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チークダンスは誰と?

懐かしい曲は、俺の淡い思い出をよみがえらせた。


仕事で外回りをしていたときに、車のカーラジオから懐かしい曲が流れてきた。

マドンナの「マテリアル・ガール」

マドンナ・ルイーズ・ヴェロニカ・チッコーネ
(本名:Madonna Louise Ciccone)
マドンナは、皆さんもご存知のとおりアメリカの女性アーティストです。
音楽活動だけではなく、女優業、作曲家、文筆家、実業家としても実績を収めた女性。
その多様な活動の功績から、世界で最も成功を収めた女性音楽家ともいわれています。

アメリカのタイム誌が選出する「過去一世紀で最も影響力を持つ25人の女性」にも名を並べられ、「クイーンオブ・ポップ」と称させる人女性。1982年にメジャーデビューし、2年後の1984年に「ライク・ア・ヴァージン」でその名を世界にとどろかした。それを皮切りに次々にヒット曲を生み出し、作品の売上枚数は3億枚を超えると推測され、ギネスワールドレコードにおいて、「全世界で最も売れた女性アーティスト」「史上最も成功した女性アーティスト」として認定されている。2008年にロックの殿堂入りも果たした人物。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

その曲の思い出は、高校の体育祭。
俺の高校は、体育祭が終わったあと、学生主体の後夜祭が催されていた。

後夜祭といっても、グラウンドの真ん中にキャンプファイヤーを灯し、それを囲んで、みんなでダンスを踊るだけの単純なスタイルなのだが、

この後夜祭には厳しい参加条件があった。

それは、

カップルでしか参加できないということ。

彼女と一緒に参加してもいいし、仲のいい異性の友達を誘ってもいい。
中には他校の彼女を連れてくる輩もいた。

とにかく、男女二人のペアでないと参加できない鉄の掟があったんだ。

ど田舎の高校なのに、ここだけは、まるでアメリカやカナダの高校で学年最後のときに開かれるフォーマルなダンスパーティーである「プロム」さながら。

男子生徒はここぞとばかりに、気になっている女子を後夜祭に誘うのだ。

俺は実は生徒会の役員だったので、後夜祭への参加というより、
後夜祭を盛り上げる役割が回ってきた。

裏方に回った俺は、ダンパに参加することもできず、気になっている女子はいたものの誘いをかけることができなかった。

グラウンドの片隅にある放送室にこもり、ダンスの曲を流しながら、楽しそうに踊る参加カップル連中を眺めていた。

そのとき、流した曲の一つがマドンナの「マテリアル・ガール」だった。


生徒主催でつくる生徒のためのハピネス。

後夜祭の後半には、静かな曲に選曲し、ムードを盛り上げる。

曲に合わせ、それぞれの男女はチークタイムに突入し、ここで密やかに「告白」なんてことをやったりなんかするから、翌日には多くのカップルが誕生したりなんかする。

後夜祭が生徒主催で行われるのは、こんなハピネスがあるからなのだ。

俺も裏方じゃなかったら、気になっている女子を間違いなく後夜祭に誘っただろう。

俺が裏方に回ったことを話したとき、

「そうなんだ」

と、彼女が少し残念そうな顔をしていたのは、
たぶん俺の自惚れ。

俺の気になっているその子も、俺が誘わなくても、誰か別の男子に後夜祭に誘ってもらったとか言っていたっけ。

彼女モテたから。

二人だけのダンスタイムは放送室の中で。


そろそろ、後夜祭も終盤に入り、静かな曲を選曲しないといけない時間になっていた。

でも、彼女が誰かとチークを踊るかと考えると、チークタイムを演出する気には、なかなかなれなかった。

俺は「マテリアル・ガール」を流し、次の曲をチョイスしながら、視線を走らせ彼女を探した。

けれども、いくら探しても、キャンプファイヤーを囲む生徒たちの中に彼女を見つけることができなかった。

と、そのとき、

「あ、やっぱりここにいた」

放送室のドアを開け、彼女が入ってきた。

「あれ?ダンパは出なかったの?」

俺は驚きながら彼女に聞いた。

「だって小太郎くん誘ってくれなかったじゃない」

彼女は、ニコッと笑顔を見せて、俺の隣りに並び、放送室の窓からキャンプファイヤーの方に目を向け、

「そろそろ、チークタイムじゃない?」

と俺に選曲を促した。

「後夜祭終わるまで、一緒にいてもいい?」

彼女は俺を覗き込むようにして、そう尋ねてくる。

俺は「マテリアル・ガール」が終わったあとに、チークタイム曲を選び、放送用のデッキにセットした。

曲が静かに流れ始める。

「踊ろっか」

そう言って、俺は彼女に手を差し出した。


カーラジオから流れる「マテリアル・ガール」のあとに、
チークタイム曲は流れなかったけれど、

何となく、あの頃の、高校時代の自分を思い出して、少し笑いが込み上げてきた。

俺も若かったな。


「一場面小説」という日常の中の一コマを切り取った1分程度で読めるような短い物語を書いています。稚拙な文章や表現でお恥ずかしい限りではありますが、自分なりのジャンルとして綴り続けていきたいと思います。宜しくお願いします。