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映画

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2023年11月の記事一覧

ひとり、の渦に呑まれる

 手を奥へできる限り伸ばすと、ヒヤリとした冷風に突き当たる。使い始めてから早15年が過ぎていて、とっくに標準的な耐年数は超えているのに、いまだに微かな呼吸音を立てながら室内の果物や野菜、私が作った料理などを冷やし続けている、健気なやつ。日常的に、私が生きていくために、そっと息を吐き出している。 *  相変わらず、少し前から朝方の日が昇らない時間帯に目を覚ましてしまう。真っ暗闇の中で突然夢から放たれて、なぜかわからないけれど、再び眠ろうとしても途端に瞼が軽やかにパチパチと振

『螺子を巻く』、あと『首』

 例年と比べてあたたかい秋が続くなぁ……と油断している皆様、さきほど知ったのですが、明日から寒波到来とのことですよ! もし周知の情報であるならば、情弱が過ぎるKH、今日も薄着で美しき四季を想ふ──。  と、どうでも良い前置きではございますが、この度『文章・創作のサークル様』にお力添えをいただき、電子書籍を発売いたしました。  短編ではなく一作品として完結させた本作ですが、予めあらすじを言ってしまえば「父が娘を連れて高野山、奥之院を歩く」という、ただそれだけの小説です。勿論

【感想ではなく記録のための雑文】十月に観た映画10作品(2023/10/1~2023/10/31)

今年からはじめた映画の記録。 本を読むのは実はあまり得意ではないので、映画を観ようという流れです。 アマゾンプライムはとうとう月600円に。こうなったら月6本くらいは観たいなと思っています。 例によってアウトプットする準備は一切なく書いています。観てない人から見れば(観た人もかも)意味不明かもしれません。 どうぞすっ飛ばしてください。 水星の魔女 2022年から放映されたガンダムシリーズ最新作。アマゾンプライムで視聴。 人生初ガンダムです。 ものごころついた頃にはすでに

「オットーという男」レビュー・感想

このオヤジある意味めっちゃ日本人っぽいというか、アメリカ人っぽくないなぁなんて思っていたわけだけども。 というか、日本のフィクションにはよくこういうオヤジが脇役として出てくるんだけど、そういえばハリウッド映画ではでてこないよね?って思っちゃう。 ※アマプラなら無料 オットーって実は「夫」なんじゃないかって思うくらいに。 アメリカ親父とはかけ離れたイメージ?なんて思ってたら元ネタはスウェーデン映画のこれらしい。 スウェーデン映画の方はざっと文章を読んだだけだけど、オット

【ネオンカラーの冒険譚】映画『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』感想

目があった人間を操ることができる特殊能力を持った主人公モナ・リザの逃亡劇を描いた映画『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』。 監督は『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』のアナ・リリー・アミールポアー。主演は『バーニング 劇場版』、Netflixオリジナル映画『ザ・コール』、『バレリーナ』などで知られるチョン・ジョンソ。 共演に『あの頃ペニー・レインと』、『ライフ・ウィズ・ミュージック』のケイト・ハドソン。『デッドプール』のエド・スクレイン、クレイグ・ロビンソンらが

【現代のおとぎ話の中へ】映画『ゴンドラ』感想【東京国際映画祭】

東京国際映画祭5本目に観たのは映画『ゴンドラ』。 『ツバル TUVALU』、『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』で知られるファイト・ヘルマー監督の最新作。 実は監督の前作『ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を』を観たのも2018年の東京国際映画祭でのこと。そのため今回の東京国際映画祭でも密かに気になっていた作品だった。 期せずして今回の旅行(下記参照)で最後に観たのはこの作品だったが最後に観て良かった。自分の東京国際映画祭の旅を締めくくるに良い作品だった。 内容は

【中国の新たな才能】映画『ロング・ショット』感想【東京国際映画祭】

東京国際映画祭4本目に観たのは中国映画『ロング・ショット』。中国の地方都市を舞台に工場の警備係として働く男の生き様を描く。 これは痺れた、傑作。これ日本で劇場公開されるんじゃないだろうか。それくらい多くの人に受け入れられそうな作品だと思った。特に男臭い映画が好きな人ならこの作品は気に入ると思う。 監督は今作が長編デビュー作品となるガオ・ポン。なお本作は第36回東京国際映画祭にて最優秀芸術貢献賞を受賞している。 舞台となるのは90年代の中国の地方都市の大工場。 この時代の

