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みんな、言葉というナイフを手にしている。当事者が考える「差別」と「いじめ」【土井レミイ杏利×當間ローズ対談】

日本財団の調査によると、若者の自殺の大きな要因の一つにいじめ問題があるとされており、SNSが普及した近年では、インターネット上でのいじめ・誹謗中傷も問題化しています。

ハンドボール日本代表として東京五輪に出場し、「レミたん」としてTikTokで多くのフォロワーを集める土井レミイ杏利氏と、歌手やモデルとして活躍する當間ローズ氏。ともに海外にルーツを持つ二人には、過去にいじめや差別を経験したという共通点があります。

さまざまな要因が複雑に絡み合い発生する「いじめ」問題に対して、文化の違いやコミュニケーションの大切さなど、当事者としての経験を持つ二人の考えを伺いました。

いじめは「いじめる側」と「いじめられる側」だけの問題ではない

ーともに海外にルーツをお持ちのお二人ですが、どのような幼少期を過ごされたのでしょうか?

當間:僕は5歳の頃に日本に来ました。その時は僕も両親も日本語がまったく話せなかったのですが、これからは日本でずっと暮らしていくという家族の意思があったので、一般の小学校に通うことにしたんです。

静岡の田舎の小学校だったので、当時は私のような外見の子どもはほとんどいませんでした。肌や髪、眼の色も違うし、日本語もしゃべれない。それがいじめのきっかけになったのだと思います。

最初は、仲間はずれにされるといった、本当に小さなことから始まりました。それがエスカレートしていって、学校に行くと物がなくなっていたり、机に落書きされたりするようになって、最終的に暴力を振るわれるようになったんです。

両親も苦労をしていたので、心配をかけたくありませんでした。でも、体にあざができたりすると、母親も気付きます。「ちょっと転んだんだ」と誤魔化そうとしましたが、やっぱり母親にはわかるんですね。次の日には、一緒に学校に行ってくれて、言葉が通じないながらも身振り手振りを使って、先生たちにあざを見せながら状況を伝えてくれたんです。

そこから、いじめていた子たちの母親とうちの母親、先生たちが通訳さんを通して話して、「いじめはやめよう」ということになりました。でも、「やめよう」と言ってすぐ終わるものではないですよね。いじめって。

土井:やっぱり続いたんですか?

當間:続きましたね。

いじめって、「いじめる側」と「いじめられる側」だけのものではないですよね。周囲には、いじめを煽る人たちや、自分が加害者や被害者になることを恐れて何も言わない人たちがいる。そういう複雑な構造の中で発生していくので、いじめの当事者同士だけではなく、周囲の煽っている人たちも含めて指導していかないと断ち切ることは難しい。

僕の場合も、周囲のいじめを煽る人たちが別のいじめっ子に変な正義感を与えるというような構造が生まれて、なかなかすぐには終わりませんでした。結局、小学校4年で転校して、その後はいじめを受けることはなくなりました。

土井:外国から来た人が少ない地域の小学校に、日本語がしゃべれない状態で通うというのは、本当に大変だったでしょうね。

當間:当時、「ニコニコ教室」と呼ばれる外国人児童が国語の授業の代わりに日本語を学ぶ時間があったのですが、通常の授業を抜けて行くので、「なんであいつだけ授業を受けなくていいんだよ」と思われてしまったんです。

土井:それは自然と疎外される構造になってしまっていますよね。全員一緒に授業を受けたうえで、追加で日本語の授業を受けるならまだしも、一人だけ別にするというのは指導法として良くないと思います。

僕の場合は3歳から日本で暮らし始めたので、小学校に入る頃には、ある程度日本語も話せましたし、住んでいたのが成田空港から10分くらいのところで周囲も外国人がいる環境に慣れていました。なので、物がなくなったり、殴られたりするようないじめを経験したことはありません。そこは自分でも運が良かったなと思います。

ー自分をいじめていた子どもたちが、そういう行動をしていた背景については、どのように考えていますか? 

