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教室のアリ 第6話 「4月19日」① 〈ランドセルの大冒険〉

 オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。本当に平和な1週間だった。子どもたちは仲良しグループもできて、給食の時にはみんなおしゃべりをして楽しい雰囲気。配膳の時も、「多目〜!」「少なめ〜!」などリクエストを出すので、よそう時にちょっとだけどこぼしてくれる。それをいただいて、オレは満腹だ(運ぶ「巣」が無いのは悲しいけれど)。給食のあと、5限は体育。みんな元気に飛び出していったよ。教室に一匹残されたオレは窓からグラウンドを眺めていた。オレはその時、涙が出るくらい懐かしい光景を目にしたんだ。

〈アリも人間もやっていることは、『同じ』??〉

子どもたちは9人ずつ4チームに分けられた。すると、身長と同じくらいの柔らかそうなボールを先生が持ってきた。9人はさらに3人グループになった。そしてなんと、先生の合図でそのボールを転がしてリレー競争をはじめたんだ!これには本当に驚いたよ。オレたちが女王様のために毎日やってきたことと全く同じではないか!!子どもたちはとっても上手だったよ。元気に声を出してタイミングを合わせながら手で押して転がすんだ。オレたちと違うところは「手」を使うところ。オレたちは「口」で運んでいたよ。歩くのに6本の足が必要だからね。子どもたちは曲がるのに苦労していたけどすごいスピードだった。あとからわかったこと…これは「子どもたちが頭に紐を巻いて、やたら走ったり、騒いだり、親も騒いだりする日」の練習だったみたい。その練習風景をずっと見ていたら、「みんなと一緒に遊びたい」「子どもたちと友だちになりたい」。そんなキモチが芽生えてきた。活躍していたのは、体が大きく元気なダイキくんだった。転がすパワーがすごかったし、思い出してみると給食もよく食べる(よくこぼすのでお世話になっている)。

〈ダイキくんと友だちになりたい〉

ダイキくんにはある噂があった。「給食の残りをランドセルに隠して、持って帰るらしい。」アリの世界ではそれが良いことなのか悪いことなのかはわからない。ただ一つ言えることは、もしそれが本当ならランドセルにはオレの好物が詰まっているということだ。オレの計画はこうだ。ダイキくんがランドセルに給食の残りを入れる瞬間を見届ける。6限の途中、ランドセルに忍び込む。ダイキくんの家に行き、晩御飯をご馳走になる。(できたら友だちになる)。翌日、ランドセルの中に再び隠れて、5年2組に運んでもらう。
この時はいい作戦だと思っていたんだけど…

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