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組織と個人の成長を導くための人事戦略ージム・ロジャーズ氏の洞察から学ぶ

 『プレジデント2024年5/17号)』は、「毎日ラクになる 任せるコツ」でした。その中でも、「世界的投資家ジム・ロジャーズが伝授 お金の教養がない中高年は、今から何を学ぶべきか?」(p70)は大変興味深い内容でした。

 ジム・ロジャーズ氏は、世界的な投資家として数十年にわたり世界中の経済動向を見続け、数々の経験から多くの洞察を得ています。彼は、日経平均が4万円を突破し、円安、インフレ、少子化といった日本経済の厳しい状況に直面している現在、中高年層が今から何を学ぶべきかを語っていました。彼の洞察をより詳細に解説し、その背景にある意図や日本の中高年にとっての重要性を考察、また、人事の視点でどう考えていくかを考えてみたいと思います。

1. 海外への移住を検討する

 ロジャーズ氏は、4年後の日本の経済環境が悪化すると予想し、可能ならば日本以外の国に移住することを推奨しています(少し強烈な意見ですが)。彼は、地理的なリスク分散の視点からも、将来の安定のために新たな居住地を選ぶことで安全な生活基盤を築くよう提言します。

 ただし、これは日本の将来を全面的に否定するという意味ではなく、現実的な経済リスクを認識した上での提案です。現時点で移住が難しい場合は、日本国内であっても将来の経済的な困難に備えて、お金の知識を増やし貯蓄を行うことでリスクを軽減するようアドバイスしています。

2. お金の教養を身につける

 「お金の教養」とは、お金を稼ぎ、使い、投資し、管理する能力です。ロジャーズ氏は、これを人生における基本的な教養だと位置づけています。しかし、日本では多くの中高年が十分なお金の知識を持たないため、計画的な投資や資産形成ができていないと指摘します。学校でもようやく金融教育が始まってはいますが、まだまだ不足でしょう。

 彼のアドバイスは、少額からでもいいので、まず投資を始めて経験を積むことが大切だと述べています。たとえ30円でも100円でもよいので、実際にお金を動かしながら投資の基本を学び、理解できる範囲でリスクを取ることで、失敗からも教訓を得られます。投資の実践は、いわば経済的な自己教育の一環であり、失敗や成功の経験がより確かな判断力を育てていくのです。

3. 新NISAを活用した資産運用

 2024年より始まった、政府の新しいNISA(少額投資非課税制度)は、個人投資家にとって重要な資産運用のツールです。ロジャーズ氏は、この制度を最大限に活用することを強く勧めており、特に新たに投資を始める人々にとっては、まず口座を開設することが第一歩だとしています。

 政府の政策は日本国民に有利な条件を提供しているため、適切なタイミングでインデックスファンドなどに投資を行うことを提案します。しかし、同時に注意すべき点として、経験不足から来る過剰なリスクテイクや、特定のインフルエンサーの意見に依存することを避けるべきだと警告しています。

4. バブルと暴落への備え

 ロジャーズ氏は、バブル崩壊のリスクを避けるための知識と準備が必要だと強調します。市場が高揚し、人々が投資に熱狂するような時期は危険信号であり、特に高リスクの投資や過剰なポジションを避けるべきです。暴落の正確なタイミングを予測することは困難ですが、市場の上昇圧力が弱まるときには慎重になることが大事です。

 彼は、すべての市場が永遠に上昇し続けることはなく、最終的には必ず調整局面が来ると指摘しています。暴落に備えて、資産の一部を預金や他の安全な金融商品に分散させることがリスク管理の一部として有効です。

5. 健康と幸福を重視する

 ロジャーズ氏は、40年以上毎日運動を続けてきた結果、今も健康であると語っています。これは、長期的な成功や幸福にとって健康が不可欠であることを示唆しています。健康でなければ長く働くこともできませんし、充実した人生を楽しむことも難しくなります。

 また、好きなことを仕事にすることが重要であり、それによって人生をより幸せに過ごせると彼は言います。自分の好きなことを見つけて仕事にする人々は、毎日仕事を楽しみ、長期間にわたって働くことができるため、結果的に成功しやすくなります。健康もまた資産の一つになります。

6. 自分に合った投資戦略の実践

 個人に適した投資戦略を構築するには、自分の資産状況やリスク許容度に応じた方法を見つけることが重要です。ロジャーズ氏は、自己の理解できる範囲内での投資が最善であり、テレビの専門家や他人の意見だけに頼らないことが肝心だとしています。特に、初心者が投資を始める場合は、まず少額から始めて経験を積み、必要に応じて投資戦略を調整することが重要です。

 ロジャーズ氏のアドバイスは、個人が自らの経済的な未来を守るための具体的な指針を提供しています。日本経済が直面する課題を踏まえ、海外への移住、金融知識の向上、新NISAの活用、暴落への備え、健康と幸福の追求、適切な投資戦略の実践など、多岐にわたる指針を通じて、今後の不確実な時代を生き抜くための知恵が示されています。特に、日本の中高年層にとって、これらのアドバイスは経済的なリスクを軽減し、より安定した老後を迎えるための重要な道しるべとなるでしょう。

