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「エンタメ」という言葉への違和感

便利な言葉ですよね「エンタメ」。
色んなことを説明しやすくするというか。

例えば…
「エンタメ業界」と聞けば、TVやラジオ、紙媒体やWEB媒体など、芸能から音楽から美術から映画からドラマから漫画やアニメや時事ネタまで幅広く扱う企業全般を指し示しているので、メディア界隈に関する説明にもってこいですし、アミューズメントパークやゲームセンター、カラオケやタレントショップ、本屋レコ屋アニメやゲームショップなどなど、飲食や日用品以外を扱うお店を大きく括りやすくもしてくれます。

ですがそんな「エンタメ」という言葉で色々誤魔化してきてしまったことが、そもそも「エンターテインメント」を矮小化してしまったのかな?とも思い始めています。


某深夜アニメで、弱小魔術師が強豪魔術師に魔力で敗北し、死した後に国王の子供に転生する、今流行りの「転生もの」をやってたのですが(※作品自体に文句があるわけではなく、あくまでも表現の方法論の話です)、王子が侍女達に囲まれて入浴するシーンで、女性達の乳首が描かれていなかったのです。胸を隠していたわけではなく、入浴中なのであらわになってはいるのですが、胸の丸みだけが描かれていて、先端にあるはずの乳首は付いてなくて、単なる丸い物体が二つ、胸にある状態だったのです。

勿論、テレビ放送上、露骨な性的描写にならないよう自主規制を入れた結果なのだろうと思ってたのですが、なんとなくその表現に違和感が残りまして、原作漫画も読んでみたのです…そしたら原作も同じく、入浴中の女性の胸に乳首は存在してなくて、単なる丸い物体が二つ、胸にくっついてる描写になっていました。


自分はこれで一気に、物語の狙いが分からなくなってしまったのです。

基本的には荒唐無稽なファンタジーの物語ですから、その部分のリアリティーを追求する必要はないのだという判断で描かれているのだと思います。
でも、だとしたら、入浴シーンを描く必要ないのでは?とも思ってしまって、物語の世界観に没入できなくなってしまったのです。

※勿論、表現は人それぞれ、感想も人それぞれですので、作品自体を否定する気はありません。原作もアニメも楽しんでらっしゃる方も沢山いらっしゃると思いますし、作品の世界観にケチをつけたいわけではありません。


表現の狙いとしてエロい要素を入れたかったのか、あるいはストーリー上のリアルさとして生活感を描きたかったのか、はたまたそのどちらでも無いのであれば、何のためのシーンだったのか…自分にはただただ中途半端に映ってしまったのです。

繰り返しますが、方法論の話ですので、作品自体がダメだとか、否定的なことを言っているのではないのです、自由に楽しめる作品だとは思います。

ですがそういう意見を発すると決まって返ってくるのは「それがエンタメだから」という便利な言い方で、それで全て解決してしまってきたような気がするのですよね…表現の違和感に対する感想や批評性が。


2020年代も半ばに差し掛かり、令和6年の時点での基準や常識に照らし合わせれば、深夜とはいえ乳首をガッツリ表現するのが憚られるのも分かります。でもだとしたら、入浴シーンにする必要や必然性もないな、とも思うのです。「エンタメ」なのであれば、様々な表現方法が可能だと思いますので、食事の準備をするシーンでも近しいシークエンスを描けたと思いますし、勉強を教えるシーンとか、洗濯場でのシーンにするとか、生活感のあるリアリティーはいくらでも描けたと思うのですよね。それかエロいシーンだとしても、上手く乳首が見えないような配置、動き、設定にすることも可能だったと思うのです。

まだ始まったばかりなので現時点では作者や製作陣の「狙い」を理解しきれていないだけかもしれませんし、作品を通して伝えたい核となるメッセージ性が失われるわけではありませんが、表現上の中途半端さを受け手に感じさせてしまうのは、作り手としては良くないんじゃないかな、とも思います。
自分も方法は違えど1人の表現者なので、少なくとも自分の中でしっかり突き詰めた表現を創っていきたいなと思いますし、受け手の方に中途半端な印象を与えないよう作品を精査していきたいな、とも思った、という、そんな話です。

一口に「エンタメだから」という言葉で片付けてしまわず、表現の隅々までこだわって、老若男女誰の前に出しても恥ずかしくない作品を作ることこそが、本当のエンタメ…エンターテインメントであって欲しいな、という願望でもあります。そして願わくば、国内の老若男女だけでなく、海外の老若男女の前に出しても恥ずかしくない作品創りこそ、表現者の一つの本懐なのだと信じていたいのです。

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