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36.高齢と福祉

介護職は、利用者の生活を支える重要な役割を担う職業です。
 
私も過去に15年だけ介護のお仕事をしていたことがありますが、初めてこの仕事をした時に何が心配だったかと言うと“担当する利用者はどんな人だろう?”とか“利用者に満足していただけるようなサービスができるだろうか?…といったことでした。
 
勤務初日の前日の夜は考えても仕方がないのに、考え過ぎて眠れなかったほどです。
 
それは結局、この仕事を辞めるまで15年、新しい利用者と出会う度に同じような状況になりました。
 
あとは技術的な不安も大きかったです。
 
ホームヘルパー…現在の介護職員初任者研修や入社時の研修などで介護技術は学んではいましたが、様々な身体的な状態の利用者がたくさんいるところで本当に上手にできるのだろうか?…とかなり不安がありました。
 
基本技術と現実は、やはり違います。
 
しかし、基本技術があるからこそ、その違いに気付きますし応用してその利用者にとってより良いと考えられる対応方法を見つけることができます。
 
この技術的な不安も、この仕事を辞めるまで常に新しい利用者と出会う度にありました。
 
今まで一度も“誰かと同じような人”と巡り合ったことはありません。
 
現場で働いているとよく聞こえてくるのが“あの利用者とは相性が悪い”、“あの利用者とは気が合う”といったことです。
 
相性の問題は確かにありますし、大いに悩んで自己覚知に利用していただけると良いと思います。

しかしそうではなく、その現実をただ受け止めてそのように言って切り捨てるのであれば論外なことになります。

介護職が介護サービスを提供する対象の利用者は“お客様”です。
 
“相性が悪い”とか“気が合う”なんて軽口は、金をもらっているプロが“お客様”に対して言うことではありません。
 
介護もあくまで接客業です。
 
サービスを担当した利用者と信頼関係を構築する為には、相手の気持ちや希望に配慮しながら介護保険制度の中で出来る限りの支援をしていく必要があることを理解する必要があります。
 
あとは、社会人として仕事をする者として求められることを怠らないことも大切です。
 
・明るく元気に挨拶する。
・清潔感のある身だしなみ(服装、髪型、髪の色など)をする。
・公私混同をしない。
・社内外を問わず敬語を使用し、相手に不快感を与えない言動をする。
・約束の時間を守る(やむを得ない場合は事前に連絡する)。
・事実に基づいた報告をする。
・個人情報保護に関するルールを遵守する。
・タイムカードなどの勤怠管理について、毎日正しく記入する。
・スタンダードプリコーション(標準感染予防策)を徹底する。
・遅刻欠勤がなく安定した勤務をする。
・やむを得ない理由で休みや遅刻になる場合には、速やかに上長に連絡する。
・心身健康な状態でサービスを提供する。
 
身体的にも精神的にも健康状態であることは大切なことです。
 
サービスに集中して利用者を全面的に受け入れられるようなコンディションを整えることが求められます。
 
ちょっとした気の緩みやうっかりミス、“多分~だろう”という考えなどが大きな事故の元になります。
 
利用者の命や生活を支えている仕事であるという緊張感を常に持って、健康管理を行い、サービスを提供する必要があります。

必要以上に自身の家族や生活について話すこともあまり良くないというか…サービスに必要がないことが多いと思います。
 
万が一言ってしまった場合に、そのことが知らない間に利用者に気を遣わせてしまう場合もあります。
 
そして、絶対に物品や金銭は受け取らないことです。
 
とは言っても、私は結構いただきました。
 
2011年から1年半程働いた東北地方の有料老人ホームでは、夫婦で入居していた方達のご主人がなぜか戦友のように部屋に迎え入れてくれて、何度か上質なおつまみと高級ウイスキーやワインを御馳走になったり、田舎の特養施設で働いていた時には、採れたての鹿肉の巨大ブロックや新鮮野菜をいただいたりしました。
 
認知症の90代の女性は訪室するごとに毎回オロナミンCを1本飲ませてくれるのですが、こっちが“さっきいただきましたから”と言っても、本人にとっては毎回が初めてのことで、最多で1日8本飲み、その挙げ句、夕方に家族が来てて“これ持って行って”と…8本飲んだことを伝えたのにも関わらず、本人と家族からあと2本もらうみたいなこともありました。
 
