりました。
細かい旅程は忘れてしまったけれど、釧路から入って道東を周り、北端の方まで行き、旭川と札幌を回るという長いドライブでした。
出会うことの出来た北海道の自然は本当に美しくて、今でも思い返すと昨日のことのようにその光景がはっきりと蘇ってきます。
神秘的な青く美しい水をたたえたオンネトーや、ラワン蕗が茂る清流、釧路湿原に咲くワタスゲの花や、青くきれいな海、夕日を追いかけるように弟子屈の広大な牧場群を抜けて西に向かったり、山の奥深くへと車を走らせるに連れて、おびただしい数の蝶の群れに出会い、蝶に導かれるようにたどり着いた美しい池などなど、見どころが多くエキサイティングな旅でした。
その中で当初パートナーの取材先として回ったフェルミエを少しだけ回りました。
最初に行ったのがフェルミエとしてはパイオニアとも言える「半田ファーム」さん。
海沿いをぐるーっと回ってたどり着いたので、その話をすると、「まあそんな丁寧に。大変だったでしょう」と言われたりしたのが印象に残っています。
確か当日ご主人がいらっしゃらず、チーズをあれこれ買って会計を済ませるときに、奥さんから「そうだ、これ届けてくれないかな。すぐ近くにあるところだから」とお使いを頼まれました。
どうやら地域の新聞的なものを手作りしていて、それを他のフェルミエさんに持っていって欲しい、ということのようでした。
行き先は「十勝野フロマージュ」さん。
上質なカマンベールを作ることで今ではよく知られているフェルミエさんです。
二つ返事でその原稿を受け取り、大樹町から中札内まで行くと、ぽつんと1軒小さな建物があるのが見えました。
半田ファームの奥さんから言われてきたんですけど、というと、めいっぱいの笑顔で歓待してくれて、設備を一通り見せてくれた後、お茶を飲みながらカマンベールチーズを試食したのでした。
他にもこのときには、興部のアドナイさんにも行ったりして、すごく楽しかったのを覚えています。
でも、国産のチーズは割とお値段が張るので、その後なかなか手が出せないままに時間が過ぎていきました。

その後、私は独り身になって、料理講師やフリーライターを細々とやりながら、スーパーなどでの食品の試食販売を行うアルバイトをしていた時期がありました。
他の仕事の兼ね合いで、フルタイムの派遣社員になるのは難しく、自分が働きたいときに働ける「マネキン」と呼ばれる仕事は、時給も程々でお給料も日払い。
立ち仕事は疲れるけれど、現場に経つからこその醍醐味ももちろんあったし、売上の成績が良かったりすると、委託した会社が指名してくれたりするのがとても楽しかったので、数年続けていたと思います。
売るものは本当にいろいろで、牛乳やヤクルト、アイスクリーム、新製品のお酒(お酒は試飲なし)、ノンアルコールの飲料や、バターの代わりに使うスプレッドとか、わりと乳製品が多かった気がします。
そんななか、たまに催事の仕事というのが舞い込むことがあります。
そういうときは、スケジュールが確保できる成績の良いマネキンさんを中心に招集して、まとめて売り場に送り込む感じになるのですが、催事なので1週間続けて勤務とか、そんな感じになるのと、すごく遠いところまで通わないと行けなかったりもします。
なので、仕事を受けるのはちょっと大変なのですが、毎回招集してもらえたのが、確かホクレンが主催している催事で、北海道の乳業メーカーやフェルミエを集めた催事でした。
元々の知識もあったのですが、1度担当して以来、担当者さんから気に入っていただき、毎回ご指名が入る感じになりました。
その会社は「牧家」という北海道伊達市にある乳業メーカー。
牛乳やのむヨーグルトを作っていますが、他にもチーズはもちろん、ミルクプリンや杏仁豆腐などのスイーツまで、幅広い商品を作っているメーカーです。
催事のときにメインでおすすめしていた主力商品は、ミルクプリンとのむヨーグルト。
他のメーカーのものに比べるととろりと濃厚なテクスチャで、すっかり飲みきってもボトルの中の壁面にのむヨーグルトがついているので、牛乳を入れて軽く降ってからグラスに入れれば、最後の一滴までおいしく飲めますよ、とご紹介していました。
のむヨーグルトはフルーツが使われたものがいつも3種類くらい用意されていて、試飲をしてもらうとどれを買うか、お客さんは必ずしばらく迷ってしまうくらいおいしくて。
ミルクプリンも、まん丸い水風船みたいなものを爪楊枝でプチっと刺すととぅるんとプリンが出てくる仕掛けになっているので、お客さんが集まっているときに試食用に開けるデモンストレーションをしたりして、すごく楽しい現場だったのを覚えています。
最終日になると、マネキンとして働くスタッフみんなも、催事場内にあるチーズは何を買ってもいい上に、従業員割引で安くなるので、いろんなメーカーさんのブースを回っては、どれがいいかなーと悩んで行ったり来たりしつつ、牧家さんのオリジナル保冷バッグいっぱいに買い物をするのが楽しみのひとつでした。
牧家の担当者さんはとてもいい人で、北海道に来るときにはぜひ寄ってねと名刺をくれて、メールをやり取りしていた時期があるくらい。
なので、スーパーなどで牧家さんのチーズを見かけたりするとひどく懐かしくなって購入したりします。
都内の西友なんかではカチョカヴァロが買えたりするので、とても重宝なのです。

