ドラゴン目黒仮

12:諦めない

これまでのDragon Eye

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タマゴン(ドラゴンの卵)に出会ってから少女の生活は変化した。

暇を見つけてはタマゴンに会いに行くようになったのだ。

だからといって、畑の手入れ野菜を育てることは決して怠ったりはしなかった。少女は基本的には真面目なのだ。

少女はタマゴンに会いにいくと、初めはじっとタマゴンを見つめているだけだった。

しかし、4、5回目を超えるころにはタマゴンに話しかけるようになっていた。他人が見たら少女が洞窟で独り言を喋っているというどう見ても怪しい状態に違いなかった。

けれど、少女は確かにタマゴンと会話をしていた。

タマゴンは少女の会話になぜかタイミングよく、まるで相槌を打つかのようにグラ!グラ! と体(卵の殻)を揺らすのだ。

会話の内容は基本的に少女が外の世界がどうなっているのかをタマゴンに説明するような形で行われていた。

「あなたが今いる洞窟は森という所にあるのよ!」

グラ!

「森というのは木がたくさんあるところを言うのわかる?」

…………。

「そっか木がわからないよね……。そうだ今度来るときに木の枝を持って来てあげる!それを見せてあげればわかるかもね!」

グラ!グラ!グラ!

「うれしいのw?わかった!必ず持ってくるからね!」

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「これがこの前言ってた木の枝よ!」

少女が木の枝でタマゴンを撫でる。

グラ!グラ!グラ!グラ!グラ!グラ!

「ごめんなさい! くすぐったい よねw!ごめん」

グラ!

「これで少しは木がどんなものか分かったかしら?」

グラ!グラ!

「よかった。この枝はタマゴンのそばに置いておくね」

グラ!

といったような話を少女とタマゴンはいつまでも続けていた。

そんなある日少女があることを思いつく。

「タマゴンを絵に描いてあげる!」

タマゴンを絵にしたいと思ったのだ。

少女は次に洞窟を訪れる時、手に母が買ってくれた画材が入った箱を持っていた。それからランプも持っていた。さすがに絵を描くにはこの洞窟は明るさが足りなかったからだ。

さっそくタマゴンの前に陣取り絵を描く態勢に入る。

紙を準備し、筆を出す。ランプの位置も調整しタマゴンにしっかり光が当たるようにする。

準備が整い少女がタマゴンに声をかける。

「タマゴン、今から描くから動かないでね!」

少女はタマゴンなのだから動かないのは分かっていた。けど、自然に声が出ていた。

その時なぜかタマゴンが激しく揺れ出した。

グラ!グラ!グラ!グラ!グラ!グラ!

少女は笑いながら言った!

「動かないでって言ったのにw!」

少女の笑い声が洞窟に響き渡る。

笑いが収まった少女は、もう一度集中力を高めていく。じっと! タマゴンを見つめる……。

タマゴンも少女の集中した眼差しを感じ取ってのか今度は全く動かず静かに静止していた。

沈黙が流れる。

少女が静かにタマゴンを見つめる。

そして筆が踊り出す!白紙の紙という名の舞台の上を筆が駆け巡る。テンポよく、リズムよく、踊るように筆が動く!

シャッ!シャッ!シャッ!シャッ!シャッ!シャッ…!シャッ……!

しかし、徐々にリズムが崩れ出す!少女は少しぐらいのリズムの狂いなど気にせづに描き進めていたが……どんどんズレが大きくなっていった!

そしてついに筆が止まる……。

少しの間、少女は固まってしまった。

小さな声が洞窟に静かに響いた……「なんで?」と、少女自身にも筆が止まった理由がわからなかったのだ。

気を取り直しもう一度集中して描きはじめてみる。

しかし、すぐにまた筆が止まってしまう。

何度やっっても結果は同じだった。

ついには少女の動きも止まってしまった……。

グラ!グラ!グラ!グラ!

そんな少女を励ますかのようにタマゴンがまた体(卵の殻)を大きく揺らした!

少女がタマゴンの動きに気付く。

「ごめんね、タマゴン!我慢してるのはタマゴンの方だよね!私、諦めないから大丈夫だよ!」

そして少女はもう一度筆を動かし始めた。

何度も、何度も筆の動きを止めながら少しずつ少しずつ描き進めていった。

洞窟の中には少女が動かす筆の音だけが静かに響いていた。

その音は途切れることはあれど、消えることはなかった。

ただ静かに、いつまでも洞窟の中に響いていた……。

読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。