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中学生編1 初恋の人

※この話はフィクションです。

僕の初恋は中学1年の時だった

 毎日の通勤で、ふと男女がじゃれあっている姿を見かけた。アオハルというやつか、と思いながらふと初恋の女の子のことを思い出した。相手の名前は椎名さんという、笑顔がキュートで活発的な、二つ結びの女の子だった。

人生で初めての恋愛感情

 小学生のときは恋愛感情というものがわからなかった。単純に好きか嫌いか、そこに男女の隔てはなかった。中学に入ってからもそうだった。はしゃぐノリがよければ男女関係なかった。
 そんな中で、きっかけは忘れたが僕と椎名さんは特に仲良くしていた。下校のときも、僕と椎名さんとひょうきん者の高田君の3人でいつも帰っていた。そんな姿を見たクラスメイトはラブラブだな等と冷やかしていたが、ラブラブという感情がよくわからなかった僕は「うるせー」といってやり過ごしていた。
 中学校も数か月が過ぎ、夏になろうとしていたころ、僕は椎名さんと一緒にいるのが幸せに感じていた。正直、高田君がいることが煩わしくなる程度には、二人きりでいたいと思っていた。椎名さんが僕と一緒に楽しそうにしてくれていることがうれしい。これが恋なのか、と実感した。

告白

 高田君は僕に「告白しちゃいなよ!」とそそのかし始めた。僕が不安になっていると「あれだけ仲いいなら大丈夫でしょ!」と太鼓判を押す。僕もその気になっていた。付き合うということがどういうことかはわからなかった。でも男女が特別な関係になることは知っていた。今以上に椎名さんと仲良くなれるなら、そう思って告白を決意した。

 夏の暑さが残る放課後、僕は椎名さんの家の近くにある神社で椎名さんをと待ち合わせをした。告白するためだ。

生まれて初めての告白に緊張が高まる。

心臓の音が聞こえる。

断られたら?大丈夫だよと心の自分が何十回も会話する。

そもそも来ない可能性もあるか……と不安に駆られ始めたころ、椎名さんは現れた。制服姿のまま、カバンだけ家において来てくれたらしい。
「どうしたの?改まって」
椎名さんはいつもの笑顔で話しかけてくれる。
僕は緊張してその笑顔からすぐに目をそらす。もう一度椎名さんを見つめなおし、勇気を振り絞って伝える。

「椎名さんのことが好きです。よかったら付き合ってください」

「……ごめん」

「え?」
思わず聞き返してしまった。
「うん、ごめん」
 もう一度改めて答える椎名さん。高田君の太鼓判を鵜呑みにしていた僕は、正直心の底ではOKをもらえると思い込んでいた。だからこそ、この結果はしばらく理解できなかった。

しばらくの沈黙。

「そっ…か……、ご、ごめんね突然!」
 そうして呆然としながら帰宅した僕は、次の日から椎名さんとどう接すればいいのかわからなかった。わかったことは、フラれるということは自分の気持ちを受け入れてもらえないことだという、当たり前のことだった。

今度は

 その後の僕と椎名さんは自然と接点が減り、気づけば一緒に下校もしなければクラスでもほとんど話すことはなくなっていた。恋愛感情は椎名さんが相手だからこと抱けたものであって、他の仲の良い女子に対しては感じなかった。
 心のカサブタがふさがりかけてきた1年の冬、椎名さんから呼び出された。

下駄箱の隅で、今度は椎名さんから告白された。
そして、「もしだめでも、前のように仲良くしてほしい」とも。

僕はこれを断った。OKしたら、自分が安く見られる気がした。僕が告白する前どのように仲良くしていたか、もう思い出せなかった。椎名さんは大粒の涙を流し、袖で拭う。僕はそれを見ていることしかできなかった。

その後の椎名さん

 その後、特に接点もなく中学を卒業した僕と椎名さんは別々の高校に進学した。それからしばらくして、椎名さんは高校で魔性の女として数多くの男子を魅了している(オブラード)という噂を耳にした。中学の時のサッパリとした性格からは想像できないことだったが、単に僕がその一面を知らなかっただけなのかもしれないし、フラれた男子が腹いせに悪評を流しただけかもしれない。椎名さんの告白を受け入れていたら何か変わっただろうか、とも思ったが、さすがにおこがましいだろう。

今は何をしているのだろう

 僕はこれまで何人かの女性とお付き合いをさせていただいたが、椎名さんに抱いた感情を超えるような恋愛はできなかった。今でもあの笑顔と声を思い出せる程度には心に残っている。僕が人生で一番好きだった人。今が幸せであってほしい。

ちなみに、椎名さんのごめんなさいは数秒で返されたが、中学卒業式の時に別の女の子に告白したときは被せ気味のノータイムでフラれるということを、中1の僕はまだ知る由もなかった。

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