あれから7~8年が経ったと思います。
そう、それくらい最近の話ではあるんです。
日本のチーズを食べる機会がちょっと減って、チーズというとチーズ王国の輸入チーズに頼り気味な状況にありつつ、モッツァレラやブッラータは、渋谷のチーズスタンドさんのものを気に入って取り寄せていたり、チーズ工房やチーズショップの使い方も少し変わってきました。
そんな中、ある出来事が起きました。

その日は朝から修正戻りの原稿の校正をして、社内担当者の確認準備を整え、上司に「ほかなにかある?」と訊かれて「ないです」と答えたら、100ページ弱の資料の赤字作成を頼まれました。
あまりの大作に少し緊張しながら赤字を作っていると、水曜日辺りに依頼した修正が戻ってきて、また社内担当者の確認準備をして、また赤字作成に戻って、とやっているうちに2時間ほどの残業をしていました。
上司からようやく「引き取れますよ」という連絡が来たので、キリのいいところまで赤字を入れた原稿をクラウドで受け渡しして、リモート端末の電源を切って、ふう、と息をつきました。
しばらく放心状態で椅子に座ったまま、部屋の中を見て、「いやー、疲れた。夕ごはんどうしよう。これはもうUber eatsにでも頼らなければ」と思って、アプリを開けてみました。
すると、「Uber eats Market」という初めて見るバナーがあり、これはひょっとして?!と思って開くと、予想通りスーパーマーケットじゃないですか!生鮮食品が揃ってる!!これがすぐに届くってことだもんね!!
俄然テンションが上がってしまい、買いそびれていた水菜や白菜、他にも野菜をいくつかとお肉、その他いろんなものをカートに入れて、売り場のページを下にスクロールしていくと「コストコ」という項目がありました。
どうやらコストコで売っている商品を販売しているらしいので覗いてみることに。
そうしたら牧家さんの白いミルクプリンとミックスフルーツラッシーがあるじゃないですか!
懐かしさのあまり速攻カートに入れてチェックアウトすると、なんと商品が届くまでたったの15分!
鍋を食べようと思っていた念願も果たすことが出来、懐かしい牧家さんの商品と再開することが出来たのでした。

牧家の白いミルクプリン。カラメルソースをかけていただきます。

もっちりとした食感の、ミルクの濃厚な風味があるプリン。
懐かしくあの頃のことを思い出しました。
あの担当者さんはどうしているかなあとか、そんなことも。
北海道、また行きたいなあとかいろいろ考えてしまいました。
これを食べる前、ちょっとつらいことがあったんだけど、それもどこかへ吹き飛んでいきました。
そのかわり2個食べちゃったけど。
私があの頃担当していたのが牧家さんで良かったなあと思うし、牧家さんの商品を愛しているからこそ、思いがお客さんにも伝わったんだろうなあと思っています。

飲食業でもマネキンでも、売り場に立つときは、その商品をきちんと理解して愛していないとだめだなと、いつも思うのです。
売る人が、販売しているものの一番のファンでいないといけないなと。
その店の料理やお酒を、そのメーカーが作る商品を、愛することが出来ないと、販売するときのモチベーションってガックリ下がりますよね。
この商品のここがいいからおすすめです、と明確に言えることってとても大切だなと思います。
逆に、商品を販売するときに、自家製でもないのに手作りだと嘘をつかされたりするような、その商品に対する愛がなく、自己愛に満ちた仕事の仕方は私は好きではなくて。
商品を売り込むのには愛あればこその結果がついてくるのだなと思います。
あ、そうか!私自己評価が低くて自分が愛せないから、自分を売り込むのが下手なのかな?
今ふと気がついてしまいました。
自分を愛して、自分の作品を愛して、売り込めるように頑張ろうと思います。

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