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【蔡國強 宇宙遊 ー〈原初火球〉から始まる】鑑賞レポ(後編)

▼ 前編はコチラ

前編パートでは、巨大な光のインスタレーションについて書きました。後編では、紙の作品について。

紙の上で火薬を爆発させて描くという斬新な手法

さてさて、光のきらめきも大変美しいものでしたが、蔡さんの作品といえば、なんといっても「火薬」と「爆発」。
宇宙や、原初に思いを馳せる中で彼が編み出したのは、火薬を紙やガラスの上で爆発させ、その爆破後を写し取る、という独特の表現方法だったようです。

本展を企画した国立新美術館長の逢坂恵理子は、「宇宙への憧憬と未知への好奇心によって、時空を超えた両義的な表現を模索し続け来た蔡が提示する作品群は、破壊と創造、静と動、不可視と可視、混沌と秩序、そして誕生と死を表象する。それらは、宇宙のかけらである私たちに、改めて宇宙からの視点と存在の原点について示唆を与えてくれる」と述べています。

展示公式Websiteより

その後、蔡さんは、室内で紙やガラスの上での爆発から、屋外での爆発プロジェクトへと表現を広げていきます。

▼福島県で開催された満開の桜の花火…!昼間の花火がこんなにも幻想的だとは…!


とにかく準備が大変だけど爆発するのは一瞬

制作過程の動画も展示されているのですが、とにかく準備が地道だし大変だし、普通に土木作業的な肉体労働の風景が収められていて、大変驚きました。

穴掘ったりとか、導火線作ったりとか、木で骨組み作ったりとか….。スタッフさん達と手分けをしてもなお、屋外作業での準備にかなり時間がかかっている様子で、これをあの一瞬の点火で爆発させてしまうわけです。なんとも儚い。

でも、面白いというか清々しいのが、全部の過程において、蔡さんがとっても楽しそうなんですよね。導火線をこしらえている時も、穴掘っている時も、深夜に作業している時も、実際に爆発が終わって煙を上げている現場を見ている時も、すっごく楽しそうだし、1個1個の爆発プロジェクト(展示でこう書いてあった)をとても喜んでいるようでした。

また、制作過程には、彼が引き連れているチームメンバーに加え、その爆発場所の近辺に住む住民などの一般人も参加しているようでした。彼は、世界中の宇宙と繋がれそうな場所や偶然ご縁があった場所に赴いて、この爆発プロジェクトを実施しているそうです。周囲の人々を巻き込みながら、いろいろな場所を爆発させる楽しさを共有している一体感が画面越しに伝わってきて、私もやってみたいな、と思いながら見ていました。

ちなみに、屋外の爆発プロジェクトは、映像でも過程が残されていますが、紙でも「実験解説」みたいな形で残されているんですね。それ自体が作品に仕上げられています。

点火線に火をつける人の絵が描いてあるのがシュール

いつ、どこで、どんな感じのセッティングをしたか、いい感じの紙にグラフィカルにまとめてあって、面白かったです。ちゃんと爆発の痕跡は紙の上にも残してあるし。

生み出す、爆発

そんなことを思いながら、改めて今まで自分の中であまり結びつけたことがない「爆発」と「原初」というキーワードについて考えてみました。

私の中で、爆発って、破壊的なイメージを持っていたけど、何かが生み出される時も「爆発的」なのか、と思うきっかけはこの展示から得られたように思います。

確かに、ビッグバンから宇宙が始まったし、そこから生命が生まれたとされているなら、爆発という現象が持っている力強さは、生命そのものの強さでもあるのでしょうか。

「芸術は爆発だ」と岡本太郎も言っていましたし、アートの真髄は爆発の妙に見ることができるのかもしれません。

ああ、素敵だった!

#アート #鑑賞記録 #美術鑑賞 #感想 #美術館  

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