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【第11回】あ〜あ、たいいんかぁ…

執筆:副島 賢和(昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当)

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 一年間に約120人ぐらいの子どもたちとの出会いがあります。
 ほとんど全員が、無事に退院をしていってくれます。医療者や福祉職の方、そして何よりも保護者、子ども本人のがんばりがあってのことです。
 退院はうれしいことです。でも、実は教師としては、ちょっと寂しい気持ちもあります。
 関係ができ、体調も良くなってきて、
 「よし! これから、あんなことをしよう! こんなことも楽しめるかな?」
 と考えているときに、退院が決まります。それはそうですよね。そのくらい回復をしてきたら、もう退院ですよね。
 だから、子どもたちに伝えます。
 「退院が決まってよかったですね。とてもうれしいです。でもちょっとさびしいです。ちょっとさびしいけど、とってもうれしいです」
 と。

 「次回の外来で会いましょう」
 自分の気持ちを話してくれる子どもたちもいます。
 「次回の外来では、必ずさいかち学級に顔を出しますね」
 「いやだ〜退院したくない」
 「先生と別れるのいやだよ〜。ずっとここにいたいよ〜」
 「ここが自分の学校だったらいいのに…」
 そんなことを伝えてくれます。
 「そうなんだね。ありがとう」
 と返事をします。
 そんなかかわりをしていると、周りの大人たちから、言われることがあります。
 「ここでいっぱい受け入れてもらって、元の生活に戻れないということはないのですか?」
 「そんなに優しくしたら、学校に戻ることがよけいにつらくなったりしないのですか?」
 (「優しく」という言葉をお使いでしたが、私に届いたのは、「甘やかす」というメッセージでした)
 「大丈夫ですよ。」
 と私は、お伝えします。
 自分の心の中にあること(とくに不快な感情)を、上手に伝えることのできた子どもたちは、ほとんど戻ってくることはありません。
 「次回の外来で…」
 と言っていたのに、ほとんどの子どもたちは来てくれません。
 どうしているのかなあ…と考えることも多いのですが、楽しく生活してくれているとよいなあ…と思うようにしています。
 むしろ心配なのは、
 「がんばります」
 「絶対ここには戻ってきません」
 「しっかりと生活をします」
 と言って、退院をしていった子どもたちです。
 鎧をまとって、固まった表情で、そのようなことを伝えてくれた子どもたちは、再び、学級に顔を見せてくれることが多いようです。
 「また入院しちゃった…」
 「また、具合が悪くなっちゃった…」
 ばつが悪そうに…再会する子どもたちが多いなと思います。
 そんな子どもたちに、
 「そういうこともあるさ」
 「せっかく来たのだから、ここでしかできないことをしようね」
 そう語りかけます。
 本当は、一度退院した子どもが再び入院をしてくるのは、心の中がきゅーっと締めつけられます。
 でも、一番しまった…と思い、がっかりし、迷惑をかけていると考えているのは、その子自身でしょう。
 そんな気持ちもしっかり受けとめられる教室でありたいと考えています。

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著者プロフィール:昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当。1966年、福岡県生まれ。 89年、都留文科大学卒業。 同年、東京都公立小学校教員として採用され、 以後25年間、都内公立小学校学級担任として勤務。99年、東京都の派遣研修で、在職のまま東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。2006〜13年、 品川区立清水台小学校さいかち学級(昭和大学病院内)担任。 14年4月より現職。 学校心理士スーパーバイザー。 ホスピタル・クラウン。北海道・横浜こどもホスピスプロジェクト応援アンバサダー。TSURUMIこどもホスピスアドバイザー。 東京こどもホスピスプロジェクトアドバイザー。日本育療学会理事。 NPO法人Your School理事。 NPO法人元気プログラム作成委員会理事。 09年、ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。 11年、『プロフェッショナル仕事の流儀』(NHK総合)に出演。 20年、NPO法人Your School によるYouTubeチャンネル「あかはなそえじ・風のたより」に出演。https://www.youtube.com/watch?v=ndP0lIrhg8k
近著:『あのね,ほんとうはね 言葉の向こうの子どもの気持ち

※本記事は、へるす出版・月刊誌『小児看護』の連載記事を一部加筆・修正し、再掲したものです

2023年9月号 特集:日本に住む外国人の子どもへのケア
2023年8月号 特集:川崎病の子どもと家族への看護ケア
2023年7月号 特集:子どもの居場所2023;広がる小児看護の未来

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