見出し画像

春を謳う鯨 1-Hf OuTLiNe

【合わせて読みたい:これは大村鈴香という複雑なひとの心の奥に悠々と横たわる、訪れる者のない美しい湖、の水面を、みんなでひっそりと覗き込む連載小説、『春を謳う鯨』の前半アウトラインです。あらすじ、読みどころ紹介、キャラクター紹介をコメント欄に後打ちします、続きます ほか】

こんにちは、世界です。こんにちは! 『春を謳う鯨』はお楽しみいただけてますでしょうか。はっと気づくとかなり長くなってまして、申し訳ないです、この辺りで前半のまとめを、お届けしたいと思います…。

それぞれのノートを部分的にちらっとお読みになっても、なんとなく、読んで楽しいようには努力しているつもりです。が、筋を覚えているのはたぶん作者の私だけだと思われるので(ええ、こんにちは世界は現実主義者でもあるのです)、いちおうは折り返し予定でした、ここであらすじと読みどころをいったん、まとめました。登場人物紹介を入れると記事が長い。というわけで、キャラクター紹介は追い追い、コメント欄に綴りたいと思います…。[2019.10.19. 20番代以降のあらすじを追加しました。ご不便をお掛けしておりました…これからもどうか、お気軽に行ったり来たりをお楽しみください!]

書き手さんにも設定のヒントとして、楽しんでいただけると、嬉しいです! どさくさに紛れて、小説の技巧シリーズをマガジンにまとめました。めでたく連載を終えた暁には、人物造形についての『小説の技巧』ノートを書いてみたいと思ったりしてます(野望)。いつになるやら…いえ、どうぞ、気長にお付き合いください…。


『春を謳う鯨』これまでのあらすじ

1.
本社事務系総合職5年目の大村鈴香は、友人の紹介で大学卒業直後から交際を始めた同学年・同窓生のアクチュアリー、楢崎( )と、性格の齟齬を感じながらも半同棲中で、ゴールイン間近。梅雨どきのある金曜のこと、献身的な反面支配的な性格の楢崎と喧嘩をして、距離を取りたいと告げ、夜を一人で過ごすことにした鈴香は、恋愛相談相手の同期部下、中山奏太と同衾してしまう(   )。朝帰りの鈴香を待っていた楢崎( )は、その日に夜景の見えるシティホテルに鈴香を連れ出し( )、プロポーズする( )。同意した鈴香( )だが、彼女は中山との交渉以外にも、楢崎に言えないたくさんの秘密を抱えていた…( )。