當間:いじめが発覚した後に、いじめをしていた子どもたちの母親が、それぞれ我が家に手土産をもって謝りに来ました。そこで初めて家庭背景が見えてくるんです。その中の一人は、母子家庭だったので一人でいる時間が多く、寂しさからストレスを感じやすい状況だったのかもしれません。

その時に感じたのは「相手を知る」ということの重要性です。僕も、もう少し彼らのことを知ってあげれば良かったんじゃないかなと思いました。

土井:当時は日本語が話せず、お互いを知ることも難しい状態だったでしょうからね。そういう意味では「教育」というのは非常に重要だと思います。学校や先生だけではなく、親からの教えも含めて、教育で改善していかなければならない問題ですよね。

今後は日本に来る外国人も増えてコミュニケーションを取る機会も増加していくでしょうから、當間さんが受けたようないじめが起こらないように教育システムを見直した方が良いと思いますね。

當間:現在では、改善されている部分もあると思いますが、当時はいじめというものに対する先生の認識が甘かったように思います。よくある話ですが、いわゆる「いじり」「ただ遊んでいるだけなんだ」と思っていたのではないでしょうか。

また、地域のサポートも重要だと思いますね。現在、僕の地元である湖西市には国際交流協会があって、日本語教室が行われています。そこでは同じような境遇で育った先輩が、子どもたちに勉強を教えたり、相談を受けたりしているのですが、こうした草の根的なサポートは、どんどん広げて行くべきだと思います。

自分を卑下してまで、相手をリスペクトする必要はない

ー土井さんはフランスのクラブでプレーしている際に、アジア人に対する差別を経験されたそうですね。

土井:フランスは、様々な人種、宗教、文化を持つ人たちが共存する多民族国家です。一方で、フランス人はもともとプライドの高いところがあって、「俺たちが受け入れてやっているんだぞ」という意識を持っているように感じましたね。

また、フランスでは日本ではあまり良しとされないようなブラックジョークをおもしろがるカルチャーがあるんです。例えば、「自転車泥棒に一番役に立つ防犯グッズは?豚肉だよ」っていうジョークがあって、これは豚肉を食べることができないイスラム教徒を揶揄しているわけです。これって日本人にとってはまったく面白くないじゃないですか。でもフランスでは、めちゃくちゃウケるんですよね。

そうした背景がある中で、ハンドボールの世界では、アジア人がヨーロッパで活躍することが非常に珍しいこともあって、僕がアジア人を侮辱するようなブラックジョークのターゲットになってしまったのです。僕の父親はフランス人ですが、そんなことは関係なく、「日本から来た」というだけで。

最初は何を言われているのかもよくわからないので、みんな笑ってるし、一緒に笑っていたんですよ。当時僕が所属していたのは、オリンピックで金メダル取った選手がゴロゴロいるクラブだったので、そういう選手たちをリスペクトして接していました。でも、そうした僕のスタンスが、相手にとっては「こいつはバカにされてもただヘラヘラしてるだけ。何を言ってもOK」と捉えられてしまったのです。

最初は「みんなが喜んでくれてるなら、それでいい」と思っていたのですが、フランス語が理解できるようになって、「とんでもなくバカにされている」ということが分かってきました。すると、嫌な気持ちが少しずつ溜まっていくんですよね。

そもそもリスペクトされていないから、練習中もパスなんて回ってきません。明らかな暴力みたいなものはなかったですけど、「なんで俺はこんなに疎外されているんだろう」という感覚がずっと続いて、それがどんどんストレスになっていきました。チームメートだけではなく、スタッフやホームの応援席からも差別的な言葉が飛んできたりしたのです。

「俺が、君たちに何か悪いことをしたか?」という気持ちが募ってきて、ふと気づいたら自宅で包丁を握りしめて立ちすくんでいました。この時に自身がかなり追い詰められた状況にあることを知りました。

ただ、差別的な発言をしている人たちも、イジメをしている子どもたちと同じように、それほど悪気はないんですよ。単純に笑いを取ろうとして言っているだけで、相手を不愉快にしている、傷つけているということにそもそも気づいていないように思います。

當間:土井さんは、そうした状況をどのように改善したのですか?