あまり大きな声では言えないことなので、これぐらいにしておきますが、基本は利用者やご家族からのいただきものは受け取らないようにします。
 
断り切れずに受け取った場合には、すぐに上長に報告を行います。
 
お返しなど…自分から金品を提供するようなことも絶対に行わないことです。
 
あとは、自分の住所や携帯電話など個人の連絡先を伝えないこと、そして、担当利用者の連絡先を登録しないことも大事なことです。
 
利用者と個人的に関わることは厳禁です。

公私混同はしないということです。
 
いかなる場合も施設、事務所を通して連絡をします。
 
お客様との信頼関係はすぐにできるものではありません。

時間をかけて焦らず真摯に支援するように心がけます。
 
“信頼関係=お客様の要望を単純に叶えること”

…ではありません。
 
利用者に嫌われたくないといった感情で、介護職としての役割以上の期待をお客様に抱かせることは短期的には問題がないように思われますが、長期的に見るとその信頼関係は破綻することが多いです。

お客様、援助者の双方にとって不幸な結果になりかねません。
 
援助者としての役割を忘れずに信頼関係の継続の為には“できることはできる”、“できないことはできない”ということを丁寧に説明することが必要です。
 
回答に困った時には、その場はお話をお預かりし上長に報告や相談をします。
 
スタッフの言動は、お客様にとっては会社のお客様に対する姿勢そのものです。
 
ひとりひとりのスタッフが、会社を代表して担当するお客様と向き合っているということを常に肝に銘ずることです。
 
その為にも、独善的な視点ではなく、客観的、協調的な視点でお客様と向き合う為に、正しいマナーを守りながらサービスを提供することが何よりも重要な介護士の役割です。
 
 
介護職は“誰にでもできる仕事”だと勘違いされがちですが、本来の姿は介護の知識に限らず、生活力や人生の様々な経験値を駆使した専門職のプロです。
 
新卒採用の新鮮な力と同じく、中途採用で入ってくるような異業種経験者の視点も大いに活きる仕事です。
 
利用者は長い人生の中でそれぞれ、とてつもない経験を積んできた方ばかりです。
 
“私は勝者だ!”と言う人もいれば“どこで失敗したんだろう”と自分を問い詰めているような人も居ます。
 
その他、みんな違った立ち位置で現在を生きています。

それも本来なら支援なんて受けずに思うがままに生きたいのに、心身に何かしらのハンディキャップを背負い、支援を必要として他者に干渉されながら人生の後半を生きていきます。
 
そのような人たちと接する為には、その方たちに比べるとまだまだ未熟かもしれませんが、介護士もそれなりの人生経験…成功や失敗を積んでいた方がその感情の変化…喜びや痛みのようなものが少しは理解できて良いのかもしれません。
 
人それぞれが経験してきた様々な成功体験や失敗談、苦労といったものが、全て無駄ではなかったと感じながら役に立たせることができる仕事はなかなかないかもしれません。
 
その点が、私の考える介護職の最大の魅力です。
 
それでは、その介護のお仕事をする人は、社会的にはどんな立ち位置にいるのかを少しお勉強します。
 
“福祉”に対するイメージとしては、かなり曖昧なものですが“幸せに生きる”、“より良く生きる”為のサービスといったイメージを持っている方が多いと思います。
 
根っこにあるのが、

“健康で文化的な最低限度の生活を営む権利”

…日本国憲法第25条の“生存権”です。

この憲法によって、全ての国民に保障されていると同時に、これを保障するのは国の責務だと明記されています。
 
このように全ての国民は生存権を有していて、ハンディキャップを抱えた人の自立した日常生活をサポートする為に“社会福祉”が必要となっています。
 
“社会福祉”と似たような言葉である“社会保障”とは何が違うのか?…
 
“社会保障”は、生涯の様々なリスクに対して社会全体で備える為の仕組です。
 
社会保険、公的扶助、社会福祉、公衆衛生から成り立っています。
 
“社会福祉”は、“社会保障”の4つの柱のうちの1つということです。
 
更に、対象者に応じて、
 
・高齢者福祉
・障がい者福祉
・児童福祉
・母子寡婦福祉
 
…の4領域があります。
 
今回は高齢者福祉に焦点を当ててお勉強しています。
 
高齢者福祉は1963年に制定された老人福祉法と2000年に導入された介護保険制度を中心とした法律や制度に基づいて、高齢者の心身の健康の保持や生活の安定をサポートする為に発展してきました。
 