願わくばサリエリではなく

サルエリは品行方正であり社会的に成功していていながらも、不徳でならず者のアマデウスの才能に嫉妬し、ノイローゼにさせてしまう殺してしまう。 ならず物のアマデウスとは、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。現代の名声とは裏腹に下品で派手で借金まみれな男。 アントニオ・サリエリ。 宮廷音楽界を上り詰め社会的には絶対的に成功していると言っていいが、映画の中では硬すぎるくらいにキリスト教的な価値観を貫く男が、最後には宗教から科学への時代の変化の象徴ともいえる形で教会ではなく精神

【騒々しく切なくて美しい】映画『ルナ・パパ』感想

6月3日から全国で順次公開されている『再発見! フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅』。タジキスタン出身のバフティヤル・フドイナザーロフ監督の作品を特集した上映イベントとなる。 フドイナザーロフ監督の名前は知らなかったが『ルナ・パパ』という名前は聞いたことがあった。映画友達に主演のチュルパン・ハマートバを凄く好きな人がいて、その人が話していたのがこの作品だったと思う(ちなみにその人のオールタイムベストはチュルパン主演の『ツバル TUVALU』)。 ということで観てきたが

【まさに山崎貴版ゴジラ!】映画『ゴジラ-1.0』感想

11月3日より公開中の映画『ゴジラ-1.0』。 日本を代表する映画キャラクターである「ゴジラ」の生誕70周年にあたる記念碑的作品。日本で製作された実写のゴジラ作品としても通算30作目となる。 監督をつとめたのは『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズをはじめ『永遠の0』、『アルキメデスの大戦』など幾多の話題作を生み出してきた山崎貴。本作では脚本とVFXも手がけている。 主演をつとめるのは数多くの映画に出演している神木隆之介、ヒロイン役に浜辺美波。共演に安藤サクラ、山田裕貴、

【知られざる女性パイロットの生きざま】映画『エア』感想【東京国際映画祭】

東京国際映画祭3本目はロシア映画『エア』。 このご時世、ロシア映画の新作をスクリーンで観れる機会もなかなかないだろう(ただでさえ映画祭で上映される映画だし)ということでこの作品に決めた次第。 舞台は第二次世界大戦時のレニングラード包囲戦。 歴史の表舞台に出ることのなかった女性パイロットと女性技師たちの生きざまが描かれる。 監督は『宇宙飛行士の医者』、『ドヴラートフ レニングラードの作家たち』のアレクセイ・ゲルマン・Jr。 歴史の中から女性パイロットと女性技師を掬い上げ

映画鑑賞記『蟻の王』

「同性愛の映画」ではなくて、「愛し合っていた二人が残酷に引き離された悲劇の映画」だと思って観てもらいたい。  まだ公開始まってない劇場も多いので、極力ネタバレを避けて書きます。……まぁ、ネタバレとか、そういうタイプの映画じゃない気もしますが。 同性愛が病気として治療されていたのは歴史ではなく、ほんの数十年前までの最近の話である ……ってことは、名作『カッコーの巣の上で』を見て知っていました。精神病院の閉鎖病棟に入れられて、人格から何から否定される恐ろしさ。(余談ですが、カ

『東京国際映画祭』に行ってきました。

今年も東京国際映画祭が開幕した。 東京国際映画祭とは毎年10月に東京都で開催される世界中の映画を一堂に集めたイベントだ。 2年前までは自分も参加していたが、愛知に帰省してからはそんな機会や余裕もなく、去年は参加を見送った。 気軽に行けなくなったことで「もう自分には縁のないイベントかな…」と思っていたが、こちらの生活も落ち着いてきたので、思い切って仕事が休みの土日に参加してきました。 この記事では東京国際映画祭の体験を掛かった費用(移動費、宿泊費等)を含めて挙げています。