土井:シーズンのブレイク期間中に、環境を変えられないのだったら、まず自分が変わってみようと考えました。

それから2週間、僕はハンドボールのことは一切考えずに、チームに馴染むことだけを考えたんです。例えば、ブラックジョークを言われたとき、すぐにカウンターで似たようなブラックジョークを返せるように、ひたすらイメージトレーニングしました。

実際にシーズンが再開して、同じようなことを言われた時に、パッと言い返したら「なんだお前、ちゃんと言えるじゃないか」みたいな感じで少しずつ輪に入れるようになったんです。そうやってチームの輪に入っていくと、楽しいとか嬉しいという感覚が戻ってきて、練習中もパスが回ってくるようになりました。

當間:僕も最初に覚えた日本語は「仲間に入れて」でした。それは土井さんと同じように、相手の輪の中に自分から飛び込んでいかないと状況が変わらない、と考えたからだと思います。

土井:謙虚さや相手を敬う姿勢は、日本の素晴らしいところだと思います。でも、海外では通用しない部分もあると痛感しました。相手を尊重するのは素晴らしいけど、自分を卑下してまでリスペクトしなくていいというのは、多くの人に伝えたいですね。

環境を変えるのは「逃げ」ではない

ー日本では部活動の厳しい指導が問題になることも少なくありませんが、土井さんは学生時代にそういった経験はされていますか?

土井:学生時代の練習も辛かったですが、同学年の仲間と辛さを共有できたので精神的に救われる部分があったんです。でも、フランスでは差別されることの苦しみを共有できる人がいませんでした。社会に適応できない人たちが抱えている最も深刻な問題は、孤独だと思っています。それは僕自身がフランスで、そのことを痛感したからです。

なので、個人としては「自分から仲間に入りたい」という意識を持つこと。周囲の人間としては、「仲間に入れてあげよう」と手を差し伸べること。それが社会全体に広がっていけば、いじめは減るんじゃないかなと僕は思います。

ただ、実際にいじめを受けていたり、苦しい立場にある人たちが、そうした「最初の一歩」を踏み出すのは、とても難しい。であれば、環境を変えるのも一つの選択肢です。

當間:特に若い頃は「自分がいる世界がすべて」だと思いがちですが、実際はそんなことないんですよね。世界は本当に広いので、きっとどこかには自分を理解してくれる人がいる。「自分は絶対に1人じゃない」というマインドを持つことはとても重要です。

土井:それは決して逃げではないと思います。より良い新しい人生を送るための助走だと捉えれば、長ければ長いほど遠くまで行けますからね。

當間:僕の場合も、転校した先の学校には多くの似た境遇の子供たちがいました。そこで自分を理解してくれる仲間ができたことは、大きかったですね。あとは母が「どんなときでもどんな状況でも私はあなたを愛してる」と常に伝えてくれていたので、それは本当にありがたかったです。

「いじめ」が「いじり」に変わった瞬間

ー先ほど自分を卑下する必要はないというお話がありましたが、バラエティ番組などではいじったり、もしくはいじられることで笑いを取る場面も多々ありますね。

土井:僕は受け手側の感覚次第だと思います。言われた側が傷つくのであれば、いじめですが、本心から笑いに変えられて、気分が悪くならないのであれば「いじり」になると思います。

當間:僕も最初のうちはそんなに気にならなくても、何度も言われるうちに棘があるように感じることがあって。こうした、ちょっとしたいじりだったものがいじめに発展するパターンもあるなと思いますね。

土井:最後はそれぞれの感覚なので、そこにハッキリとした境界線を引くことは難しいかもしれません。

先ほど僕がずっとフランスでブラックジョークを言われ続けてストレスだったという話をしましたが、一度そのストレスを周囲に思いっきり吐き出したことがあったんです。その時、周囲は衝撃を受けていました。彼らはみんな知らなかったんですよ。僕がそれだけ苦しんでいたことを。なぜなら僕が表現しなかったから。彼らにしてみれば、「なぜ言ってくれなかったんだ」という思いもあったようなのです。