サポートの手段としては、高齢者を対象とした訪問介護や施設介護、地域包括ケアシステムといったものが該当します。
 
地域包括ケアシステムは、

“重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるように、住まい、医療、介護、予防、生活支援が一体的に提供されるシステム”

…のことです。
 
日本では少子高齢化が進んでいて、2025年問題に既に突入しています。
 
若い世代の人口や出生率は減少傾向にある一方で、75歳以上の後期高齢者が国民の4人に1人という超高齢社会を迎えるのが2025年です。
 
社会保障の担い手である労働人口が減っていくことによって危惧されているのは、
 
①社会保障費のバランス崩壊

②労働人口への負荷増加

③医療・介護業界の需要と供給のバランス崩壊
 
…といったリスクです。
 
社会福祉の観点から更に、介護における問題に着目していきます。
 
介護問題としては、
 
①介護難民(介護が必要なのに適切な介護サービスが受けられない高齢者のこと)

②老老介護(介護を行う側、受ける側双方の年齢が65歳以上であること)

③認認介護(老老介護の中でも双方が認知症であるという危険な介護状況のこと)
 
…といった問題が顕在化しています。
 
こういった問題の発生には共通する要因が主に3つあります。
 
まずは、高齢者数の急増に伴う要介護(要支援)認定者数の増加です。
 
介護保険制度が始まった2000年は218万人だった要介護(要支援)認定者数は年々増加し、2022年にはその3倍以上の689.1万人まで増えました。
 
今後も更に増えます。
 
次に、施設や事業数の不足です。
 
急増する要介護認定者数に介護施設数が追いついていないというのが現状です。

実際はどんどん新しい事業所は建っているのですが、その反面、倒産も見られます。
 
新型コロナ感染拡大も影響し、2022年の老人福祉・介護事業倒産は2000年以降最多の143件でした。
 
倒産までは行かなくても、事業活動を停止した休廃業・解散も2010年からの調査開始以来、過去最多となる495件になりました。
 
つまり、2022年だけで合計638軒もの事業者が市場から退出したことになります。
 
そして、介護業界における人材不足もあります。

実は、介護職員数自体は介護保険制度の施行後増加し続けています。

しかし、急増する要介護者数に追いつかず、慢性的な人材不足が起こっています。
 
2019年に全国に211万人の介護職員がいたことを基準にすると、2025年には約32万人、2040年にはその倍以上の約69万人もの人員を増やさなければいけません。

実際に凄い数の介護職員が年々増えているのですが、国全体で見ると2025年度までは毎年約5万人規模で介護職人材が不足すると見込まれています。

ここがピークで、2040年度には毎年3万人の不足に転じると予想させています。

この頃になると高齢者も減りはじめ、介護需要そのものがピークアウトします。

人材不足感が最も顕在化するのは、これからの数年であるということです。

このように、年々増え続ける高齢者に対して、充分な介護サービスを提供する為の設備や事業、人材も足りていないという現状から、上記の諸問題が起こっています。
 
これらの問題は今後、高齢者人口が膨らんでいく都市部の方が、地方より深刻化しやすいとも言われています。

なぜ介護職はこれまで長い間、人材不足の状態が続いてきたのか…。

主な原因として、賃金など処遇面での改善が進まないといった問題が指摘されていて、これまでも介護職員処遇改善交付金や介護職員処遇改善加算などが行われてきました。

しかし、仕事内容に対する処遇としては未だに充分な水準とは言えず、なかなか人材不足の改善に繋がらない要因になっています。
 
少子高齢化に伴い、今後更に深刻化していくとされる高齢者福祉の問題です。

急増する高齢者に充分な福祉を提供する為の人材や施設、事業をすぐに適切な量まで増やすことは難しいかもしれません。
 
しかし、他国の成功例を参考にしてみることやDX化の推進によって問題改善に繋がる可能性があります。
 
高福祉国家として知られるデンマークも、かつては高齢化に伴う介護費増加の問題を抱えていました。
 
“プライエム”という介護施設(日本でいう特別擁護老人ホーム)を多数建設する計画を政府が推進しましたが、結果的に施設の建設費を含めて介護費の大幅な増加を招いてしまいました。
 