人事の視点で考えてみる

 ロジャーズ氏のインタビューは、個人投資家としてのアドバイスだけでなく、組織の人事戦略においても多くの教訓が学べます。人事部門は組織のリーダーシップ開発や従業員の財務リテラシー向上、キャリアの成長支援に深く関わるべきであり、経済的な不確実性に備えるための戦略を構築する役割を担っています。ここでは、彼のアドバイスを踏まえ、人事の視点からどのような行動を取るべきかについて考えていきます。

1. お金の教育プログラムの提供

 ロジャーズ氏が強調するように、お金の知識は人生の基本的な教養です。多くの中高年が十分な財務知識を持たない現状を踏まえると、組織として従業員の財務リテラシーを高める教育プログラムを提供することは重要です。たとえば、投資の基本知識や資産の分散、税制上の優遇措置の利用などを学ぶセミナーやワークショップを開催し、従業員が投資の実践とリスク管理について学ぶ機会を提供することが大切でしょう。

 具体的には、従業員が新NISA(少額投資非課税制度)の仕組みや、株式、投資信託、債券といった各種金融商品への投資戦略を理解できるようにすることが重要です。また、自己のキャリアプランに基づいた投資戦略の立て方や、リタイアメントプランの設計をサポートすることも含まれます。これにより、従業員は長期的な資産形成を視野に入れた効果的な投資を行うことができるようになります。

2. 健康と仕事の両立支援

 ロジャーズ氏の40年以上にわたる運動の実践は、健康維持の重要性を物語っています。組織の人事部門は、従業員が健康で生産的な生活を送るための支援プログラムを提供する必要があります。たとえば、フィットネス補助や健康診断、メンタルヘルスのカウンセリングなどの福利厚生プログラムを充実させ、従業員が健康的な生活習慣を確立できるようサポートします。

 さらに、リモートワークの導入やフレックスタイム制度の活用により、従業員が仕事と生活のバランスを取りやすくすることも重要です。これらの施策を通じて、従業員の生産性向上とエンゲージメントの維持を図ります。

3. キャリア開発の機会

 ロジャーズ氏が強調する「好きなことを仕事にする」というアドバイスは、組織の人事戦略においても重要です。従業員が自分の適性や興味に合った仕事を見つけるためには、組織としてキャリア開発の機会を提供し、自己啓発を支援することが求められます。例えば、社内異動プログラムやメンター制度、スキルアップのためのトレーニングプログラムを整備し、従業員がキャリアの方向性を見極め、成長できる環境を提供します。

 また、社内の人材プールを活用し、適性に合ったポジションに従業員を配置することで、組織全体のパフォーマンスを向上させることが可能です。これにより、従業員は自身のキャリアにやりがいを見いだし、長期的に組織で働く意欲を持ち続けることができます。

4. 報酬と福利厚生の戦略

 報酬や福利厚生の戦略を見直し、従業員の資産形成と生活の質を向上させる制度を整えることは、人事部門にとって重要な取り組みです。例えば、従業員のリタイアメントプランとして、DC(確定拠出年金)やESOP(従業員持株プラン)を提供し、従業員が給与の一部を長期的な投資に回す機会を増やします。

 また、住宅ローンのサポートや教育費補助、健康保険の拡充など、従業員の生活全般に関わる福利厚生制度を充実させることで、従業員が仕事に集中できる環境を整えます。これにより、従業員のエンゲージメントと生産性が向上し、組織全体の業績向上に寄与します。

5. 不確実な時代への備え

 ロジャーズ氏が指摘するように、経済的な不確実性に備えることは重要です。組織としては、リーダーシップ開発や業績評価システムの強化、従業員のスキルアップを通じて、組織全体の柔軟性を高める戦略を立てる必要があります。リーダーシップ育成プログラムを導入し、次世代のリーダーを育てることで、不確実な時代においても安定した組織運営が可能になります。

 また、業績評価システムを見直し、成果に基づいた報酬や昇進の仕組みを整えることで、従業員のモチベーションを高め、組織の競争力を維持することができます。経済状況が悪化した場合にも、組織として迅速に対応できる人材を育成することが不可欠です。

6. 変化に対応できる組織文化の構築

 市場環境や経済状況が急速に変化する現代において、組織は変化に迅速に適応できる文化を築く必要があります。人事部門は、オープンなコミュニケーションを奨励し、従業員が意見を自由に述べられる環境を整えます。また、失敗を恐れずに新しい挑戦ができる組織風土を育て、従業員の創造性と柔軟性を引き出すことが重要です。こうした文化を育てることで、従業員は積極的にアイデアを提案し、経済的な変動に対しても柔軟な対応が可能になります。

まとめ

 ロジャーズ氏のアドバイスから、人事部門が果たすべき役割は多岐にわたることがわかります。従業員の財務リテラシーやキャリア開発、健康、報酬戦略などに重点を置いた施策を行うことで、従業員の経済的な安定と組織全体の成長を促進できます。経済的不確実性に備えるためにも、リーダーシップ開発や組織文化の改革を通じて、組織全体が変化に適応し、持続的な成功を収めるための基盤を築くことが重要です。これにより、従業員個人の幸福と組織全体の競争力を両立させ、長期的な発展を目指すことができるでしょう。

投資アドバイスを提供しています。財務リテラシーや海外移住、新NISA、バブルへの備え、投資戦略などの重要な概念を強調している様子が見えます。聴衆は集中して意見を交わしながら話を聞いており、建設的で温かい雰囲気が感じられます。


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