2.
鈴香は入社時のオリエンテーションで同じ班になって以来、親友として付き合っていた、研究開発部門の女性エンジニア、ミナガワ( )と、去年から円熟した性的関係にある( )だけでなく、楢崎との交際以前から断続的交渉のある作家・佐竹との奇妙で親密な関係( )をも、なしくずしとはいえ相変わらず、続けている。楢崎の、判で押したように強硬的な性交渉( )は、ミナガワや佐竹との対話的なそれ(     )の対極にあって、鈴香の大きな悩みになっているが、満足しているらしい楢崎とのあいだに横たわる、深すぎる溝を埋めるのを諦めた鈴香は、次第に、楢崎に心を閉ざすようになってきていた。
3.
佐竹が鈴香に手放しがたい魅力と不思議な力を感じている(   )のと同様、ミナガワにとってもまた、鈴香は特別な存在だった( )。ミナガワとの交流を静かに深めてきた鈴香(   )は、月曜祝日の連休の土日にミナガワの家に遊びに行くのを、先月から楽しみにしていた。出発の朝、前夜から押しかけてきていた楢崎は、鈴香に嫉妬する様子を見せ、相手をするよう強いる(   )。鈴香の心が閉ざされていることに密かに焦っている楢崎は、頑なな鈴香と対立した形で、鈴香を送り出す( )。
ところで、ミナガワの本心が見えない鈴香の不安()は、滞在中に解けた。ミナガワに楢崎との結婚することを告げた鈴香に、ミナガワは自分の変わらぬ愛情を吐露し(  )鈴香を愛おしむ( )。翌朝、ミナガワから「ずっと一緒」との言葉を受け取った鈴香は、ミナガワへの謝罪と感謝を飲み込みながら、ミナガワとの関係を続ける決意をする。一方で、もう手に入るものはないという感覚の、虚しさに襲われてもいた( )。鈴香は、泊まりに出た日の楢崎との対立を、簡潔なセックスでごまかし( )、普段の生活に戻る。
4.
そんな折、鈴香は普段会わない経理・柿本に会社の女子トイレで遭遇し、人事・倉沢の別れと略奪婚の噂を耳にする(   )。奏太と倉沢のキス現場を目撃したとミナガワから聞いていた( )鈴香は、奏太の様子を窺うが、奏太はいたって普段どおりで、鈴香は困惑するも、考えるのをやめる( )。穏やかな日常を送り、柿本と飲んだ翌日、鈴香は会社近くの薬局で、青年・麗と出会う( )翌週、麗のバイト先を会社の用事で訪れて再会した鈴香は、就職活動中だという麗のOB訪問の願いを受けて、会う約束をする( )。地味で堅実な先輩女子としての一面を強調しながら、麗の美しい外見と、さっぱりした素直な性格に惹かれ、就活を助けようとする( )鈴香だったが、麗には麗の思惑と事情があった…[coming soon…]

簡単に言うと:
丁寧で不思議なエロスに満ちた、主人公総受けのビタースイート小説。です。たぶん。きっと。おそらく。


読みどころ!

《登場人物の多面性と奥行き》
皆が皆、誰にも見せない本当の自分、を抱えて、それとは違う自分で鈴香に接しています。鈴香もまた、生の自分を彼らにさらけ出すことは決してなく、読者以外の誰も、鈴香の性行動の全貌を知りえません。天国か地獄かというよりは、天国で、かつ地獄。幸福かあるいは悲惨かというよりは、幸福で、かつ悲惨。いいところもあれば悪いところもあり、そのどちらかでは登場人物が成り立たないよう描かれています。読んでいると誰を信じていいかわからなくなり不安になりますが、考えてみると現実にも、いいだけの人、悪いだけの人というのはそれほどいませんし、理想の実現には厳しい現実もつきものです。はい。登場人物たちへの評価が切り替わる瞬間や、そのように複雑性に彩られた登場人物たちの台詞がぶつかる瞬間の、独特な緊張感が売り。の、つもりです。

《「鈴香の世界」》
お伽話のモチーフで煌めく、夜のメリーゴーランドのような世界。苦役、懊悩、反復による疲れ、生活による汚れなどからは無縁の、深い闇と華やかな光に二重に包まれた世界です。鈴香の周りは美しいもの、清潔なもの、真正なものに囲まれており、無意味さ、見苦しさ、醜さは不快なものとして、決断排除されています。この世界の総支配人は楢崎くん、付添人はミナガワ、監視員は佐竹さん。鈴香はこうしたいとかああしたいとか呟いてみるだけでよく、呟けばいつか必ず何かしらの形で叶います。たまに、壊れた柵から迷い出たりすると、外の世界には普通に溢れている「よくないもの」が襲ってくるため、鈴香はこの世界から基本、出たがりません。

《フェティッシュなエロス》
本作におきましては、濡れ場には結構なエネルギーを割いています。愛しかないように気合いを入れてますし、エッチな場面でここまで(心身ともに)振り切れる生身の人はそれほどいないと踏んでますので、フェティッシュな部類に入ると思っています。男性女性の枠を意識しない、ただ自分の体と相手の体、自分の心と相手の心だけがあるような彼らの交接のひとときを、楽しんでいただければ、幸いです。例によって、直接的な表現は力の限り避けてますので、「????」となる初心者のかたがいらっしゃるかもしれません…が、こんにちは世界の描く濡れ場は、典型から何かズバ抜けているようなところがないのが大きな特徴です。直接的なのは巷に山ほどありますから、どぎついのをどんどん読んでみて、またお戻りください。こんにちは世界が何を避けているのかわかっていただけますと、光栄です。ここには愛しかない。はい。