そこで問題解決の鍵になったのが、施設から在宅介護への転換政策でした。

この政策の根幹にあるのが“高齢者福祉の3原則”です。
 
・生活の継続性

・自己決定の原則

・残存能力の活用
 
これに基づいて、介護が必要になってもそれまでの生活に継続性を持たせる為に、過度にケアを行うのではなく在宅で暮らす人それぞれのニーズに応じてケアが提供できる体制を整えていきました。

プライエムの新規建設は1988年以降禁止され、代わりに高齢者住宅の建設が推し進められるようになっています。
 
このように、デンマークの高齢者福祉は自助努力を基盤とした在宅介護の方向性に切り替わっています。
 
更にIoTを活用することによって、個人のバイタルデータ(生体情報)を医療関係者が必要に応じて確認できるシステムを構築する試みも始まっていて、よりパーソナライズ(ひとりひとりの属性や行動履歴に基づいて最適な情報や支援を提供すること)された福祉のあり方が期待されています。
 
日本が進めている地域包括ケアシステムの構築もこういうところからヒントを得ています。
 
IoTの活用によって、生体記録や生活記録をスムーズに管理できれば、現場の負担はかなり少なくなると考えられます。
 
そして、介護ロボットです。

介護ロボットには、
 
①情報の感知(センサー系)

②判断(知能・制御系)

③動作(駆動系)
 
…があります。

これらの要素を持ったロボットのうち、利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つ介護機器です。
 
移動や排泄、入浴をサポートするものを始め、近年はコミュニケーションロボットの注目度も高まっています。
 
癒しをもたらすぬいぐるみタイプのロボットもあれば、会話やゲーム、ダンスまでこなす人型のロボットもあり、種類によって、もたらされる効果は様々です。

利用者の心身の健康の維持や脳の活性化にも繋がると考えられます。
 
厚生労働省では、介護現場のニーズと開発企業の技術情報等(シーズ)のマッチング支援を行う“介護ロボットのニーズ・シーズ マッチング支援事業”を2021年6月から開始しました。

介護現場の問題改善に繋がる介護ロボットの今後の進化、活躍が求められます。
 
介護士は、人の生活を見て支援します。
 
“心”が大切な仕事なので、どんなにAIなどが発展してもなくならない仕事だと考えられています。
 
現場で働くと、特に多業種が集まっている病院や施設などでは資格によって格差が生じている場所も未だにあるようです。
 
介護士と比べて、

医師が偉い?

看護師が偉い?

理学療法士が偉い?

介護支援専門員が偉い?

……名前すらここに書かなかった資格の方々には申し訳ないですが、資格なんて勉強して取得したら単なる紙切れ同然です。
 
そんなこと考えている時間あったら、それぞれ、持ち場に戻ってちゃんと仕事しろ…そういうことです。

誰も偉くありません。

なぜか、給料に差があるだけです。
 
その持っている資格によって立ち位置が違うのは当然なのですが、誰が偉いということではありません。
 
そのことばかりが重要視されているような職場は、おそらく、利用者に害を与えてしまっているのではないでしょうか。
 
利用者にとっての最善の支援を継続的にする為のチームケアです。
 
力関係を作り上げる為に集まるわけではありません。

そういう しがらみ は世の中の役には全く立ちません。
 
正しいことを正しくやる…それが介護士のお仕事です。

間違ってしまったら、反省して考え、みんなに相談しながら、同じ間違いをしないように努めます。

せっかく、様々な資格の人が集まっているなら、同じ案件でも、それぞれの考え方を聞けたら凄くおもしろいと思います。
 
世界が広がります。
 
経験を積むと独り善がりになってしまいがちなので、人の人生を支援する仕事ということもあり、いつまでも新人だった頃のような気持ちの柔軟さを持ち続けたいものです。
 
いつまでも、初々しく青臭く心をスポンジ状にキープできる人にこそ、最適な仕事かなと思います。
 

写真はいつの日か…札幌市手稲区から手稲山を撮影をしたものです。

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