でもその後まったく差別用語が使われなくなった時に、逆に疎外感もあったんです。誰も今までのように話しかけてくれなくなってしまって。なので、しばらく経って、自分から「この距離感は嫌だから、またブラックジョークを言ってよ」という話をしにいきました。

すると、またちょっと差別的なことを言われたりもするんですけど、それは僕の気持ちを理解したうえでの言葉なので、僕自身の感覚としても、それまでのように嫌な気持ちになることは無くなりました。「いじめ」が「いじり」に変わった瞬間だったと思います。

當間:相手のバックグラウンドも分かったうえで発言しているかが重要ですよね。僕がブラジルから来た経緯や過去にいじめに遭っていたことを知ったうえでいじるのと、そういうバックグラウンドを知らない人からいきなり言われるのでは、僕自身の受け取り方が全く違いますから。

SNSでの発言は、ナイフと同じ

ーSNSが普及した近年では、コミュニケーションの仕方も変化していると感じます。

當間:大前提として、画面の向こうにいる僕たちも一人の人間だということを理解してほしいです。あなたが言われて傷つくことは、僕たちが言われても傷つく。そのことを常に心のどこかで持っていてほしいですね。SNSというのは、ある意味でナイフと一緒なんですよ。ナイフを手に持って歩いているという自覚を持って、相手を刺さないような言葉遣いや書き方を考えてほしいなと思います。

土井:現代って、指一本で人を殺してしまうこともできる時代なんですよ。でも、逆に言えば、指一本で幸せな世界にもできるんです。僕もインスタなどでたくさんコメントをいただくのですが、時間が空いてるときは全てのコメントに「いいね!」を返しています。

當間:僕も文章でコメントを返すことはできないですけど、「いいね」はするようにしていますね。

土井:それってもう1秒にも満たない時間でできる行為なんですけど、コメントしてくれた人からすると、嬉しいことだと思うんですよね。指一本で、1秒以下でできることで、ちょっとでも幸せな気持ちになってくれる人たちが世の中たくさんいるんですよ。

行動を起こすことで、誰もがヒーローになれる

當間:いまイジメなどに遭って辛い状況にいる方々には、何よりもまず「あなたは一人じゃない」ということを伝えたいです。あなたと同じような経験をしてきた人や、あなたを理解してくれる人は必ずいます。

土井:周囲から何を言われようが、どれだけ否定されようが、自分だけは自分のことを信じて疑わないでほしい。僕自身も、そこだけはずっと続けてきたから、今も生きていると思っています。だから、どんな苦しい環境でも、自分だけは自分を否定しないでほしいですね。苦しい状況が続くのであれば、もう逃げて全然OKだと思います。

これは難しいことかもしれませんが、「過去にいじめをしてしまって、いま後悔している人」がいるなら、そういう人たちに発信してほしい。そうすることで、「もしかしたら自分は今イジメをしているんじゃないか」「俺たちはとんでもないことをしてるんじゃないか」と気づける可能性が高まるんじゃないかと思うんです。

いじめられた経験を持つ人たちの言葉は、いじめられている側にしか届かないと思うんです。それだと、いじめている側の子どもたちには何もアプローチできません。

當間:先ほども言ったように、いじめ問題には被害者と加害者だけではなく、それを傍観する人や、自分がいじめられたくないから見ないふりをしている人など様々な立場の人がいます。

その中で、いじめられている子を救えるのは周囲の人だと思うんです。自分の名前を出さなくても、「あの子はつらい思いしてるんだ」ということを学校であれば先生、職場であれば上司に伝えることで救われる命があります。勇気を出して、匿名でも手紙でもSNSを通じてでも、行動を起こしてほしいと思いますね。

土井:そうした行動を起こすのには勇気がいると思います。でも、幼い頃にその一歩を踏み出せた人は、将来的に多くの人に良い影響を与えることになると思うんですよね。だから、そのちょっとした行動が、自分の人生においても価値があることだと気づいてもらいたいですね。それで救われる命はたくさんあると思う。

當間:そうした行動を起こした人はヒーローですよね。

土井:本当にそうですよ。誰でもヒーローになれます!