楢崎くんがね…愛エロ作家を自称したいこんにちは世界には…規格外なんで、私の苦悩と恐怖のタネなんですが、悪い意味でオーセンティックにドSバリタチなため、どうも読者の抑圧された征服心がくすぐられるようです。また、男性なら一度はぐっとこらえたことのあるだろう台詞を、彼にはなるべく搭載しているのもポイント。誓って言いますが、私は推奨しかねます。お相手が同意していれば話は別ですよ!ただ、今回は鈴香がそれほど望んでいませんし、大抵の場合望まれないように思われます。せめて黙っていてほしいんですが、彼には彼なりの盛り上げかたや言いぶんもあるようです。うーん、うーん…(悩)。

《見たところ何も起こっていないというスリル》
いったん、外から鈴香と楢崎くんを見てみましょうか…鈴香はいわゆるトロフィー妻、楢崎くんはいわゆるハイスペ夫、健康不安なし、容貌よし、学歴高めの都会住まい、東京本社バックグラウンド系。二人とも大手勤務で制度化が進んでいて、家族計画を立てやすく、30前に結婚・35前に子ども二人くらいがきっと理想、両親健在のようですし、楢崎くんは資産家の息子で、かつ後継者でない。お互いプライベートの時間は無検閲で保証、週末に遊びに行く友人関係あり、共通の友人あり、食事や記念はきちんと。夜の営みは交際5年目でなお脈々と存続し、家事炊事は分担。
そうなんです、話せば話すほど絡め取られていきます。外側だけ掬うとこれ、典型的な幸運・努力・計画・堅実型の人たちなんですね。交際期間に対して多少婚約が遅いように思われるくらいで、面白くもないいっぽう、取り立てて非難する点もない。表面上、彼らには何も問題は生じてなくて、何の個性もなく、ただただこのまま、進んでいけばいい。二人も、ここには同意しているようです。
問題は、問題がすべて、隠れた問題、言えない問題だという点。鈴香は楢崎くんだけを愛するのはたぶん、難しい。楢崎くんは鈴香以外の人を愛するのはたぶん、難しい。どうして難しいかがまた、言いにくい。別れればいいんでしょうか? それは互いに、賢い選択なのでしょうか? 鈴香も楢崎くんも、常に「別の選択肢」を考えながら、結局他の誰も選べないまま今に至っている感じがします。性を取り去ると、見解の全く一致しない腐れ縁の友人のような側面もある、殴り合いながら愛し合うような彼らの、緊迫感ある対立も、今回の目玉のひとつです。

《環と束縛、結界と守護のテーマ》
鈴香が身につける時計、ネックレス、指輪、ブレスレットは、鈴香を束縛するものであると同時に、鈴香を守るもの。登場人物たちは鈴香に環をかけたがり、また、時には、鈴香に環をかけてもらいたがります。ちなみに円環のテーマは、鈴香を中心に回ってその満ち引きを操る、月のテーマを背負うミナガワ、反重力・異次元界が基調の佐竹さん、鈴香がその重力に逆らえず囚われている、と同時に鈴香を放浪から守っている楢崎くん、という、惑星的なイメージにも、引き継がれています。


引き続き、宜しくお願いします。

長くなりますがどうぞ、読み手の皆様、書き手の皆様におかれましては、静かな夜のお供に、本作品のどれかのページを滑り込ませていただけますと、幸いです。続きもどうか、お楽しみください。楽しく読んでいただけるのが、なによりも励みになります。

ありがとうございます。

お話を、書くのが、大好きです。

これからもどうぞ、よろしくおねがいします。

今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。